0日目 プロローグ
「お前を殺す」
!?
冒頭からヒイ◯ユイみたいな台詞を吐かれている、俺の名は古昌カケル。何処にでも居るちょっとお茶目な高校二年生だ。
どうして殺害予告をされる様な事態に陥っているのか、長くなるが一から説明させて欲しい。
事の発端は三日前までに遡る。
いつも通りスマホのアラームで目を覚ました俺は、テーブルで開いたままのノートパソコンへ手を伸ばし、視聴途中で寝てしまったアニメの配信動画を止めた。
洗面所でミディアムボブの黒髪についた寝癖を整え、歳の割には幼げな顔を洗う。
「おはよう」
「おはよう。もう八時前よ。また夜更かし?」
リビングダイニングで母と朝の挨拶をして、自分の指定席につく。
若干低めの身長に伸びろ伸びろと念じながら、母の作った朝食を美味しくいただいた。
「行ってきまーす!」
ブレザーの制服を身に纏い、自転車の鍵をポケットに入れて玄関の扉を開けると、少し暖かくなった春の風が頬を撫でた。
「今日は日本晴れ、風も爽やかで良い感じだ」
まるで世界が自分を祝福しているようで、最高の一日になると確信し、希望に溢れた一歩を踏み出す。
学び舎へ向けて息を弾ませペダルを漕いでいると、突然落雷に打たれ死亡。享年十七歳。
え!?
快晴だったじゃん! 雲ひとつない青空だったじゃん!? どういう事なの? 世界に祝福されてるようで? 凄い勘違い野郎じゃねーか!
まさに蒼天の霹靂。ありえないだろ……。
暫くは茫然自失としていたが、時間とは偉大なもので少しずつ我を取り戻し、現在置かれた状況を確認する事にした。
体は半透明。満天の星空のような空間に居るのにも拘らず、見えない床? に腰を下ろせている。
自転車で走行中、空から一瞬だけ稲妻が降ってくるのが見えて、体が半透明で目覚めた事を考えると多分死んでると思う。
「これからどうしたら良いんだ……?」
とりあえず、この場から動いてみようかと、手探りで見えない何かをペタペタと触っていた処へ突如、
七色に発光する小さなオジさんが降ってきた。
!?
「やっちまったか」
発せられたのはやたらとダンディな声。
スティーブン•セ◯ール似で、身長三十センチ程の小さなオジさんは、何かをやってしまったようだ。
「あの……?」
現在の状況がまるで飲み込めていない俺は、ゲーミングセ◯ールに話を聞こうと声をかけた。
「ん?」
「ここは何処なんでしょうか? 貴方はどちら様でしょうか? あ、自分は古昌カケルと言います。ええと……お名前は?」
様々な疑問が頭をよぎり、しどろもどろになって質問を畳み掛けてしまう。
「ふむ。ここは魂の選別を行う為の空間だ。俺は神と呼ばれるモノの一柱で、名前は発音出来ないだろう。そうだな、セ◯ールとでも呼んでくれ」
聞きたい事とツッコミたい事が渋滞していく。
いや、神様ってマジかよ……。
「あの、セ◯ールさんと呼ぶのは勇気が居るので、神さまと呼ばせてください」
諸々の権利へ配慮をかかさない。俺は出来る男なのだ。
「ふん、まぁ良いだろう」
不承不承といった様子だが、同意は得られたので質問を続ける。
「魂の選別ということは、自分はやっぱり死んだんですよね?」
「うむ。お前は雷に打たれた衝撃で心肺が停止。後に死亡が確認されている。正直すまんかった」
おイイイイいいいい
やっちまったって、殺っちまったって事!?殺られちまったの!?
「天罰用の落雷を練習していたら、たまたま」
たまたまじゃないでしょううううおおおお
「だがな、間違いやミスは誰にだってある。広い心で許す事が、いつか自分に自信を与えて、成長させてくれるのではないか?」
いつかが無くなったんですけどおおおおお成長の余地が雷に抉り取られましたけど!?
「流石に無理があるのでは!」
ありすぎるだろ。何とかしてくれないかな!?
「本当は蘇生をしてやりたいのだか、ルール上不可能なのだよ」
神さまを縛る謎ルールの存在が、俺の希望を砕く。
「そ、そうなんですね」
これから俺はどうなるのだろう? 魂の選別って、具体的にはどうやって行うんだろうか。
この神さまに選別されるのは不安だなと、罰当たりなことを考えている時、俺の運命を変える事になる言葉が、神さまから告げられた。
「そうだな、ならこうしよう。魔法の世界へ異世界転生っやつをやろう」
すごい雑!
けど本当は、自称神様が現れた時から期待していたんだ。特別な力を貰って異世界転生!
両親には申し訳ないし、元の世界に未練もあるが、誰だって一度は妄想するだろう? 特別な人間になるチャンスってやつを!
魔法を使って無双したり、地球の知識で大金持ちになって、毎日ダラダラ過ごす夢の生活! 結婚だって出来ちゃうかもしれない! これは神さまに与えられたチャンスなのだ!
だからちょっとだけおねだりしてみよう。
「か、神さまの手違いで死んでしまったという事は、なんかこう、転生特典的なものを貰えたりするんでしょうか?」
「ん? 特に考えてないが?」
おおふ、自力で頑張るしか無いらしい。いやいや諦めるな!
「何もしてないのに死んだのです。神さまのミスで! なんかください!」
「急に厚かましくなったな」
なんとでも言えばいい。いっときの恥で今後の人生が好転するなら安いものだ!
「仕方ない、人の数倍嗅覚を鋭敏に「嫌かもです!!」」
確かに役立つ場面は多いかもしれないが、苦労の方が増えてしまいそうだ。冒険者などが存在する場合相当な苦行になるだろう。絶対くさい。
「ふむ、それなら聴覚を「それも嫌!」」
騒音で精神を病む人は多いと聞く。守りたい、自分の心。
「はぁ、じゃあ触覚で「五感から離れて!」」
感度三千倍とかなりそうじゃない!?
「我儘な……ではどういったモノが良いんだ?」
キタ!
「言語理解に鑑定。全属性の魔法が使えたり、後は無限アイテムバック。莫大な魔力や自身のステータスを弄れる能力なんかあったら良いなって思います!」
言ってやったぜ! 漫画やアニメ、ネット小説などの知識が俺を支えてくれる。ありがとう異世界転生作品! ありがとう世の中のオタクたち!
俺の要望を受けて神さまは少し考えてから、話し始めた。
「言語理解に関しては、この空間の機能で与えられている。鑑定スキルは俺の持つ知識の範囲限定だが授けよう、全属性の魔法は努力次第で得られるはずだ」
なんか凄そうだぞ!
「無限アイテムバックは流石に与えられないが、小さい魔法袋をやろう。収納物の時間が停止するやつだ。魔力は冒険者にでもなり、レベルを上げて自分で割り振れ。転生先はそういった世界だ」
おおおおお!言ってみるもんだな!!
この時の俺は、神さまに与えられたものが実質マジックバッグのみだった事に気づかなかった。人とは愚かな生き物である。
「さて、俺も忙しいんだ。町に近い森の中へ転送するぞ?次は天寿を全う出来るといいな」
どの口で言ってんだこいつ。
「では、またいつかな」
「はい! ありがとうございました!」
こうして俺は異世界に旅立った。大きな期待と少しの不安、体を包む高揚感と共に。