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異変






今宵、満月か・・・。

一人で月見酒とは、妾も気取っておるのう・・・。

しかし・・・。


「・・・あ奴、心を隠しておったな。

器用な事を出来るものぞ。」


あ奴の心は荒れておった。

度重なる痛み、痛み、痛みの連続。

はじまりはろくに見せてもらえなんだが

常に負い目をおっておったわ。

元居た場所でも()()を守れず、

後に行く事になった先でもうまくはいかず。

力持てどもその力に飲まれて己を失い・・・。


「戦鬼を知っておる時点で、それ相応なのはわかる。」


(あやかし)、戦鬼。決して世の表に出ることは無い伝奇、伝承の類。

都市伝説や一般的な妖怪と言われている類の物とは異なる。

記録に残す事の無い世界の裏の話、普通の人間が知ることはまず無いのだ。

一騎当千なるその力、荒々しきその気性、世をも破壊せんとする戦乱を呼ぶ。

鬼道と鬼灯以外に知る者はほぼ居ないはず。


「心を合わせることも知っておった・・・。」


技術と言うよりは存在、魂の格とも言える物だ。

そうそう至れる次元では無いのだ。

あ奴はそれが何かを聞き返すことも無く受け入れた。


「お主が纏いしその黒翼、向かう先は何処(いずこ)かのぅ・・・。」






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「よかったのかしら?」




ここは幻影城の上の階。

テラスから俺は外を眺めていた。

「・・・別にいい。あいつになら知られても構わんさ。」

黒フードのシーがテラス端にちょこんと座っている。

「珍しいわね。」


そうだ、珍しい。

もっとも、琴音も俺と同じようなものだ。

あがき続けた者。だからこそ打ち明けても

問題ないとも思えた。全てでは無いのだが。

「よく入って来れたな。」

「あなたもできるのでしょう?その気になれば。」

「確かに。彼女にバレずに出入りする程度できるさ。」




「・・・時間がないわよ、きっと。」

「わかっている。」

俺が用意した覗き見アイ(目と耳)でも確認済み。

数日中に領主が編成したチームが乗り込んでくるのだろう。

俺が途中抜けしたミーティングでも

その予定で話を進めていた。

それは恐らくシーも確認済みなのだろう。

「魔族領の方も動き出してるようよ。侵攻の準備を進めてるみたい。パワーバランスが崩れればすぐに乗り込んでくるでしょうね。」

・・・

「一応”鍵”は持ってきておいてあげる。

必要なら自分で()()()()()()。」

「それは」

「貴方は必ず最後は動くわ。だって優しい人だもの。そして一人で抱え込んで自滅していく。」

「・・・とりあえず()()をしようと思う。」

「間に合うかしら?」

「・・・やるだけだよ。何もしないのはさすがに気になる。それにアレを使うのは最終手段だ。欠損がある状態ではなるべく使いたくない。」

「わかったわ。必要なら”私”を使って。」

「いや、」

「使いなさい。今は負担を減らすべきでしょう?」

正直彼女を使()()ことは避けたいのだ。

とは言えあの力の使い方は()()()()()がガタガタになっている今の俺では

かなりの負担を強いることになる。

「たまには私に寄りかかりなさい。」

「・・・わかったよ。とりあえずシーは話つけて”鍵”を持ってきたら領主に接触してみてくれ。無理やり警告するようなやり方でも構わんよ。流石に向こうさんに侵攻されて街一つ消えるのは見たく無い。なるべく表に出ないようになんとかしてみようと思う。」

「了解よ。予定を消化させたら傀儡に戻らせてもらうわ。雑魚が群がるようなら当ててくれたらいい。」

「ああ、頼んだぞ。」

そしてシーはテラスを後にした。






もしもは起こしたくはない。

だからこそ手を打つ。

ただし、必要最小限だ。この世界の行く末を

変えかねん事態にはあまり関わるべきでは無い。

私は外の人間だ。物語の当事者でない以上は

本来大きくかかわるべきではないのだ。

()()は世界に対してあまりにも危険すぎる。

(エクス)の一(・デウス・)(マキナ)など毒でしかないのだ。

過剰な加護は人を弱体化させるから・・・。




だが、この時の判断は結果として悪手であった。

俺は後に大きく後悔する事になる。








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翌日、寝ていた琴音が起きるのを待ってから

幻影城を後にした。もちろん噓を言って。

傷つけたくはない。すべてをうまく覆い隠したい。

彼女の為にもこれから領主が狩りに来るとは言わなかった。




俺はのんびり目のペースで森を抜けると

とりあえずギルドに向かった。


今日の依頼は・・・ちょうどいいな。

個別で出ていた薬草採取の依頼が無い。

常設依頼を手に付ける格好をとりやすいな。

受付の担当はこないだと同じ人だ。

「常設の採取依頼ってとりあえず適当に物を持って来たら受理してもらえますかね?」

「ええ、それでいいですよ。依頼を受理しなくても

現物の持ち込みでOKです。ちなみに何を採集されたのですか?」

俺はソレを伝える。

「ちょっと、それ悪魔の森の自生物じゃないですか!」

「まあ、こないだ入った感じ深くに入らなかったら一人でも大丈夫かなあって思ったんですよね。少々リスキーですがお金にもなるみたいですし。」

「もう、なんて事されてるんですか・・・。まあランク的な問題がないなら我々に止める権限は無いですからねえ。絶対に浅いところまでで済ましてして深くに潜ったりはしないでくださいね。

危険を感じたら一目散に逃げてくださいよ。」

「ご忠告感謝します。」

「そういえば直接何かはしないとは思いますが

山の向こうの魔族領が騒がしいみたいです。

すぐすぐ何か起きたりはさすがに無いとは思いますが

念の為気に留めておいてくださいね。」

「了解ですー。」




ギルドを出た俺は考え事をしながらも露店外に足を運ぶ。

遅い昼食をしながら考えることにした。

どうやってことを進める?

恐らくシーは今夜あたり領主へ警告するだろう。

なら俺は合わせて間者を始末するべきだ。

しかしどうする?なるべくならこれ以上は

”目”を使いたくはない。

「おいアンちゃん、今日はうちの串を買ってくれないのか?」

「ああすんません。これからお願いしようかと

思ってたんですよ。」

串焼き屋のおっちゃんだ。

今日の俺はフライの芋をモシャモシャと食べていた。

正直現状を考えると顔色から何かを察せられかねないので

鬼姫を知るおっちゃんのとこには顔を出したくなかった。

そんなこと思ってた割にはいつもの露店街に居て

しかも少々の準備までしていた訳だが。

「どうした、また深く考え込んでんじゃねーかよ。」

「別に何ってないですよ。色々知ると気が滅入るってだけで。」

俺はそう言いながら周りに気を配る。

それ相応に監視の目がある。

ギルドを出た辺りからだろうか? わかりきった事だ。

よくわからない奴がちょくちょく街の外で

野宿してる事になっているのだ。

事の流れから鬼姫とのつながりを疑われても当然だろう。

俺は一応と用意していたものも含め手に握りこんでおっちゃんの()()()()()()

「とりあえず8本おくれ。」

「・・・。へいよ。」

俺は串焼きの焼き上がりを

見た目はのんびりの装いながら待った。

「そういやあアンちゃんよ、」

ふと串焼き屋のおっちゃんが言う。

「あんたにゃあ言っといた方がいいかと思ってな。今日はそろそろ店を閉めるぞ。」

「どうかされたんですか?」

「ちょいとやらかしだな。香辛料がかなり減ってきちまっててな。幸い森の方で取れるから切らす前に採集に行こうかと思ってな。」

俺は街全体の空気を()()()

肌で感じる、状況を読む。直感と変わらない空気の読み・・・。

「取りに行かれるなら明日以降の方がいいと思いますよ。」

そういいながら俺は空を見た。

もうしばらくしたら空が赤く染まるくらいの日の傾き、

時間は夕方に近い。

エールが合う品を出す出店としてはこれからが勝負と

言える時間だろう。このタイミングで品切れは痛い。

「夜の売り出しにゃあどうしても出遅れそうだなあ。でも取りたいもんが有る辺りは庭みたいなもんでな。まあ何とかなるだろうとは思ってるんだ。」

・・・。

「丁度昔の同業も帰ってきてるんだ。散歩がてら行ってくるよ。」

「・・・そうですか。無理には止めませんよ、お気をつけて。」






さて、いつもの宿に帰るとしよう。

監視の目がまだあるわけだがあえてそのままチェックインだ。

おっちゃんが気になりはするけど

とりあえず今日はこのまま宿から出ないことにする。

監視が解けなければ目と耳を使って状況確認をしようか。

情報処理の負荷が大きくて頭痛が少々きついが・・・。







空も真っ暗、完全に夜になる。

夕食も宿内で済ませて籠っていたのだが

やはり俺についた監視は解けなかった。

自室にて()()()()()()()

同種の人間を探すとする。

宿の周りに数名。領主の館に幾人も。

更に数グループが街中で形成されている。


もう少し範囲を広げてみる。目と耳の()()を上げる事にした。

目と耳の上位。媒体は生物を使わず

高所に自前にて生成する。形状は目玉。

正に鷹の目。衛星リンク的な奴では無いけど。


街の外に移動する集団、いくつか。その方向は・・・。

その先を確認した俺は手元に顔隠し用の白仮面を出していた。




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