街の事情
それから更に数日間滞在させてもらった。
久々に何も目的を持たないのんびりした日々を過ごす事が出来た。
たまに琴音ちんは部屋にこもってたけど
基本すごく楽しそうにしてたよ。
後、実はここから街まではそこそこ程度の距離らしく
徒歩でも一時間ほどで街に出れるそうだ。
ちょっと街まで下りてみようと思った。
街があるなら少しばかり探索しなきゃ
ならないんでね。ちょっとした調べものだ。
せっかくだから街を二日ほど見て回ったら、
もう一度戻ってまたしばらく滞在させてもらおうと思う。
「って、わけでいいですかいね?琴音ちゃん。」
「ちゃん呼びはむず痒いのう。だいたい妾はもう百と数十生きておるのだぞ?まあよいわ。妾もお主といるのは楽しいからのう。いっそここに住んでみないかえ?」
それはさすがにできない。
俺にも予定があるからな、いろいろと。
「まあ俺もちょいとばかしやらなきゃならない事があるんだよ。楽しいから長居したいけどそう何か月も何年もはいれないさ。」
「そうか・・・。ちょっと残念じゃのう。とりあえずはまた戻ってくるのを待っておるぞ。」
「ああ、また寄るよ。それじゃ。」
そう言って俺は片手をあげ歩き出した。
「・・・これで、サヨナラじゃな。戻ってきたとしても・・・」
俺は彼女がつぶやいた言葉は聞こえなかったふりをした。
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「・・・ここらへんで結界の外かな?」
あたりは森である。
「ふむ・・・。なかなか面白いことをしてくれるな。」
自分の気持ちの中で急速に幻影城と琴音への興味が
引いていった。
そして少々の不振、不快感が湧き出てくる。
「あえてそう仕込むのか。また戻らぬようにと。」
微力の魅了系魔法を掛けて親交を持ちながらも
離れるときは再び寄り付かないようにか。
まあ・・・。
「街はこっちか・・・。とりあえず見てみてからだな、街を。」
まあ俺には効かんけど。 そんなまやかしなんぞ。
擬態の魔法にて肌色を少し濃いめに、
髪色を茶黒から赤へ魔法で変えてから
街に入ってみた。
そこそこの大きさだな。入口の門もデカい。
門の衛兵とひと悶着あったがゴリ押しで何とかした。
そりゃあここいらで”悪魔の森”と言われている
森方面から来たのなら疑われて当然だろうな。
魔物に襲われて逃げてたら迷ったことにした。
ワタシハホウコウオンチ、ウンチ。
そういえば街の名前を聞き忘れてた。
まあどうでもいいか。後からどっかで聞けるだろうし。
とりあえずここの冒険者ギルドに行くことにする。
ギルドでとりあえず目にとまるような依頼を
探してみた。
・・・が、特になかったので簡単めな討伐と
採集依頼の紙を掲示板からはがし受付に持っていく。
期限も明後日以降とのんびりできるものだ。
他にも常設の採取依頼もあるようだ。覚えておこう。
幸いにも受け付けは空いていたので
待つことなくカウンターに依頼用紙を置く。
「初めまして、だな。とりあえず登録とこの依頼を頼む。」
そう言って偽造したギルドカードを出した。
まあ偽造とはいっても偽造では無い。
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冒険者ギルドはこの世界での一つの連合だ。
各国からの独立した機関として存在している。
国からの要請に応じて手を貸したりはすることも
時にはあるが基本は依頼主として以外は
原則非干渉である。
管理は各支部を拠点に全体をリンクはさせている。
ギルドカードは登録者ごとに専用品、
譲渡はできなく複製に偽造は重罪だ。
そして規約で一人が重複して登録することは
できない。・・・のだが実際は結構ザルな部分があり
すでに登録を済ましていても発行したことが
無い支部へ行けば別で新規登録することが
可能だったりする。
ギルドカードは登録者の血を使う
血印の契約系列の魔法で管理される。
だがこのシステムに穴があり
(恐らく意図的なセキュリティホールではあるが)
登録で使用したことある支部だと血印のデータ参照さえすれば
重複登録がわかるシステムなのだが
何故か別支部だと検索が出来ない。
きっと血印を使う登録システムと各支部の
情報共有のシステムが別系統になっているのだろう。
一度カードの発行さえしてしまえば管理システム上で
血印の照会を起こなわない仕様のため
後は各支部の職員が気づかなければ同支部にて
同じ人間が二枚のギルドカードを使っても
バレることが無いのだ。
たいていの場合は大事をとって
使った事のない支部で登録をする。
これは各支部にて依頼を受ける際、支部ごとに
カード情報の登録をしなければならなく、
その際に職員の目によって重複登録が発覚する恐れが
あるからである。
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受付の男が返す。
「ゼロさんですね。ようこそ、最果ての街フォロールへ。」
森と山を挟んで魔族領に面する、人が住む果ての街。
森の中の崖下を切り拓き作られた街である。
問題なくこの支部での登録を終えた。
可もなく不可もない真ん中くらいのランク、Cランクのゼロだ。
一人旅をしてても不自然ではない程度のランクである。
ちなみに受けようとした依頼も旅の路銀稼ぎに丁度良くも見える
狼系の魔物の討伐と薬草系統のハッパなんかの採集である。
受け付けは書類を記入していき処理を進める。
そして依頼も問題なく受注となる。
せっかくだ、少し聞き込みだな。
「そういえば僕は道に迷って遠回りしちゃって
悪魔の森と呼ばれてる方面を通って来たのですが
あそこには何かあるのですか?」
「悪魔の森ですか! なんて場所に入ってるんですかっ!」
受付がカウンターをバンッと叩き立ち上がる。
「あそこには気まぐれで人を連れ去ったり殺したりする二本角の悪魔が住み着いてるんですよ。いい素材なんかも多く手に入るのですが魔物も強いものが出ますし運悪く悪魔と遭遇すると死ぬことになりますよ!」
「へぇ~。おっかないですねぇ。その悪魔ってそんなに凶悪なんですか?」
「そうに決まってるじゃないですか。戦いを挑んだ冒険者は軒並み帰ってきません。一応討伐依頼の準備は進めているのですが推奨が最低でもSランク以上の冒険者で構成されたパーティですからねえ・・・。それに依頼を出そうにも街の古株の家なんかは討伐に反対してまして・・・。」
「何かあるのですか?」
「悪魔は気まぐれで魔物も襲うのですよ。これは運良く悪魔に見つからずに逃げてきた冒険者の証言もあります。そのせいかこの街を魔物から守っているのはあの悪魔だと言う人も居たりで。街の古株なんかは”アヤカシサマ”だか言ってね。」
アヤカシ・・・ねぇ・・・。
恐らくは・・・ふむ。
「まああの森と奥の山を越えれば人族と敵対している魔王の魔族領ですからねえ。とはいえ、人にも危害を出している以上はほっておくことは出来ないです。幸い魔王も悪魔も向こうから攻め入ってきたりは無いのでまだ対策を考え続けることができるのですが。」
「ふーん、よくわからん奴なんですねぇ。」
その後ギルドを出て街を散策してみた。
とりあえず今日の所は適当に街を楽しんでから
宿で一泊して終わりのつもりだ。
露店で買いこんだおいしい串焼き肉を頬張りながら
買い物ついでに聞き込んだこの街の情報を整理してみる。
もちろん妖こと悪魔の情報もサルベージだ。
1.悪魔はかなり昔、何十年と前から森に住み着いている。
1.森の悪魔は魔法や気とは別の人知を超えた力を使うため悪魔である。
(悪魔は魔力を使わない独自スキルを持つ故に)
1.街からもう少し魔族領寄りに行ったところに昔は対魔族用の砦があった。
1.古株の領民は悪魔のことを妖様と呼び
古くから魔族領との境を守る護り手を担っているという認識である。
1.妖とは別に森を切り開いたとされる鬼姫様の伝説がある。
1.領主は鬼姫伝説がお気に入り。かつ実際の事実という認識である。
1.領主は悪魔の討伐を冒険者ギルドと協議、調整中。
1.山から魔族領までの魔物はかなりの強さ。
だが縄張りではないためか悪魔の森まで進行することはない。
1.森の悪魔と関わった者で悪魔の森に再び行くものは少ない。
また、再び森に向かう者も悪魔を討つために向かう者である。
1.悪魔を討ちに森に入っていった者は未帰還者が多い。
かつ帰還したものは悪魔とは遭遇せずに街まで戻ってきている。
1.悪魔の森の素材は貴重。高級ポーションや強力な武器の元になる物が多い。
でもって、聞き込んでてちょっと気になったのがこれか。
1.悪魔の話は何者かが広めている節がある。
1.冒険者ギルドの依頼を受けることなく悪魔の森に入り、帰って来ない者が居る。
こんなものだったかな?
あとは森の悪魔こと琴音と別れた後の俺の状態
・・・いや、琴音と遭遇してからの俺の状態か。
1.琴音と遭遇時に自分にしては少し強めに彼女に興味を持った。
1.別れて結界を超えたあたりで興味が解け、逆に琴音への嫌悪感を感じるようになった。
1.街で悪魔の情報を聞いた際に琴音に対し二度と会いたくない
かつ討伐すべきだと言う感情が沸き上がった。
1.悪魔関係の思考にもやがかかったような思考の回り辛さがある。
そして・・・
1.これらは、本来の私の思考では思い至ることは無い。もっと別の思考になる。
意識改変、魅了系の魔法をベースにかなりのアレンジをした物だろうな。
おそらく元の術式がわからくなるくらいの改変をしてるだろう。
まあ、この状態異常はあえてそのまんまにしている。
彼女は人を避けている節があるようだ。
少々面倒だが諜報用の魔法セットを発動させるかあ・・・。
それをした理由につながる情報が欲しいとこだしね。
ホントは頭疲れるから使いたくないんだよなあ。
完全リモートってわけにもいかないし。
そんなことを考えてると・・・
「おい、にーちゃん。なーに難しそうな顔して考え込んでんだよ。」
串焼き肉を売ってたおっちゃんに声をかけられた。
「うちの串食べながらそんな難しい顔されたら気になるってんの。」
「うーん、ちょっとした興味みたいなもんなんですがね・・・
”森の悪魔”って何なんだろうなあって思って。」
「それがどうかしたってのかい?」
「”彼女は”そんなに悪い存在なんですかね?」
そう返すとおっちゃんは少しあたりを見わたしてから
「あまり大きな声じゃあ言えないんだがな・・・」
そう言ってひそひそと話す。
「もともとはアヤカシサマって言われててな。魔王領の侵攻を何十年と止めてくれてるって話なんだよな。
実際、魔王領側のヤバい魔物なんかも追い払ってくれてる。アヤカシサマが悪魔と言われだしたのはここ近年なんだ。・・・そうだな、丁度そのころに領主の補佐が変わったように思う。」
おっ、これはアタリかな?
「・・・彼女に会ったことがあるんですか?」
「・・・どうしてそう思うんだ?」
「巷の噂では性別の事は何一つ言われていませんでしたよ。」
「・・・ガキンチョだった頃にな、森に入るなって言われてたんだけどよ、森に入って遊んでたら迷っちまってなあ。その時助けてもらったんだよな。だから姿を知ってるし、さらに言えば悪魔のうわさが広まる前なんかはちょくちょく街にも下りていてたよ。そりゃもう変な人オーラプンプンでさ、アヤカシサマを知ってる人はみんな一目でわかってたよ。バレバレだってのに旅の人のふりしてさ。」
「なるほどねえ・・・。」
「だけども、今じゃああんまり表立ってアヤカシサマを擁護するとガラの悪い奴に襲われるみたいでなあ・・・。正直おかしな空気だよ。」
「へぇ~、なるほどね。そりゃいいこと聞かせてもらいましたわ。あ、ついでに串あと10本ください。」
「おいおい、どんだけ食う気だよ。気に入ってもらえたのは嬉しいけどな。」
何にしてもとりあえず一泊だな。依頼を済ませてある程度
調べがつけられたら戻ってみようか、幻影城に。
・・・あっ、宿取ってねーわ。
「おっちゃん、ついでにお勧めの宿とかある?」