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「でも魔物がどこにいるかわかんないよ?」

 覚悟を決めた矢先に姉にそんなことを言われる。

 しかし自分には、森の中で迷子になった時用の秘策があった。

 魔力で形成した弓を使い、魔力で作った矢を作り、おもむろに上空へ向け放つ。

 魔力で形成された二つは超常の力を持って、暗闇の森の天井に人一人分程度の風穴を開ける。

 そして森の天井は晴れ、覗く青空と少しばかりの雲が見えた。

「あっちが北かな」

 今の時間帯は正午を過ぎたぐらい。

 雲の動きと暗闇を照らす日差しを見て、方角を確認して、今度は村がある方向、北へとまた、弓を引く。

 今度の矢はシャフトに自分の魔力の糸を巻き付けて放つ。

 矢は真っすぐにその方向へ飛んでいき見失う。しかし絶対的な北の方向は魔力の糸が指し示してくれる。

「多分これを辿ってけば、村につくと思う」

「でも魔物は?」

「合わないかもしれないけど、その時はその時。まずは帰れるように安全確保しないと」

 そう言いながら、現在持っている魔力を矢筒とありったけの矢に変える。

 矢筒に矢を全て差し込み、腰辺りに横向きにして背負い

「スキル『ギンコウ』」

 『ギンコウ』を発動する。すると半透明の青色のをウィンドウが現れる。

 自分の名前と、姉の名前が書かれている。

 自分の名前を押すとそこには自分のレベル二六に、総経験値二百三十万と少し、そして預けられている経験値の〇が表示される。

 総経験値を押し、テンキーが現れそこからALLを押し決定を押す。

 するとレベルが下がり、ステータスが下がったことによって、体から力が抜けていく。

 スムーズに動けていた感覚が鈍り、まるで体が重くなったかのように感じる。

 だがこれでいい。

「よし。これで戦闘準備は万全」

「ん? 何だか魔力量減った?」

 姉も自分と同じく、目に魔力を集中させていので、自分の魔力が見えていた。

 そのため自分のステータスが下がったことに気付き、首を傾げながら聞いてきた。

「うん。レベル下げたから」

「えぇ! そんなこと出来るの!?」

「出来るよ。レベル一だけど、これでもレベル十相当の戦いは出来るから安心して」

 何故だかよくわからないが、レベル一になっても魔力以外はステータスの半分ぐらいはある。

 逆に魔力はレベル相応の状態のため、先ほどまで目に魔力を集中させてみていた世界もかなり変わっていた。

 はっきりと見えていた木や地面から出ていた魔力が今では、産毛が少し生えた程度にしか見えない。

「どうかしたのバンク? 顔が少し怖いよ」

「ううん。何でもない。それより早く行こ?」

「うん……」

 少し苦い記憶を思い出したが、すぐさまに頭を振ってかき消す。

 それから少しばかり抵抗感はあったものの、姉に手を握ってもらい、暗闇の中から出るべく魔力の糸を辿る。

 すると一分程度で先ほどの魔物の叫び声が聞こえてきた。

 幸いにも魔物の魔力量は自分の目でもはっきりと映るくらいにはあり、戦闘への支障は無さそうに思えた。

「姉さん、見守ってて」

「うん。危なかったらお姉ちゃんが助けてあげるから安心して」

 姉の手を離し、矢筒から矢を取り出す。

 ただその動きはどうしてもぎこちなくなってしまう。

 当然ではあるが、自分は矢筒を持った戦闘は想定したことがある。練習でスムーズに出せるように練習もした。

 だが今、レベルが一、経験値が〇の状態ではそれも関係ない。すべてが初見。初めてやる動作に等しい。

 歪な弓の構え。

 だが知識からその弓の構えを修正していく。

 技術力は十レベル。すぐさまに弓の構えが修正され熊めがけ、ある仕掛けをした矢を放つ。

「チッ」

 矢はお粗末にも直線状には進まず、横にそれて熊に刺さることはなく後ろの木に刺さる。

 しかし体は何となくではあるが、その行為に慣れを見せた。

 熊は徐々に近づいているのは目に見え、自分は矢が刺さった方向へと、熊を中心に回るように走る。

 熊は自分の動きに合わせ、四足歩行の体を一度止めてまた走ってくる。

「引っかかったな。クマ公」

 自分は足を止めることなく、矢筒から一本を出し魔力を込める。

 すると先ほど放った矢と矢筒から取り出した矢の二つをつなぐ、網目状の魔力が現れる。

 その矢を今度は先ほど放った弓とは逆方向へそらすように放つ。

 これで網目状の魔力で少しでも足止めできればと思ったがそうはいかなかった。

 矢は木に刺さるよりも早く、網目状の魔力が熊に触れたことによりその挙動を変えた。

 矢は熊に引っ張られ、真っすぐ飛んでいたのが弧を描くようにして、熊の逆側の腹部へと巻きつく。

「思ってたのと違うが、結果オーライ」

 体に巻きつかれて、少しばかり思うように動けなくなり、足を止めた熊。

 そこに本気の三の矢を放つ。

 二射を放ったことにより、矢の構えがまともになったことにより放たれた三の矢は、狙い通りの場所へと吸い込まれる。

「ぎゃあぁぁ!」

 首の側面に矢が刺さった熊は、甲高い声を上げる。

 そして自分は確信した。

 勝てる。と

 熊は二足歩行になって、刺さった矢を手で抜こうとするが、その矢は熊と同じか少ししたぐらいのレベルの矢。

 ちょっとやそっとでは壊れない。

「その首じゃ、体が干渉してさぞ曲げにくいだろうな」

「がああぁぁ!」

「あっこら、逃げるな」

 熊はいとも簡単に網目状の魔力を破ると、自分から逃げるように二足歩行で体の向きを変え、四足歩行になって颯爽と逃げる。

 追い打ちで矢を放とうとするが、仕留めきれないことを考え、残りの矢は残しておいた方がいいと諦めようとする。

「何逃げてんのよ! 私の弟が命張ったんだから、あんたも命掛けなさいよ!」

 しかし自分が諦めたところに、姉が熊の進行方向へ飛び出す。

 そしてその壊れかけの木の剣に魔力を乗せて、熊の顔をかちあげるように振るう。

 バキッと完全に木の剣が壊れる音。

 ただ同時に熊の鳴き声が。

 そして次には巨体の熊が地面へと落ちるドシンと地響きがする。

 巨体の熊は仰向けに倒れ、大きく腹を見せている。

「姉さんやりすぎだよ」

「だって逃げるんだもん!」

 仰向けに倒れた熊は、起き上がろうと体を揺するが、首に刺さった矢が地面に干渉してか、起き上がるのに苦戦している。

 そんな熊の姿はまるで仰向けになった亀の様だった。

「これで決着とは、納得がいかないけど、逃げたお前の判断ミスだ」

 矢筒から一本、一本矢を出し、弓にセットしては放つ。

 熊はそのたびに苦しそうに鳴くが、関係なく放つ。

 やがて、熊の体から魔力が霧散し、岩や木と同等の魔力だけを残すのみとなった。

 熊は死んだ。

 この世界は弱肉強食。

 自身に害を為そうとするものを殺すのは当然だ。何故ならそうしなければ、自分が殺されるのだから。

 だからこそ、戦った相手を殺すことに躊躇いはいらない、後悔もいらない。

 そういう世界なのだから。

 ただそうは分かっていても、前世も含めて初めて命を奪ったという事実は、素直に喜べるようなものではなかった。

「神経削るな……」

 複雑な心境の中、熊に向けて手を合わせる。

 それがせめてもの手向けと思い。

 すると姉が後ろからしなだれかかってくる。

「凄いじゃんバンク!」

 姉は喜色を含んだ声色で、自分のことのように喜び頭をなでて褒めてくれる。

 間違ったことをしてしまったのではないかという罪悪感が少し楽になり、逆にこれがこの世界なのだなという不安が両立する。

 複雑な心境だが、姉が喜んでくれているので、とりあえず目の前の出来事を自分も喜ぼうと思った。

 生まれて初めて危険に立ち向かい、勝利した。

 苦難という程ではなかったが、勇気を出したのだ。

 それだけでも、上々と言えるだろう。

「くすぐったいよ。姉さん」

 そうして姉になされるがままにされていると、半透明の青いウィンドウが現れた。

 半透明の青いウィンドウには三千六百程度の経験値を獲得したことと、五レベルに上がったことが書かれていた。

 十レベル程度の魔物が十ぐらいしか手に入らなかったことを見るに、レベルが低ければ低いだけ、経験値に上昇補正が掛かるといった、老人の言葉は正しいようだ。

 そしてその事実が、バインドエンドの頂上へ、最強と最高の冒険へと誘っているようにも思えた。

「楽しいかな?」

 自問自答をすれば、ワクワクした。

「お姉ちゃんはバンクと一緒にいると楽しいよ!」

 どうやら姉も同じ気持ちだったらしい。

「ならもっといっぱい楽しいことしよ!」

「うん! それじゃ冒険に――」

「行かない! 帰るよ姉さん! 楽しいことはまた今度!」

 背中にのしかかりながら、前方へと指差す姉を抱っこして、自分は北へと続く魔力の糸に沿って歩き出す。

「えぇ、ワクワクしてきたところなのに~」

 足をじたばたとさせて、肩を左へ、右へと引っ張たり押したりと姉に体全体を揺さぶられ、ため息が出る。

「姉さんはやっぱり危機感が足りてないよ」

「そんなことないと思うけどな~」

 体を破壊される前にさっさとレベルを元に戻し、僕たちは村へと帰った。

 村の外へ出ていたことがバレた僕と姉は、当然のごとく叱られた。

 危ないだろう! と言われ、ぐうの音も出ず、ただただ叱られ続けた。

 父と母を思ってか他の村の人たちの助言で、父と母は早退し、一度家族全員で話すことになった。

 そして現在、ご飯を食べながら、事の経緯を説明した。

 説明しながら思ってはいたが、父と母の反応は芳しくない。

 また叱られるのかと内心うんざりしていると父が確認するように聞いてくる。

「本当に森で二人よりも大きい魔物に襲われたのか?」

 よくわからず僕たちは首を縦に振る。

 すると父と母は顔を見合わせる。

「その魔物は、二人とあんまり変わらない魔力量だったのよね?」

 これにも首を縦に振る。

 すると二人はまた顔を見合わせる。

 まるであの魔物が、何か重大な問題を抱えているような話しぶり。

 すると父は席を立ちあがり、駆け足で外に出ていく。

「父さんどうしたの?」

「何でもないわ。ただお仕事に戻っただけだから」

「やっと終わったー」

 姉はお叱りが終わり、食べ終わったご飯を前に体を伸ばす。

 ただ母の神妙な面持ちは変わらない。

「二人とも、いい機会だから当分の間お母さんが遊び相手になってあげる」

「えっ! いいの!」

 姉が間髪入れずに反応した。

 ドラゴネート帰りの冒険者である父と母はこの村一の腕利き。

「ええ、だから約束して? 森には絶対入らないって」

 そのためいつもは村を守護するため、朝と夜以外はいないことが多い。

 そんな母が遊んでくれる。

 子供としてはこれほど喜ばしいことはない。

 ただ自分は、どんな脅威があの森の中にいるのか、不審に思わずにはいられなかった。


おまけ

 魔物には家族がいた。

 友人も、親戚もいた。

 それは群れだった。

 魔物の住処は地中深い洞窟の中だった。

 食べ物は岩や鉱石。他の魔物からすればそれは食べられるものではなかった。

 しかし魔物は食べることができた。

 地中深くの純度の高い魔力を持った岩や鉱石を。

 そのおかげで魔物たちの肉体は戦わずして、岩や鉱石のような強靭な肉体を持つようになり、豊富な魔力を手に入れた。

 競争相手がいない中で育った魔物たちは、魔物にしては珍しく温厚な性格になっていった。

 洞窟の入り口に稀に見える魔物相手にも、襲うことはなくただ遊ぶように見守るだけ。

 稀に見る魔物も、その魔物を襲おうとはしなかった。

 何故なら、その魔物が圧倒的に強いことを分かっていたから。そして食べたとしても何の利がないことを知っていたから。

 そうして安全な世界で体ばかりが育っていた魔物。

 だがそんな魔物たちの前に異変が起こった。

 魔物はいつものように、岩や鉱石を見境なく食べていた。

 すると突如として、魔物の泣き声が洞窟内を木霊した。

 聞いたことない仲間の声に魔物は動転した。

 周りを見ると、そこには魔物の父と魔物の母を争いあっている瞬間があった。

 魔物の父は大きな手で、魔物の母の体を切りさいた。それは二度目で、魔物の母は頑丈な体から初めて出る血と傷の痛みに驚き、四足歩行だった体を起こす。

 すると魔物の父はそれを狙っていたかのように、襲い掛かる。魔物の母は転がされ、必死に抵抗するが、魔物の父は構うことなく、容赦なく、ただただ魔物の母の首を噛みちぎった。

 何度も、何度も。

 例え吐き気を催すような血で口が濡れようが、魔物の母が既に動かなくなっていようが。

 母の肉を食べていた。

 そして魔物の父が、魔物の母の肉で口を濡らしながらギロリと、周りを見た。

 瞬間、魔物の本能が危険信号を発した。

 魔物は一瞬にて、逃走を選択した。仲間が逃げているのか定かではないが、魔物は逃げた。

 魔物の後ろから何かがずっと追いかけてくるような感覚があったが、ひたすらに逃げ続けた。

 そして無事洞窟から飛び出し、森へ出た魔物。

 だがまだ怖い。

 森へ出た魔物はとにかく走った。

 右左前後、分からなくてもとにかく走り続けた。

 怖い、が無くなるまでただただ走り続けた。

 そうしてたどり着いた場所は何処かもわからぬ場所だった。

 しかし魔物は安心した。

 そして腹が減った。

 いつもなら、洞窟の中で岩や鉱石を食べるが、あそこに戻る気はさらさら起きなかった。

 ならどうするべきかと悩んだ魔物は、父の姿を思い浮かべた。

 だが仲間は食いたくなかった。

 だから他の魔物たちを食べようとした。

 しかし魔物たちは素早かった。魔物がどれだけ追いかけても、襲い掛かろうとしてもすぐさまに逃げてしまう。

 魔物の腹はますます減ってしまった。

 仕方なく、魔力の低い石をかじるが、あまりにも量が少ない。

 魔物のお腹は減ったままだ。

 そんな時魔力量の濃い、魔物を見つけた。

 魔物には凄くおいしそうに見えた。いつも通り襲い掛かった、すると魔物は逃げなかった。

 食べれると思った。

 だがその時、横から凄まじい力で飛ばされてしまう。

 痛かったが、岩が落ちてきた方が痛かった。なんてことはない。

 だが問題なのはそれのせいで魔物が逃げてしまったこと。

 魔物は追いかけた。そしてまた見つけた。

 今度こそは逃がさないと追いかけた。すると変なものが絡んできた。

 どかそうとしていると、ブスリと首に痛みが走った。初めての感覚。そしてほのかに香る血の匂い。

 魔物はパニックになった。

 変なものは身動き一つで破れ、逃げようとした。

 だが、またしても凄まじい力で飛ばされる。

 仰向けになり、動けない。逃げれない。

 さらにパニックになる魔物の思考の中で、痛みが胸にはしった。

 いたい。いたい。

  助けて。助けて。

 魔物がどれだけ叫ぼうとも助けは来ない。

 いや、助けは来た。

 母が、友人が、親戚が、仲間が、

 森の中から姿を現し、その魔物の元へとやってくる。

 魔物もいつの間にかいなくなり、痛かった体が何もなかったかのように軽く、お腹も減っていない。

 そして魔物は幸せの中、仲間や家族についていき――

 死んだ。

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