異世界に続く扉の先にはヤベェ奴がいた
自分の家の物置部屋の扉がいきなり別世界に繋がっていた時はどうするのが正解なんだろうか。
私はどこにでもいるような平凡な高校二年生で名前は藤堂美琴。家族も至って普通だと思う。
一応この扉を一回閉じてみて、また開けてみた。うん、繋がってるね。しかも何度やっても同じだ。
とりあえず、扉を開けたまま入ってみる。うん、めっちゃ草原、見渡す限り草原。あと、風が気持ちいい。
そしてこういう時には言わないと気が済まない言葉があると思うの。
「ステータスオープン!」
ブオンッ
「うおっ」
マジで出た。そしてあんまり情報が多くない。
【名前】藤堂美琴
【年齢】17歳
【性別】女
【レベル】1
【特殊能力】誘いの扉
【称号】異世界人
【加護】なし
誘いの扉って何よ?…あ、詳しく調べられる。どれどれ…。
誘いの扉:使用者が行きたいと願う場所、或いは望まれている場所へ繋がることの出来る扉。使用制限なし。血統相続。
…これは、私が異世界に行きたいと望んでしまって繋がった感じか…。仕方ないね。誰しも一度は異世界転移とか転生したいって思うものだもの。
開けたままの扉を閉めてみる。あ、消えた。ヤバイ、呼んでもう一回扉が出てくるか試さなければ。
「誘いの扉!」
ヒュンッ
出たわー。良かったー…。これだけ分かったら異世界探索しよう。何時でも帰れるみたいだし。
一度家に帰って、運動しやすい服装に靴、食べ物、水筒、あと一応何か家にずっとある杖っぽいやつ。鈍器代わりに使えると思う。
扉を潜って草原をサクサク歩いていく。
うん、すっごく快適。日本もこんな気候だったらいいのにと思うぐらい最高の散歩日和。
30分ぐらい景色を楽しみながら進んでいると、スライムが現れた!
とりあえず、杖を構えるが、スライムはムシャムシャと草を食べているだけで全然こちらに反応しない。
無害なのであれば放置で!という訳でまた歩き始める。
スライムを無視しながら進むとやっと街に着くことが出来た。こういう時は冒険者ギルドに行くと相場は決まっているのだ!
…。
行ったら普通に登録出来てしまった。
受付のお姉さんとーってもキレイで優しかった。他の冒険者もあんまり怖くなかったし。
あと、スライムは討伐対象でした。草だけでなく、作物とか家とかも食べてしまうんだって。すごいね、家食べるって。ビックリしたよ。
街を出てスライムを狩ってみる。
うん、簡単。杖で「えいっ」ってするだけで倒せちゃう。
5匹目を倒し終わったらいきなり身体がポカポカしてきた。ちょっと確認してみよう。
「ステータスオープン」
おお!レベルが2に上がってる!早いね!それに目に見えるってなんか楽しい!
調子に乗って沢山スライムを倒してしまいました。
討伐証明のスライムの心臓(?)辺りにある不思議素材、魔石っていうのを冒険者ギルドで渡したらすごく驚かれました。結構いい額の報酬でした。
あと、魔石があるのが魔物なんだって。受付のお姉さんが教えてくれた!
意外とスライムを倒すのが楽しくってほぼ毎日異世界に通った。
おかげで魔法も使えるようになったし、レベルは上がったし、スライム被害がなくなったとかで感謝もされて超happy!
しかもレベルが上がったからか分からないけどこっちでの生活の何もかもがうまくいってる。
先ず勉強。
これは大の苦手だった英語がスラスラと言えるし、理解出来る。他の教科も全然躓かないし。それでテスト勉強あんまりしなかったのに学年10位以内にいきなり入ってしまった。
次に運動。
体育の時間が前は憂鬱だったのに、今は思うように体が動いてすっごく楽しい。頑張りすぎて運動部に勧誘されて断るのが大変だった。でも、嬉しくってニヤニヤが止まらなかった。だって、一度くらいこんな漫画みたいな体験したかったんだもん!
もう、異世界最高!!!
今日は魔法で何か倒せたらいいなと思って森にやってきた。冒険者ギルドで聞いてきた倒してほしいリストには確か…。
思い出しながら歩いていると魔法の爆発音のような音が聞こえてきた。
多分誰かが戦っているんだろうなあ。こういう時は近づいて確認して、助けが必要なら手伝って、いらないなら移動するんだよね。冒険者ルールというやつである。
警戒しながら音のしている方へ近づいていくと、予想より多い人達が戦っていた。
しかも何か鎧が豪華だし、統一されている気がする。軍とか騎士団って言われたら納得しちゃう感じなんだよね。
あと、魔物が今まで見てきた中で一番大きい。ちょっと尻込みしちゃう。
倒せそうなんだけど、怪我人がいっぱい出ているみたいで苦戦してる雰囲気があるから一応聞いてみようかな。
「あのー!お手伝い入りますか!」
声を思いっきり張り上げてみたんだけど聞こえたかな?
「おお!冒険者か!是非頼む!!」
お!聞こえてたみたい。何回も同じこと言うのちょっと恥ずかしい時あるから良かった。
「はーい!魔法で援護しまーす!」
一応何をするかを伝えてから魔法を放っていく。私のお気に入りの攻撃魔法、氷の槍を食らうがいい!
心の中だけでそう言いながら氷の槍を放つ。この氷の槍は強度だけでなく、見た目にも拘ったから是非皆に見てほしい。
あ、足に当たったみたい。動けなくなったみたいですぐに皆さんが畳みかけて倒しちゃった。役に立てて良かった!
あ、剣を収めた責任者っぽい男の人が二人こっちに来てるんだけど、なぜかすごく逃げたい。片方の人すごく私を睨んでいるし。
…逃げよう!こういう時は自身の勘に従え!
回れ右をして全力で走り出す。そしたらまさかのその人も追っかけてきた?!女の私では勝ち目ないんだが?!
…あ!扉を出して家に逃げ込もう!
思いついたと同時に視界を遮れそうな岩に方向転換をして後ろに隠れたと同時に扉を召喚、飛び込んで扉を閉めた。
…まだ心臓がバクバク言ってるよ…。にしてもあの人は何だったんだろ…。もう会うこともないよね…?
あの追いかけてきた人にまた会うのが怖くて、2週間くらい行くのをやめていたけど、やっぱりあの楽しさを知ると行かないなんて無理だった。
そして久しぶりに来た異世界は本当に楽しい。今は稼いだお金でお買い物中だ。ご飯も異国風な感じでおいしいし、大道芸とかしてて面白いし、雑貨屋さんは可愛いし、大満足!
そんなルンルンに店を眺めながら石畳を歩いている時だった。前から歩いて来ていた人とぶつかってしまった。
そしてその人は私を追いかけてきたあの人だった。
どんな確率?!と思いながら回れ右をして走り出そうとするけれど、この距離で逃げることが叶うはずもなく右腕を掴まれてしまった。
観念して掴んだ人の顔を見るととても整った見目をしていて、ダークブラウンの髪にエメラルドグリーンの瞳から色気が漂っている気がする。
そしてあちらも私を凝視していた。同じことをした私が言うのもなんだけど、そんなに見られると穴が開きそう。
やっとのことで我に返ったその人がようやく口を開いた。
「…少し話がしたいから、付いて来てくれないか…?」
「…はい」
このままでは一生追いかけられる気がしたのでさっさと話しを聞くことにした。
彼に付いていくととってもおしゃれで高級そうなカフェに入り、個室に通された。
彼が勝手に何かを注文していたので黙って待っていると、おいしそうなケーキと紅茶が出された。食べてみるととてもおいしい。今まで食べたことのない味がする。言葉に表せないケーキとか初めてだ…!紅茶もいい香りでおいしい。
彼の存在を完全に忘れてケーキを完食してしまった。話をするためにここに来たのに待たせてしまって少し申し訳ない。
「先ずは互いに自己紹介をしよう。俺はセイルリート・フォン・グリム。黒翼騎士団の騎士団長を務めている。…あなたのことを聞いても?」
…意外と大物だった…。騎士団長に追いかけられるようなこと私したかな…。とりあえず自己紹介しておこう。
「私は美琴です。冒険者をしています。…私はあなたに対して何かしてしまったでしょうか…?」
「ミコト…。…あなたは俺の運命の相手だ。」
「…はい?」
…うんめいって何?ウンメイ………運命?!
異世界ってそんなルールあるの?!本当に?!ちゃんと確認しないと!
「…運命って何ですか?!」
「…分からないのか」
「はい…!」
「運命とは…そうなる定めにあるということだ。」
「はい?つまり?」
「俺はあなたに一目惚れをしたんだ!」
「…はい?!」
意味不明な言葉しか発してくれない現状に混乱している私に彼は言葉を募らせていく。
「俺はあなたという存在に出会って世界が一変した。だから婚約してほしい。」
…だからの意味が分からない!しかもいきなり婚約?!!これが異世界クオリティーなの?!
混乱に拍車のかかる私をよそに再度言葉を重ねられる。
「あなたとこの先も共に在りたいんだ。…是非、この手を取って欲しい」
そう言って椅子から立ち上がって私の座る椅子の横で跪き、こちらに手を差し伸べてくる。
…どう考えても、プロポーズでしょう?!それは!!まだ早い!!!ただなぜか断りの言葉が出てこない!
自分が自分ではないような感覚に戸惑って自身の口から飛び出た言葉は…。
「か、仮で!」
であった。…もう少し言い方ってものがあったと思う…。
その後、仮でお付き合いを始めたセイルはグイグイとアプローチをしてきて私は割とすぐに根負けしてしまい、なんやかんやありつつも約1年で正式に婚約する運びとなった。
そして更に1年の時を経て盛大な結婚式を挙げ、私たちは夫婦になっていつまでも幸せに暮らすことが出来たのだった。
(婚約期間のちょっとした小話)
私とセイルは今、週末の休みに予定を合わせて日本のカフェでお茶をしている。
馴染むようにと思って普通のセットアップのジャケットとパンツにシャツとシンプルな装いをしてもらっているのだが、彼の見目麗しさを舐めていた。
おかげで回りの視線を掻っ攫っている。
女性からの視線も痛いけど、彼女っぽい人に見向きもされてない男性からの恨みがましい視線も突き刺さっている。
こんな状況を引き起こしている彼は優雅にチョコレートケーキを口に運んで口角を上げている。
チョコレートはあちらにないから不思議でおいしいらしく、妙に気に入っている。
『おいしい?』
『うまい。この苦みが何とも言えないな』
おいしいようで何よりだけど、いきなりそんなに色気のある人が微笑まないでほしい。…あ~あ。見てた人達が物落としたり、ぶつかったりしてるよ…。
極めつけは…。
「すいませ~ん。私とお話しませんか~?」
私という存在が一緒にいるのに声を掛けてくる女性がいるのだ。やめてほしい。切実に。
『この者は何と言っている?』
彼女が何を言っているか分からない彼が私に尋ねてくるからだ。そして内容を伝えると…。
チュッ
彼はわざとリップ音を鳴らして私に口づけ、満足げな表情を浮かべた後に元の体勢に戻って、またチョコレートケーキに手を付ける。
店内はざわつくし、話しかけてきた女性は真っ赤な顔をして私を睨むし、他の女性からの憎々し気な視線も突き刺さるし、私も恥ずかしい。
本当にやめて下さい。私の心臓が持ちません。
ついでに言うと彼に伝えなかった場合、もっと甘い雰囲気を醸し出してくる。あれよりは今の方がまだマシだ。あれは周りにも被害が及ぶ。視線を集めてしまって皆が前方不注意になって怪我したり、スマホ落としたりしていた。
そしてその後も芸能界へのお誘いやナンパが沢山あり、断るのが大変だったし、ゆっくり出来なかった。その分、優越感もあったけど。
その週明けの学校では私たちを見かけた友人達に根掘り葉掘り彼のことを聞かれまくったのだった。
読んでいただきありがとうございます!
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