一応お仕事をしておきましょう・・・冒険者だもの
とあーるおやどのう~え~。
おっつきさまきれいだな~。
「何をする気なのかしら?」
きらきらまんげつきれいだな~。
ガスッ!
こら、殴るな。
「無視をするな。」
ここは宿の屋根の上。真ん丸満月を眺めていた。
そんな俺の横に真っ黒フードちゃんがやってきた。
フードから少し青みかかった黒髪が覗ける。
「そっちから話しかけてくるのは珍しいな。」
「街全体を見渡すなんて異常なことしてたらそりゃあ何してるのか聞きたくなるわよ。」
「珍しく近くにいたのな。」
「手伝いはいる?」
フードちゃん積極的だなあ珍しい。
「ここの領主に探りを入れるにもそっちの方がいいでしょ。何でも一人でしなくていいのよ。」
そうは言われてもやることはやるさ。
「やれるだけは自分でやるよ。気になる事がいくつか有るからな。でもまあ・・・、そうだな。そっちからも探りを入れてみてくれ。」
「そう、わかったわ。 ・・・他にも何かあったなら私にも相談してね。」
「そうさせてもらうよ。」
「ロールに戻ります、マスター。」
「”シー”、領主を重点的に調べろ。特に悪魔と呼ばれている森に住まうターゲットについての認識の仕方と、それに付随して妖様の認識及び実際の伝承の内容をなるべく詳しく頼む。必要に応じて関わりそうな物すべてを探れ。」
「承知しました。」
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翌日は朝食を宿で済ますことにしたよ。
いいね、食堂付きの宿だーよ。
夕食含めて事前に言っておけば
きちんと用意してもらえるが
何も言ってなければ早い者勝ちで無くなったら終了の
ごはんだーよ。味も良く人気だそうだ。
ちなみに共同浴場もついてて
商人、冒険者向けに簡素目な形式の宿にしては
少々値は張り気味である。それでも人気店のようだが。
食堂のカウンターへと声をかける。
「おばちゃーん、朝食のセットちょうだーい。」
「はいよー。」
ってなわけで早起き一番飯だーよ。
・・・と、言いたいところだったけど
先客が何組か居られた。
なんだか負けたみたいで悔しい。
すぐにはテーブルにつかずカウンターにて
ごはんが出てくるのを待つよ。
「はい、おまちどうさん。」
どうも、とスープとパンにハムエッグを受け取り
適当なテーブルに座った。
にこやかに俺はご飯を食べましたとさ。
朝ご飯を楽しみながら
周りの会話に聞き耳を立ててみると
どうやら今日どんな依頼を受けるかの
打ち合わせをしている組が多いようだった。
なにせ冒険者が多いらしいからね、この宿のお客さんって。
そこそこの価格でうまい飯が出てきてそれ相応に快適
まあ旅の人からの人気も出るよね。
もっきゅもっきゅと朝ご飯を頬張っていると
二人組の冒険者に声をかけられた。
エルフの女性とドワーフのおっさんだ。
「あんたって昨日ギルドで説教されてた奴よね?」
「うん? そうですけど?」
エルフの方が話を持ち掛ける。
何かって言うと昨日の冒険者ギルドでの
俺へのお説教みたいなものを聞いていたようだ。
それで悪魔の森についての話がしたかったそうで。
「ワシらはあの森の実際の所の危険度の確認をしたくてなあ。あそこでしか取れない素材があるんでなあ。ワシらだけで入れるような場所じゃないんならそれ相応の人員に手伝いを頼まなくてはならんしのう。」
二人そろって素材目当てでこの街にまで来たそうなんだが
前に来た時と違って森に悪魔が出るとのことでどうしようか悩んでたみたいだ。
フムフム・・・。
一応この前森に居た時の説明を軽くはしておいた。
もちろん悪魔にかかわる部分のみあえて言わずに。
そしてついでに・・・、
「どうせなんで一緒に森に行くのはどうですか?丁度今日あの森関連の素材集めの依頼を受けるつもりでしたし。」
「あら、それならちょうどいいわ。私たちも念の為臨時パーティーを組んでもらえる人を探そうと思ってたの。たいしたことないとは思ってるんだけど流石に二人じゃ心もとないからね。」
交渉は成立。二人組と臨時パーティを組むことになった。
ここにきてやっとこさ互いの自己紹介となる。
「私はルカよ。エルフのルカ。」
「ワシはドックじゃよ。流れの鍛冶師のドックじゃ。」
二人とも出身は各種族の里的な所らしいのだが
エルフの里の交易をおこなっていたルカの親と
鍛冶材料を旅して探し回っていたドックの親がそれぞれ
ここ、フォロールに長期間滞在していたらしい。
両者とも親の仕事は継がずに冒険者となり
長いこと世界を見てまわって来たそうだ。
ドックに至っては鍛冶の技術を身につけておきながら
冒険者になったとのこと。
やりたいことをやってなんぼだそうな。
本当はフォロール出身の仲間がもう一人いたのだが
旅の途中で離脱したのだそうだ。
なんでも露天商でもやってのんびり過ごしたいってことで出ていったそうだ。
「俺はゼロ。名無しのゼロだ。」
「何それ? 子供じみた名前ねー。」
「ンなこと言わんでくれよ。ギルドカードだってこの通りの名前なんだからよ~。」
「ホッホッホッ、まあ面白いから良かろうて。」
あんまり深く掘り下げないでね、名前の事は。
そうしてともにギルドに依頼を確認しに行くことになる。
・・・が、ギルドにて依頼の受注をするときにとあることが発覚。
三人で固まって俺が依頼の確認をしようとしたら受付が騒然となった。
この二人、Sランク冒険者だったようだ。
結構な有名人だったみたい。まあ、だからって俺には特に関係ないんだけどね。
なーんて、クールにしてたら受付にでっかな突っ込みを入れられる羽目になってしまったが。
だって臨時チームを組むか組まないか程度の話じゃないか。
これを言ったらSランクの2人も大笑いしだした。
特にエルフ、あんた面白すぎとか言いながら腹抱えて転げ回って。
うるせえ一生笑ってろ。
正直どうでもいいんだがねぇ・・・。
・・・で、二人のお供を引き連れて
悪魔の森へと向かうことになった訳であーる。
門を抜けて徒歩って移動だーよ。
「でも森の悪魔って何なのかしらね?」
ルカちん、そいつにゃあ答えられねーな。
「ワシらが居た頃にはそんな奴の話なんぞは聞かなかったからなあ。」
「僕もよくは知らんのですがそもそも悪魔って呼ばれるような奴らってそんなヤバい奴らなんですか?」
この疑問にドックは答える。
「そもそも悪魔と言われる奴らは異界から召喚される凶悪な奴らの総称に近いからのう。魔法によく似ているのに魔力を使っていない謎なスキルを持っておる。おまけにそれ相応に強く、対峙するとなると熟練の冒険者でもなかなか辛いものがある。一対一ならまあ勝機は無いじゃろうな。」
「私らも昔やりあった事があるけど正直キツかったわ。ここに居ない一人を含めても完全な準備をしてかかっても辛いもの。複数が相手ならSランクをもう数グループ集めなきゃ無理よ。ドックと二人じゃあ悪魔一匹相手でもギリギリ勝てるかどうかの綱渡りになるわねきっと。」
ふーん、悪魔ってめんどくせーんだなぁ。
三人で適当に歩き回って薬草採取やら
盛り上がった小山から鉱石採取やら
伐採にてプチ森林破壊やらして回った。
二人はそれなりの収納魔法持ちで
ヒョイヒョイと物資をしまっていってた。
俺の方も依頼の品となる薬草を集めていったよ。
途中もちろん魔物も出たけど各自弓で射ったり斧でシバキ上げたり俺は土魔法で石弾いたり潰したり突き刺したりでテキトーに対処した。
もちろん使えそうな素材はお持ち帰りだーよ。
そんで、帰り道にて。
「そういやお前さんのCランクってのは以外じゃったな。」
「ホントねー。あんたの身構え見た感じだとA、どれだけ低く見積もってもBランクくらいには見えるんだけどね。」
おかしいなあ。うまいこと隠してるはずなんだけどな。
「納得いってないって顔ね。まあ私らクラスになればある程度実力を隠してても分かるもんよ。どうしても”普通過ぎる”違和感ってのは拭いきれないからね。アンタの立ち振る舞いから見ると普通Aランクくらいにはなってるもんだもの。」
「どちらにせよ戦闘時の立ち回りが異常じゃよ。動きに破綻が無さすぎるからのう。土系等の魔法しか使っていなかったがそれだけではあるまい?」
「まあ、そこら辺は機会があればということで。」
実際意図してAランクになってしまう程の高難度依頼は
受けたことは無い、表向きは。
メインのカードもBランクで留めてたりするからね。
変なオプションテンコ盛りにされちゃってはいるけど。
もっとも、この洞察眼だとそこらへん関係無しに当てちゃうんだろけども。
「まあ僕は厄介ごとが嫌いなんですよ。うまく立ち振るまってのんびりと旅がしたいだけなんですよね。」
「高ランクになればなるほど高難度の塩漬け依頼の消化や有事の際の協力も求められたりするからのう。わからんでもない事ではあるがの。」
そんな会話をしながら街、そのギルドに帰ってきた俺たちは依頼の薬草を納品した。
俺はここでついでに受付にこの事を聞いておく。
「そういえば悪魔の討伐の段はもう取れたのですか?」
「いやあ~さすがにSランク冒険者はそうそう集められませんよ。そこのお二方にも聞いたのですが受けてはくれませんでしたので・・・。」
そう言ってルカとドックの方を見る。
「私らだって悪魔に挑むなら万全の準備じゃないと駄目だもの。今の状態じゃ受けられないわ。」
「同じくじゃな。ワシらは前回受けた悪魔の討伐でメイン装備をダメにしとるからのう。今の状態じゃ足をひっぱるだけじゃよ。それに一人欠けとるからの、正直悪魔クラス相手に勝てるとは思えんよ。」
どちらにせよ引退したらしいもう一人が居ないと無理って事ですな。
結構強いみたいだもんね、悪魔全般がさ。
「大変っすね。他の街から来るのを待つにしても
こんなただの辺境ですもんねえ~。
素材とかなら結構レアな物もあるみたいですけど
こうズバッと冒険って感じの依頼が無けりゃ
そんな英雄的なパーティそうそう来ませんもんねぇ。」
「まあ魔王が攻めてきたりだとかでもあれば
活気付いていろんな強者が出入りするんでしょうけどね。
どうしようもないんで他のギルドに打診してみるしか
ないでしょうねえ。」
各ギルド支部への連絡ネットワークを使った打診だろう。
各支部への報告書や手紙の定期便から希少な魔道具を使用した
特急通信などがあるらしい。
「大変そうですね、管理する側ってのは。」
「もう大変ですよ~。」
う~ん、早めに蹴りつけないとめんどくさくなりそうだなあ。
「お疲れさんです~。またふらっと寄りますね~。」
さーて、こっからはちょいと動くとしますかね。
「じゃあ僕は適当に街を散策してから宿に戻るとしますよ。」
「そう、私は汗を流したいからさっさと宿に戻るわ。」
「ワシもゆっくり休むとするかのう。」
俺たち三人は解散したーよ。
でもって俺はギルドを出るのだが・・・
”傀儡役”の報告を待ちたいとこではあるんだけど
「兄ちゃん、ちょっといいかな?」
呼び止められた―よ。
めんどーはきらいさね、はっはー。