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互いの痛み 互いの嘆き 




翌日、俺は状態異常を解くことなく

お城に行ってみることにした。

何日か滞在することになるかもなので

お宿の部屋は先払いにてキープだけしておいた。

幻影城のステルスの方法も解析済だ。不法侵入もなんのそのだ。

そういえば正規の結界の超え方を教えてもらってなかったな。

俺は認識さえしてしまえばどうとでもなるから特に気にしてなかった。


さて、鬼が出るか蛇が出るか。

まあ出るのは鬼って決まってるんだがね。


城へと向かうと前で琴音が待ち構えていた。

その表情はとても悲しそうに見える。空気が冷たく重い。


「戻ってきてしまったのじゃな、お主は・・・。」


ふむ、結界を越えたあたりから強くはなってきていたが

対峙すると一気に跳ね上がるな、彼女への不快感が。

「お主はできることなら手にかけたくはなかった。だが、仕方のないことじゃ。」

殺気を投げつけられる。彼女の表情は無表情となった。覚悟を決めた者の目をしている。


ふむ・・・。


彼女は鬼道を体に対流させて殴りかかってきた。

俺もそれに合わせて魔力と気を纏い腕を流して拳を弾いていく。

何度か受け流した後に拳に魔力を一気に込め

彼女に突き出しながら爆発させた。

・・・が、琴音は上半身を両の腕でカバーしつつ

上から回転するかのように体をのけぞらせてから

地面に手を付くとそのまま鬼道の力を圧縮させた渾身の蹴りを放ってきた。

流石にそのまま受けたくはなかったので虚空より深紅に染まった刀を出し、納刀したまま鞘で弾いた。

琴音は弾かれた勢いで体勢を直しこちらに向かおうとしてくる。

俺は刀を虚空へと返す(消す)と両手の人差し指と中指を伸ばし

風の魔力を込めながら舞うように空を薙ぎ続けた。

一瞬で意図を察知した琴音は細針一本を投げ全力で横に逸れる。

彼女の髪を何かが切り掠めて行った後に

地面が大量の斬り痕でズタズタになった。

俺は俺で針を右の手指で薙いだら込めていた力が針と共に

はじけ飛んでしまい指がすべて無くなった。

おまけに右肩から先がしびれて満足に力が使えそうにない。

リカバリの為、直ぐさま両手を胸の前で合わせ力を籠め

身体中に刺青を走らせる。

「呪樹侵力、神樹改メノ身鏡移シ。」

術式にてストックしていた()()()から腕を入れ替えた。


今ので両者睨み合い、互いに警戒して手を出せない。

「やっぱり、よくわからんな。意図が見えない。情報が足りなさすぎる。面倒だから止めだ。こんなもんうざったいだけだ。」

特殊な魔法による状態異常、一種の洗脳状態を

自身のエネルギーの対流を操作して無理やり破壊してやった。

恐らく洗脳が解けたことは彼女にもわかるだろうし

こうでもしないと話し合いへと移ることも出来ないだろう。

「こんなかわいいお嬢さんを痛めつけるのは趣味じゃないんだがな。でも戦う気満々なら一回ボコして止めないとダメか。めんどくさあぁぁぁぁい。」

「・・・お主は何を言うておるのじゃ!お主は妾を討ちたくて戻ってきたのであろう!」

まったく、ホント、残念なお嬢さんだ。

「そうやって魅了をかけてちょっと遊んだらポイッか?どんな悪女だよお前は。そんなもん俺に効くわけがなけりゃあ、あえてかかったまま放置して気合で無理やり思考を戻したりもするしカモフラージュの為に逆に利用したりもするさ。お前はゴリラじゃねぇよ。狐だ、傾国の九尾の狐だ。化かして騙してどうするんだかね。」

めんどくさい奴だなあ。悲劇のヒロインのつもりか?

おっ、なんかワナワナと震えだしたぞ。

「・・・ゃ・・・・ゎ ・・・・・ぁかましいわっ!」

琴音は半泣きで顔真っ赤にしてこっちに突っ込んできた。

「お主は・・・、お主は妾の気持ちなぞなんもわからんだろっ!わからんだろうがっ!」

ガスガスと俺に殴り掛かる。

「妾はっ、元居た場所もっ、元居た世界でもっ、何百年何千年と孤独だったのだぞっ!ただ守りたかっただけなのにっ!妖とっ!バケモノと呼ばれっ!」

顔はもう涙でグチャグチャだ。

「体は鬼に代わりっ!肉が滅せられても魂は朽ちることなくっ!朽ちる事出来ずっ!世界変われどもバケモノっ!バケモノっ!誰からもバケモノと呼ばれっ!」


・・・。


「・・・ただ安らぎがぁ・・・・温かさがぁ・・・・わらわは・・・わらわは・・・・。」





-----------------------------------------------------------------






以前俺が借りた寝室に入った。

横には泣きつかれたのか琴音が俺にしがみついたまま寝ている。


俺は何も言えなかった。

言わんとしたことはおぼろげながらにも想像はできる。

だが、俺は自己嫌悪にこそ陥ることはあったが人にはじかれた事は少なく

うん千年と生きたこともあるわけでは無い。

想像できた所で分かるとは言えないさ。

鬼灯に鬼道術か・・・。察しもつくが一度調べるべきだな。だがとりあえずは・・・。

「起きたか?琴音ちゃん。」







「妾は・・・。なぜお主がこうしておるのだ?」

「うーん、気分?」

琴音はハァ、とため息をつく。

「お主は自由じゃのう・・・。お主には妾から離れるようにと魔法を掛けたというに・・・。」

「鬼道術を一部組み込んであったから普通は自力で気付けないだろうし解けないからな。更にお前に関すること以外は実害がないんだ。意地になって解く意味もない。」

「なぜお主は鬼道術に干渉が出来るのじゃ?一朝一夕で触れれるような力ではないのだぞ?」

「うーん・・・、センス?」

ワテクシ、キャラセッテイテキトウデスヨ!

「もうよいわ・・・。お主は気を使って妾の部屋には入らなかったのだろう? とりあえず茶を出す。妾の部屋に来てくれ。」










「おおっ、とんでもないものがあるな。」


琴音の部屋でまず目についた物。まさかの物だった。

「やはり一目でわかるか。ゲートじゃよ。おそらくお主の出と同じ地球、日本行きじゃよ。」

そこには門状の置物が置いてあった。門の向こうはただの壁になっているのだが。

もっとも、力場がおかしくなっているのがわかるので

何かしらのトリガーにて空間を歪めれることが想像できる。

今までの経緯から考えれば答えは自然とそれになる。

この世界だと手に入らないであろう物があったからな。特に食べ物。


そう、俺はいわゆる異世界転移ってやつをしている。

よくある現代日本からパンピーがー、なんて

簡単なもんでもないんだが

まあ常識は()()()()()だ。

ここでゲートに出会えたのは素直にありがたい。

俺が正規の手段で(ルール違反せずに)帰る手段があるのはうれしいな。

交渉しておくべきだな。

もっとも、俺自身はまだ帰る気はない。

「ちょいと送りたいモノがあるんだ。今度使わせてもらってもいいか?」

「まああまり沢山でなければ良いよ。お主が関わるならな。」

そういうと琴音はテーブルにお茶菓子を出し煎茶を淹れた。

「おっ、こりゃあ有名どころの茶菓子じゃないか。

緑のおひねり君結構好きなんだよね。

なるほどなぁ、わざわざ買い出しに行ってたんだな。」


そして言葉がなくなった。





だいぶ間を開けてから琴音が言葉を発した。

「できれば聞いてくれぬか?妾の今までを・・・。心を、()()()()はくれぬか。」











-----------------------------------------------------












心を合わせる。それはある種の到達点。

説明に言葉はいらない。記憶と感情、それらを心に乗せて相手に触れさせる。

数少ないながらそれを使える、もしくは意図せずして使っていた者は何人か見てきた。

人としての・・・、否、生物としての枠を超える存在たち。

相手に己を映すと共に、相手の欠片も映される心魂の映し合い。


「・・・。」

「・・・頼む。」


本来なら拒否する。

いつもなら俺は他人に己の深奥は見せたく無い。

使()()故に、己が来た道故に。

ただ、彼女は・・・




恐らく、近しい者。

己が道に似た歩み、行くもの。


俺たちは自然に・・・

互い、手を、合わせる。



















・・・想い、想うは呪い。


互いに映すはその呪い。


想うが故に呪い、呪うが故に想う。




―――――― 互いが見える ―――――――




映すは、心


映すは、心




追憶するは、後悔の記憶


追憶するは、痛みの記憶




ただ、あがきにあがき、あがき続け発現せし人外の道


ただ、守るが為に、人を外れし鬼神の姿見




あがけど、あがけど、何も残らぬ、助けられぬ

消えに消えゆく、終わらぬ輪廻


守るが為に、心魂、到達せしは一族の禁

変わりしその身、人に戻らず




―――――― 心が、重なる ――――――




示されし道は愛しき者を手にかけさせ

道を共にした者も、(まこと)に護るべき者も同じ結末へと進み行く

禁じられし力は己が姿、異形へと到達させん

避け、避け、避け、 人は我を忌嫌い迫害し避け行く




―――――― 想いが、溶け合う ――――――




仇、捜し行くその道は修羅道成りて

その化けの身、老いを知ること無し

己が怨恨は世界をも喰らう

異形と恐れられ、はじかれ、畏怖は伝播す

街を喰らい、国を喰らい、()べられしは人魂也

時に国、変われども、身を滅せられどもその魂、諦める事、出来はせず




心根に差すは絶望に深淵なり

心根、染まれど自死成れず

痛み蝕めども、ただ悪鬼の如く

怨み、復讐の念、安らぎを求め心に押し籠めて




拾うは心


拾うは心




その者、死せども死せず


その者、姿見を見ず




ただ、己が身を案じ、追いかけて

(まなこ)に映るは妾の心なり




支えるは心

人の身にて肩を並べし愛しき者のその想いは

深淵に引きずり込まれし魂に安らぎと光を与えん




与えられた使命を基に




決して止まらず

決して死なず、死ねず







――――― 共に見えるは、互いの情景 ――――――








その男は一人、倒れていた。


なんとなくだった。なんとなく助けた。たったそれだけ。


もう嫌気がさしていたのに。


一人は嫌だ。孤独は嫌だ。


でも、私は人とは相容れない。


バケモノは受け入れられないのだから。


それでも自死もできず、諦める事も出来ず。


渇き、渇き、孤独が辛い。


たったそれだけ。拒絶されるだけだというのに。


だが男は私の横に居てくれた。


男と歩んだその道はやがて・・・。












殺した。


何人も殺した。


守れなかった。抑えられなかった。(ぎょ)せれなかった。


友を守れなかった。父を守れなかった。


愛する者を殺した。恩人を手にかけた。


大切な人を・・・ 故郷を・・・ 街を・・・


悲しみは、自責の念は、痛みは、怨みは、


力と共に膨れ上がる負の心。


壊れる、壊れる、壊れる。


堕ちて堕ちて堕ち行くは自身の拒絶。


拾うは・・・


拾うは、紫の色、纏いし風。


消える事無き、魂に繋げられるその存在。


闇色に染まれど、決して離さぬその者は、


決して離れぬそのつがいは・・・








-------------------------------------------------








歩んだ道は違うんだ。

彼女とは違う。

でもさ、共に同じわけだ。


ただ、大切な人を失いたくなかった。


それだけなんだよな。


たった、それだけ。








「妾はな、ただ、友を助けたかっただけなんじゃよ。」



俺に見えた、琴音の歩んだ道。


鬼灯と呼ばれる家系の娘だった。

代々、世に蔓延る魑魅魍魎を滅する。

それらには人外の術を私利私欲のため悪用する人間も含む。

そんな滅鬼の家。


その家には禁忌があった。

鬼灯家が代々受け継いできた鬼道術。

その鬼道術の表と裏。

対流する大地のエネルギーを取り込み対流させ

身魂活性化をするのが基本で表。

そこから深化させたのが取り込んだエネルギーで

直接心身(魂)を共鳴させ爆発的に力を上昇させる

鬼仙術とも呼ばれる裏。

裏の力は身体にも影響を与え

人外狩りが人外になるという悪夢をもたらす。

時にその心をも蝕んでいくのだと言う。

故にその裏は如何なる時も使用を禁じられていた。


だが、彼女は禁を破った。

全ては友を助ける為。


対峙したのはとても強力な妖だった。

まともに相手を出来る者が居ないくらいの。

友は逃げ遅れた。妖に捕まってしまっていた。

場に居たのは自らを含めて少年少女のみ。

そして一番強き力を振るう者は己。

助けるには・・・、自分が禁を破るしかなかった。


己を捨て、鬼となった。

結果、友を救うことは出来た。


代わりに手にした物は・・・

人、成らざる肉体と一族からの絶縁。

助けた友とその両親にも、

泣く泣くと言えども己が両親にすらも拒絶され。


全てを失い、世界へと消え行く。




「気付けばバケモノになっておった・・・。

人ではなくなってしもうた。故に一族からはじき出された。」


それは・・・


「ちがうさ。琴音、お前は人だ。間違いなく人だよ。」


「・・・ふふっ、妾が人とな?

さすらばお主もバケモノでは無かろう?」


・・・


「お主は妾よりも自身をもっと大切にするべきじゃよ。お主の歩んだ道は常人には耐えがたい物ぞ。」


・・・


「それにな、お主と同じことを言うた者も居た。

フォロールの開拓者じゃった初代の領主じゃよ。」

琴音がこのあたり越してきた時に出会った者。

開拓の時に互いに助け合った仲のようだった。

主に戦闘面でだったようだが・・・。

「今の領主、三代目の祖父に当たる人物じゃよ。」

「と、なると」

「そうじゃよ。鬼姫伝説の鬼になるわけじゃな、妾は。」

「・・・鬼姫。嫌な因果もあったものだな。」

「・・・戦鬼の事かの。でも良いのじゃよ。

それでも、たとえ一時とは言えいい記憶として

皆の心に残れたのはよかったよ。」


俺の居た世界で言われていた存在。(あやかし)、戦鬼。

鬼神の如き、人の殻被りし人外の存在。

・・・否、恐らくは・・・。


「心見て、人と見なす。それがあ奴達じゃった。

然らばお主もまた同じ事。妾はそう思うよ。」

「そう言ってもらうとありがたいよ。だけどな・・・」

そう、俺は・・・

「・・・たとえ、そうだとしても。

その力故に俺の周りには死が付きまとう。

ただの人としての道を許されはしないんだ。」


俺が背負った十字架は重すぎる。

・・・そして、あまりにも数が多いんだ。


「所詮は人の皮をかぶったバケモノ。

足掻きに足搔き、愚かにも人の枠の外に手を出してしまった。そして其の能力に溺れすべてを壊した罪人なんだ。力に振り回されず、自棄にもならなかったお前とは違う。」







ゼロには彼女の生き道が、琴音にはゼロの生き道が流れ込みました。

ですがゼロは自身の生き道を彼女に考えさせる間を与えません。

彼は隠したいのです、自分の罪を。

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