4日目1 何やつ
ドンドン!
宿のベッドで気を失う様に眠った翌朝、扉を強く叩く音で目が覚めた。
「朝からなんだ……?」
この世界で知り合いなんて、数える程しかいない。あんな乱暴に扉を叩きそうなのは……テリーさんか?
かなり失礼な思考をしながら、まだ怠い体を起き上がらせ、扉を開きながら返事をする。
「はいはい、なんですかー」
扉を開くと、そこにはイケメンエルフが立っていた。
「お前を殺す」
!?
え、どういうこと!? 真面目に身に覚えがない。この世界に来て四日目の朝、この三日を振り返ってみても、人に恨まれる事などして無いはずである。
「えっと、人違いでは?」
最も確率が高い可能性だ。
「古昌カケルだな?」
俺じゃん。
「え、違いますけど」
つい。
「そ、そうなのか、それは失礼した」
去って行くエルフの男性、しかし階段を降りた後、宿屋のおじちゃんに確認したんだろう。慌てて戻ってきた。
「やはりお前が古昌カケルではないか! この卑怯者め!」
だって、殺すなんて物騒な事を言うもんだから。
「昨日、うちの娘が服をボロボロにしながら、門限を過ぎて帰ってきた」
あ、もしかしてアイリスのお父さん!?
エルフだし、ちょっと眠そうな半眼がそっくりだ。目元は父親譲りなんだな。などと、寝起きのぼーっとした頭で考えていると。
「お前が娘を連れて、森へシケこんだのは分かっているんだぞ!」
しけこむ言うな。確かに昨日はサイクロプスとの激闘で、服は所々破れていたし、帰るのは遅くなったけど。
父親目線だと怪しく見えるのか……? 仕方ない、誤解を解こう。
「アイリスとは、お父さんが想像するような関係じゃありませんよ?」
「お父さんだと!?」
悪意のある切り抜きだろ。話が通じそうもない。
どうしようかと困っていると、階下から救世主が現れた。
「お父さん?」
そう、娘であるアイリス張本人だ。父親は娘に逆らえない生き物のはず、勝ったな。
「ア、アイリス。こんな所に何の用だ?」
こんな所!!
「お母さんが昨日の話をしたら、お父さんが家を飛び出したと聞いて、もしかしたらと思って来た」
「男の泊まっている部屋を知っているなんて……」
「昨日も来た」
食堂にね!? 誤解の無きよう頼む。
「お、お父さんは、一人で若い男の部屋に来るのとか、どうかと思うな」
弱!お前を殺すとか言ってた威勢はどうした。
「魔法を教えただけ。迷惑かけたこと謝って、帰る」
すごい、有無を言わさぬ雰囲気。
「し、しかし」
「しかしじゃない。謝る」
絶対勝てないだろ。諦めなさい。
「ぐぬぬ……その、なんだ。朝からお騒がせして申し訳なかった。話はまた今度にしよう」
ぐぬぬて、しかもまだ諦めきれてないじゃん。
「その話の時はわたしも呼ぶ。呼ばなかったら絶交」
「絶交!?」
アイリス父が絶望に打ち拉がれている。両親揃って娘好き過ぎるだろ。
「じゃぁカケル、また後でくる」
「あぁ。って後で?」
なんかあったっけ?
「魔石の山分け」
そうだった。俺は今日、小金持ちになる予定なのだ。
「じゃあ行く」
廊下を進む二人。
「あの、アイリス。背中をちょんちょん突かないでくれるか? 悪かったって」
うーん、仲良き事は美しきかな? そんなやりとりをしながら、二人は嵐のように去っていった。
アイリス達を見送った後、昨日は疲れてさっさと寝てしまった事を思い出し、ステータスチェックをする。狩の前のステータスがこれだ。
Lv8 HP14/60 MP7/40
str11 vit20 int20 dex10 agi12 luk8 pt 0
スキル
言語理解 鑑定
そして現在のステータスがこちら
Lv17 HP87/87 MP58/58
str20 vit29 int29 dex19 agi21 luk17 pt 18
スキル
言語理解 鑑定火属性初級魔法 水属性初級魔法
めっちゃ上がってない!? 10レベル以降は、ペースが落ちると聞いていたんだけど……。
サイクロプスの経験値、俺も貰えたのかな? あそこまで命懸けな戦いは二度とゴメンだけど、終わっちまえばありがたいぜ!
確認作業に戻る。そういえば魔法にもレベルが有るって言ってたっけ。流石にまだ1のままかな? 火属性初級魔法をタップしてみると、スキルが表示される。
イグニッションLv2 ファイヤーアロー ファイヤーボールLv2 ファイヤーウォール
「上がってるじゃん!!」
サイクロプス戦で比較的効果が出た魔法が、レベルアップしていた。水魔法もウォーターウォールがレベル2になっている。
「すげー嬉しい!」
ニコニコである。ニンマリである。得意満面である。
「ふふふ、つよつよ魔法使い計画は順調に進んでるな! よし、後はいつも通りIntにブッパして、終わりだ!」
初志貫徹、俺はこの世界で大魔法使いになるのだ。レベルアップポイントは、これから全部Int!多分!その予定だ!
Lv17 HP87/87 MP58/94
str20 vit29 int47 dex19 agi21 luk17 pt 0
スキル
言語理解 鑑定火属性初級魔法 水属性初級魔法
よし、これで良いだろう。アイリスが来るまでに諸々の準備をしちまおう。
亡くなったショートソードくんの供養、どうすりゃ良いんだろうな? 鍛冶屋か武器屋持ってけば良いんかな。
後は体も拭いて頭も洗わないとなー。てか風呂入りてぇ。どれだけ湯を絞った布で拭っても、ボディーソープで洗ってた頃と比べると嫌な感じが残る。
異世界あるあるの悩みだが、雑貨屋さんとか巡って解決策を探そう。公衆浴場とかあるんかな? アイリスに聞いてみようか。
そんな取り留めのない思案は、アイリスが到着するまで続いた。