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一度の契り






部屋の中には


血だらけの琴音が一人


腹から、胸に向けて切り裂かれている


力なく、床に伏して、血だまりを作って、



とにかくは・・・

「生成、要石。」

巨大な石を作り出し扉を塞ぐ。


顔を隠していた仮面を脱ぎ捨てる。

「しっかりしろ琴音っ!」

俺は琴音を抱きかかえた。

「・・・良いのじゃ。 これで良いのじゃよ。」

「何言ってるんだよ! 傷なら任せろっ!」

俺は自分が持つ術法を使おうとするが琴音は手で制してきた。

「本当にもう良いのじゃよ。・・・妾は、疲れた。」

「なんで・・・。」

「・・・妾はな、悠久の時を生きた。

もう生きることに疲れておったのじゃよ。

他の者よりも長い寿命、バケモノとはじかれる日々、

何よりも己の理想を諦めきれず

輪廻転生を繰り返してしまう妾自身に・・・。

時を変え場所を変え生き続けた。

魂をすり減らしながらも何度も繰り返してしまった。

もう・・・、いいのじゃよ。

最後で良い。お主に看取ってもらえるのならば・・・。」

「だけど」

「力を封じられて丁度良かったのかもしれぬ。

碌に抵抗もできず逃げるだけ・・・。

運命と割り切れる故に・・・此れもまた良し。」

何故・・・。なんで発さないんだ。

何故諦められれるんだ・・・。


琴音が手を握ってくる。

「良いのじゃよ、妾は・・・。

きちんと()()()()()()も見えておる。でも、だからこそ妾はこのままでいい。」

何故・・・。

「何故助けてくれと言わないっ!?

なんで生きることを諦めれるんだよ!

やっとこさ話し相手が現れたんだろ!

もう終わりだなんて悲しいこと言うなよっ!」


分かっているんだ。

本当はわかっている。

俺のエゴなんだ。

親しくなった者が死ぬ事が認められない。


「よくわかる。・・・お主の気持ちが。生き道が・・・。

お主なら確かに妾を治せる。

だがな、この度はもう受け入れると決めたのじゃ。転生もせん。

・・・お主はな妾の事を見てはくれんのじゃろう?

妾が思っているようには見てはくれぬから・・・。」


言い返せなかった。

それが意味することは分かる。

だからこそ、俺は言い返せなかった。


「・・・それにお主には・・・魂で繋がれた相方が居る。

・・・恐らくは思いはあれど繋がりの自覚は無いじゃろう?」


・・・。


()()()()()なら妾が死んでも生き返らせることも可能なのじゃろ?

だが、それがあっては・・・ならない事ともわかっておる。」


部屋の外が騒がしくなってきた。


「最後に・・・、妾の、我儘を・・・聞いてはくれぬか・・・?」


俺はただ黙って手を握り返した。


「ただの一度だけでいい・・・。

恐らく事は起こる。・・・妾が居なくなる事で・・・。

一度でいい、・・・あ奴らと拓いた街を・・・

助けてくれ・・・。この一度で・・・いい。」


琴音は手を俺の首にまわして唇を重ねてきた。

瞬間だった。一瞬でその体勢に持ち込まれた。


何か、温かいものが流れ込んでくるようだった。


「・・・へへへ。お主の・・・唇を

奪って・・・やったぞ。」


・・・。


「すまぬな。・・・妾の我儘を・・・。」


・・・いいんだよ。


「・・・お主は・・・二度目・・・。

まだ・・・気付いては・・・おら・・ぬ。

それは・・・お主の、魂の底の記憶。

お主の・・・まことに・・・番うべき者は・・・、

愛す者は・・・ただ、一人・・・。

・・・だが、・・・それでも・・・だ。

お主・・・が・・・、至っ・・・た、思いは・・・

偽りは・・・無いのじゃよ。」


俺は・・・。


「最後はな、・・・癖がついちゃった、

私の・・・ぶりっ子じゃなくて・・・、

元々の・・・本当・・の・・・私を・・・み・・・て・・・・・・。」

「・・・ああ。」


「私・・・は、死せども・・・。

・・・身、失えども、

あ・・なた・・・・を見守って・・・いるよ。」


俺の事なんか・・・。


「後は・・・、あ・・とは、

出来る・・・事な・・・らば、街を・・・・、

ま・・・ちを・・・・・・、見た・・・・いっ。

あいつが・・・、みん・・・なが、

創り上げた・・・・街を・・・っ!」

「・・・ああ。」



「・・・後悔、・・・無きよう・・に。

・・・ありがとう。・・・そしてすまん。

・・・・・・決して、止まるなよ、――――。」




彼女は最後に俺を本名で呼んだ。

俺の心と生き道をしっかりと()()のだろう。

そしてかつて共に生きた友が残した街と

俺の事を思って彼女は旅だったようだ。







-------------------------------------------------






叫びたかった。


ただ、ただ、叫びたかった。


擦れる、感覚。


だけども、声にはならない。


むしろ、叫びたいのかもわからない。


自らが何を想うのかもわからない。








部屋の入口の要石が砕かれた。

俺はただ黙って琴音の傷を修復し抱きかかえた。

「ほう、お前が止めを刺したのか。」

俺は黙って振り返った。

さっきの集団だ。武器を構えて威嚇してきている。

「手柄を横取りとはいただけないなあ。そいつを寄こしな!」





























・・・手柄?


何を言っているんだ・・・?












邪魔だよ。


















「どけよ。」


俺は右目を奴らに向けた。

瞳を赤く光らせると共に焦点を合わせた対象に力を注ぎこみ

ミチミチと体を千切っていく。

肉が千切れるたびに聞こえる叫び声が五月蠅い。


「邪魔をするな。」


俺は歩みを進めた。部屋の外へと。

しっかりと琴音を抱きかかえて歩みを進める。

部屋に残るは死にかけの肉塊のみ。



































体中が痛む。


目がズキズキする。


頭が割れそうだ。



あの後俺は歩いて城を出た。

周りに居た奴らは誰も襲い掛かって来なかった。

誰一人動かなかった。動けなかったのだろう。

()()()()()でも、力が一部しか使えない状態でも

溢れ出す魂のエネルギーと殺気は威嚇には充分すぎた。

奴らのような半端者程度なら根源的な恐怖を抱き

思考をめぐらす事すらできないのだろう・・・。

だが、何とか街には近づいたがもう体は限界だ。

身体が適応できていないオッドアイの力で右目は流血しているし

特殊技能にリミッターを掛け合わせた呪印術を合わせて使ったが故に

全身とてつもない過負荷になってしまっている。

更に身体活性の陽炎の割り増し分ですべての負荷が何倍にも膨れ上がってしまった。

既に目は元に戻り体表の呪印も今はもう消えている。

戦闘形態を維持することができない。


俺は歩き街へと戻った。夜も明けて空は明るくなり始めていた。

門の前には衛兵が二人居る。

「おい、そこのお前!」


本来ならギルドカードの提示なり受け付けなりある。

でもそんなものどうでもいい。


「・・・おいっ、アレは!」

「どうしたんですか?」

「・・・止めるな。」

「えっ?」

「・・・そういうことか。」

「先輩、どういうことですか?」

「・・・いいから、責任は俺がとるからそのまま通せ。」


歳上に見える方の衛兵がそのまま俺を通してくれた。

涙をぬぐい歯を食いしばり敬礼をしながら・・・。

彼も鬼姫の事を知っていたのだろう。

おっちゃんが言ってたな。

結構関わった人は多いのかもしれない。


俺は歩いて領主の館を目指した。

あそこの裏が高台になっていて街全体を見渡す事が出来るからだ。


すでに朝早くに動く人たちがちらほらと見える。

せわしなく屋台街の準備なども始まっていた。

街の古株たちも多く動き出しているだろう。

そして、ポツリ、ポツリと行く人の目が俺の方へと向かってくる。

物珍しいものを見る目、奇異なものを見る視線、

抱えた彼女を物珍しく見入る目、彼女を見てハッと止まる者、

そして俺を見て察して見守る者・・・。

誰も近づいては来なかった。いや、近づけなかったのだと思う。

知っている者こそ、知っているからこそ、近づけない。

きっと俺自身表情も抜け落ちてたかもしれない。

感情は完全にフラットだからな。

そんな得体のしれない状態の奴に近づきたくは無いだろう。

けれども、一人だけ近づいてきた。串焼き屋のおっちゃんだ。

「・・・おい、そいつは・・・。」

「・・・ああ。ダメ、だった。」

「そうか・・・。」

最後に串を買ったときにおっちゃんにはお金と一緒に

事のあらましを書いた紙を渡していた。

森で琴音に会ったこと、その身を狙われていたこと、

領主が唆されて討伐しようとしていたこと、対面する魔族領が活発になっていること・・・。

「・・・すまない。ダメだった・・・、手遅れだった。」

少し離れた場所にはドックとルカも居た。

ドックは歯を食いしばり顔をそらし

ルカは茫然と腰をついてしまった。

この二人も浅からぬ中だったのだろう・・・。

「謝るんじゃねえよ。謝るんじゃねえ・・・。

お前さんは余所者じゃないか・・・。

余所者なのにこんなにも気を使ってくれて、

必死に走り回ってくれてよぉ・・・。

何にも落ち度なんてないじゃないか・・・。」




・・・やめてくれ。




心が・・・痛い。


俺は、・・・いつもこうだ。


自らの枷ばかり気にして、大切なものを取りこぼす。


俺は、何も、守れない・・・。


守れる筈の者も、守れない。





・・・いや、わかっているのに守らない。








領主の館の前まで来た。

沢山の衛兵がいる。

おそらく昨夜の侵入騒ぎか元からあった討伐に関係して

兵を用意していたのだろう。

だがそんな中にロープで捕縛されてる者たちも居た。

領主が奥からモーゼの海割のように人だかりを分けながらこっちに向かってきた。

「・・・この度の戦い、大儀であった。」

「・・・。愚か者が何を言うのだ? これのいったい何が大儀なのだ?」

「貴様っ、パルミ様に対してなんという口の利き方だっ!」

周りの衛兵がやかましく騒ぎ出す。五月蠅くて仕方がない。

「静まれっ!すべては私が・・・私が至らなかったが故に・・・。」

衛兵たちはうろたえた。

きっと抱えている人物の顔が見えたのだろう。

それは、祖父と父が書かれた絵画に一緒に書かれていた女。


「・・・邪魔だ。通してくれ。」


俺はそのまま人だかりを無視して歩き出した。

領主パルミはガックリと膝を落としずっと

「私のせいで・・・私のせいで・・・」

と、言い続けていた。







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