表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/32

第5話 俺のことが好きなんですよね!



「知ってる? 遠い遠い国では、赤色は愛と情熱を司る色だと言われているのよ」

 ガルムは頭をもたげ怪訝な顔をする。

 ゲームの中で、赤い目を肯定されたガルムがヒロインに傾倒する場面は、美談として描かれていた。

 けれど現実的に考えて、他人の言葉に固執してしまうのはどう考えても不健全だ。ヒロインに依存するのも想像に難くない。

 そして依存体質者は、得てしてヤンデレにクラスチェンジしがちだ。

 ここで「依存」という名のヤンデレの芽を詰んでおかねば、後々ヤンデレ化の燃料になりかねない。それなら依存体質にさせないよう、ガルムの自己肯定感を上げるべきだ。

 ピフラは言い訳をする子供のように饒舌に、立て板に水が如く語り始めた。


「ほっ、ほら『心血を注ぐ』という言葉があるでしょう?」

「……それが何ですか」

「これは全身全霊、自分の全てを賭して物事にあたることを言うのだけどね? 文字通り注げる血と心がなければ、体も、魂だって動かない。いいこと? ガルム。頂きへ昇れる者は皆、心が健全で熱血であるものなの。これは自然の摂理よ。つまり赤色は、世界の原動力と情熱の象徴なのよ。あなたの赤色はね、そんな可能性を秘めている素晴らしい色なの」

「……はあ」


 今のガルムにできることは、わずかでも自信を持ってもらうこと。

 けれど、自己肯定感の低い人間に「自分を好きになろう」「あなたはあなたのままで素晴らしい」などと言っても無駄だ。それが出来るなら、とっくに人生を謳歌しているのだから。

 ガルムにはまず他己評価されることが重要だ。

「もしかしたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」と、少しずつ肯定感を積み重ねていくのである。

 ガルムには、ガルムを正当に評価してくれる人が必要だ。


「一説によると、赤色は神経に刺激を与えて、血圧を上げたり興奮させる作用があるんですって。だから赤は人々に熱情を与えて愛を育むよ。ううん、愛そのものだと、わたしは思うの」

「……愛?」

「そうよ! そんな色を持つあなたはきっと誰よりも愛情深いんでしょうね。あなたに愛される人はとても幸せ者だわ、羨ましい。わたしね、赤色が好きなの。本当に大好きよ」

 

 赤色肯定のプレゼンは止まることを知らない。

 ピフラの舌がこんなに回ったのは、壺を割って言い訳した時以来。実に6年ぶりである。

 ガルムを手塩にかけんとピフラの瞳は真っ赤に充血しており、およそ淑女とは思えない顔相である。気がつけば、互いの膝が触れ合うほど至近距離まで詰め寄っていた。

 心理的にも物理的にもピフラに追い込まれたガルムは、遂に降参した。


「わかっ……分かりましたから!」

「そう? じゃあ何が分かったのか言ってみて!」

 表情がパッと明るくなったピフラは、鼻を鳴らして言う。


(こっ、渾身のプレゼンが効いた!? ほらね、赤色って最高だよね? 自己肯定感上がったよね? ていうか上がれ!!)

 興奮冷めやらぬピフラ。すると、ガルムは赤々と茹だった顔で一杯一杯に答えた。


「……なんですよね」

「え、何? もう1回」

「だから……お、俺のことが好きなんですよね!!」


 ──うん?

 ピフラの時がピタッと止まった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ