オタクに優しいギャルに告られた?
「私と付き合っちゃう?」
そんな軽い言葉で交際を打診されました、まる。
真の陽キャともいえる、クラスどころか学年全員に話しかけても笑顔を返しちゃうような、そんな陽気なキャラではなく太陽なキャラ、西島 花梨さん。
彼女がハマったというゲームをクラスで唯一やっていたというだけで最近よく話すようになった。
そして似たようなジャンルで複数人プレイが可能なゲームを紹介して陽キャは陽キャ同士で楽しめ!と離脱しようとして何故か失敗した。
「そのゲームなら君と一緒にゲーム出来るってこと?
いいじゃん、楽しそう。」
そう言って何故か更に距離を縮めてきた彼女。
こりゃマズイ!と勇気を振り絞って『西島さんがこれからやるゲーム』とクラス中に情報を流したが、そこまでゲームは流行らなかった。
わざわざ一緒のゲームをやらなくても太陽は皆を照らすから。
具体的に言うと誘えば予定を調整したり「じゃあこれから◯◯達とカラオケ行くけど一緒に行く?」となったりしてくれる。
興味の薄いゲームをやり始めるメリットは予想以上に薄かったようだ。
そうして、彼女と俺の一方的に縮まってしまった距離を適正な距離に戻す企みは失敗したのだ。
そうして暫くの時間が過ぎ、面倒な事や不穏な空気が出始めた頃に告白された。
「好き」なんて言われていないが、彼女が誰かに付き合う打診をしたのは学校内では初めてではないだろうか。
人気者の彼女の色恋沙汰なんて噂にならないワケないからね。ホント。
教室に女子が数人残っている状態で言うもんだから、明日から噂が駆け巡ることでしょうよ。
学校で特に親しい友人もいない俺が学校の噂の主要人物に踊り出ちゃうよ。
正直な話、かなり迷惑。
「いや、付き合うのは無理でしょ。
あれでしょ?確認だけど彼氏彼女になりますかって事だよね?
無理だよ。好きとか好きじゃないとかそんなレベルにも達してないよ。」
彼女ならば俺を取り巻く環境の変化に気付いているだろう。
『人気者がぼっちに過剰にかまい始めた時の周りの反応』なんてほとんど一択だよねって話。
直接的な被害はまだない。まだ、ね。
ただ存在が認識されてしまったし、孤立している弱者で攻撃する理由があるのに攻撃しない人間なんていないよね。
だからこそ『付き合ちゃう?』ていう打診なのかもしれないけど、悪手だ。
明日から俺引き篭もろうか迷うレベルの悪手。
「えっと…?」
「あのね、住む世界が違うというか基本属性が光と闇みたいに真逆というか、そんな感じなの分かる?
『ゲーム』っていうクッションがあるからなんとなく話せてるだけで友人と呼べるかも怪しいレベルで合わないんよ。
生息地が違うの。なんとなく分かるでしょ?
隠キャと陽キャは混ざるな危険だって。」
「そんな、隠キャとか陽キャとか…」
「俺は自分の事隠キャだと思ってる。
そして君のことトップオブ陽キャだとも思ってるよ。
優しい西島さんの事だ。俺が自分を卑下していると勘違いしたかもしれない。
でもね、違うよ。生息地や属性の話なんだ。
俺は人付き合いに積極的ではないし『皆』と遊ぶっていうのが苦手なだけなんだ。
でも人付き合いに消極的なワケじゃないしちゃんと学校外でコミュニティに属してたりする。
仮に西島さんと俺が付き合ったとして、デートどこに行くのさ?
共通項がゲームだけなんだよ。
お家デート一択かい?それは色々オススメ出来ないよね。
でもゲームをする以外お互いが楽しいと思えるモノが見つからない。
カラオケもボーリングもショッピングも西島さんと俺のテンションが違い過ぎて多分グダグダになるだろうし、西島さんってゲームもこのジャンル以外あまり興味ないでしょ?
普段行動する場所から違うし基本的なテンションも違うんだから、どう頑張っても友人になるのも難しいでしょ。
あ、ごめん、西島さんを拒絶してるワケじゃないんだけどね。」
一気に捲し立てた。
もうここ最近のストレスを吐き出しちゃった気分。
『拒絶してるワケじゃない』ワケないじゃん。
学校内で友人がほしいかほしくないかでいえば欲しいよ。
好きでぼっちしてるワケじゃない。
でもぼっちにだって友人を選ぶ権利くらいあるハズなんだ。
俺は複数人と遊びに行って「ウェーイ!」と騒ぐのが嫌いだ。
同調圧力を感じる付き合いは面倒なのだ。
周りの人間は同調圧力をかけていると思っていないかもしれないけど、基本的なテンションが違う俺にとっては圧力になるんだ。
そんな人達と良く遊ぶ西島さんと友人になる?
嫌に決まってるじゃん。
「これから仲良くなっていくじゃダメなの?」
「うん、あのね、仲良くなるのは俺も良い事だと思うし大歓迎なんだよ。
でもさ、人それぞれの距離感ってあるじゃん。
…例えば一緒にゲームをする時西島さんって隣に座ってゲームしたがるじゃん。
でも俺は対面に座ってゲームしたい、みたいな。」
「え、隣に座るの嫌だったの!?」
「違う違う違う!例えばだって!
人付き合いにおける距離感の話を分かりやすく例えようとしただけ!」
「隣に座ってゲームするのは嫌じゃない?」
「うん、それは嫌じゃないよ。
お互いのゲーム画面も見やすいし対戦じゃないのに対面に座る意味ないよね。
でも俺はゲームを楽しみたいから腕が触れ合うほど近くでゲームするのはちょっと遠慮したいかな。
ゲームに集中しづらくなるし。」
ゲームに対するテンションの違い。
多分西島さんにとってゲームはカラオケとかと一緒で『仲良くなるツール』としての役割も担う娯楽なんだと思う。
けど俺は結構真剣にゲームしてる。
ゲームに集中したい時だってあるし和気藹々とする娯楽じゃない。
「でも一緒にしてるんだよ?」
「うん。だからテンションの違いだね。
俺はゲームを真剣に真面目にするのが楽しい。
西島さんはワイワイするのが楽しい。
ワイワイする人を否定しないし拒絶もしないけど、ワイワイしたい人とずっと一緒にはしないかな。
西島さんは何か真剣に夢中になるモノはないかな?
それを遊びでやる人達とずっと一緒にやりましょうってなったら嫌じゃない?
仲良くやるのは良い事だよ。
ワイワイするのも嫌いじゃないよ。
でも楽しみ方の違う人とずっとは嫌だ。
俺と西島さんは行動範囲も行動原理も何もかも違うんだよ。
違うからこそ仲良くなれる部分もあると思うけど、彼氏彼女は違うでしょって話。」
「………。」
「どんなつもりで西島さんが『付き合っちゃう?』って言ったか分からないけど、それは無理だよね。
そりゃ西島さんみたいな魅力的な女子にそんな事言われたら『ヒャッホイ!』てなるけど、冷静になったら付き合っても明るい未来が想像出来ないや。」
「……………。」
「……………。」
この状況どうしたら良いのかな?
もうどうにでもなれって本音ぶっちゃけたけど、黙られると冷静になっちゃうよ。
かなり失礼な事言った気がしてきた。
ていうか言い過ぎた。明日から学校来れるかな?
ガンッ!!
キャァーーーー!!!!
いきなり視界が回り頭に激痛が走り目の前が暗くなっていく中で、西島さんの悲鳴だけはやたらと耳に届いた。
病院のベッドで目を覚ました俺は微妙な目線を送ってくる親に状況を聞いた。
まず俺はとある男子生徒に思いっきり殴られた。
殴られた勢いで机の角に頭を強打し流血して意識を失った。
救急車とパトカーが学校に来る。クラスに残っていた女子が通報した模様。
大騒ぎ。
俺は検査に以上はなく3針縫って側頭部に楕円形のハゲが出来た。泣くぞ。
で、俺を殴ったとある男子は西島さんを大好きな暴走特急さんだったみたい。
俺が西島さんにストレス爆発させていた最中にもうクラスのチャットグループは大盛り上がりで簡単な実況もされていたと後で知った。
暴走特急さんは下校途中にそれを見て学校に引き返し、俯く西島さんとそれを真顔で見つめる俺を見て渾身の右を俺に食らわせ、意識の無い頭から血を流す俺に馬乗りし何か喚きまくっていたところ先生に羽交締めされそれを振り払おうと暴れに暴れて警察に捕まった。
学校は大変だねって言ったら「アンタも大変だよ」って親に呆れられた。
まあね、俺もこれで有名人だ。悪い意味で。
この日はもう夜中だからと親は退散。
俺もする事がなく身動きも取れず無理矢理寝た。
念の為と病院でもう一泊して退院。
チャットグループで大まかな学校の状況を把握した。
俺が淡々と馬鹿やらかしていた処も実況されていて本格的に引き篭る選択肢が出てきた。
暴走特急さんはもちろん退学。
ウチの両親も「手加減はしない」って穏やかな笑顔で言ってた。
チャットでは俺を茶化す人もいれば非難する人や暴言を吐く人もいて、入院までした俺を心配する声はなかった。
暴走特急さんに同情する人までいて「なんだかなぁ」としか言えなかった。
学校にパトカーまで入っていったこの事件は地域誌にも載ってしまい俺は居場所を無くしてあの件以降一度も登校する事なく引越した。
強すぎる光は闇をより濃くするって事かな…とカッコつけたら親に頭を叩かれた。
「よりによって頭叩くかな⁉︎」と抗議したら「バカは治ったか?」と心底呆れた顔で言われて「ウキーッ!」と退化しましたアピールでお茶を濁した。
ホント、陽キャと隠キャは混ざるな危険だよ。