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第3話 義弟と親睦を深めたい



 お茶に誘ったピフラはガルムと共に私室にいた。

 私室はプライベートそのものだ。自身の趣味趣向が詰め込まれたそこは、深層心理の化身ともいえる。そういう理屈で、私室の公開は自己開示と同義だと考え、ピフラはガルムをここへ連れてきた。


(誰かと仲良くなるためには、まず自分を曝け出さなくちゃね)

 ちなみに予定では、今頃ガルムととっくに打ち解け談笑している──はずだった。


「その、お父さまがごめんなさい。急に連れてこられて……嫌だったわよね?」

「いえ、貴族に買ってもらうのが孤児の幸せなので」

「……あ……」

 自ら振ったデリケートな質問にピフラは後悔した。

 ガルムの声が部屋の静寂に溶け、当然のように沈黙が流れる。ここに来てからずっとその繰り返しだ。

 なにせこれまでの人生が「貴族」と「孤児」で大きな隔たりがある。ガルムに至っては「誕生日プレゼント」扱いでここへ連れてこられたのだし、生い立ちの差は歴然だ。簡単に打ち解けられるものではない。


 2人はアール・デコ装飾の白いソファに横並びに腰掛けた。

 一説によると、真正面で向き合う会話は対立姿勢と認識されるらしい。ゆえに協調姿勢を示すためガルムの隣に座ったのだが、しかし互いの表情が見えないため、これはこれで失敗したとピフラは後悔していた。

 ソファの両端に貼り付いている2人の距離は、およそ50cm。けれど、心理的距離が圧倒的に遠い。

 ガルムを見やれば心底居心地が悪そうで。筋張る手で指遊びして、所在なく視線を泳がせていた。けれど、ある一点で彷徨う視線が定まった。

 枕に依れる、犬のぬいぐるみである。


「あれが気に入った?」

「え? ああ、まぁ……」

「わたしも! わたしも大好きなぬいぐるみなの! 亡くなったお母さまにもらった物なんだけどね?」

(やっと会話の糸口を見つけたわー!)

 ピフラは嬉々としてぬいぐるみを抱き上げた。

 煤けた金毛と赤い目のぬいぐるみは、触れると埃くささが漂う。亡き母の遺品だ。ピフラはそっとガルムに手渡した。彼が持つと若干小さく見える。

 ガルムは古びたぬいぐるみを、意外にも慎重に扱った。身体検査でもするようにぬいぐるみを見聞し、それからピフラを横目で見た。


「......ヒビが入ってますね」




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