エンドロールは想定外
いったん砦に逃げ込んでいたのだろうか。
砦の中には鬼灯の姫を襲った連中の生き残りが
うじゃうじゃと居た。魔族の侵攻を運良く逃れていたらしい。
「お・・・おい、お前、いったい何が起こっているんだよ!?さっきの仮面野郎の仲間かよ!?」
今の私はアイツと同じ仮面を被っている。
私もあまり顔は見られたくない。
「答える必要なんてないでしょ。あなた達は誰に、どういった人についたか。それだけよ。」
話を聞く必要などない。皆処理するだけ。
私は自分から天翼を分離させ、生き残り全員を殺させた。
羽で裂き、蹴り飛ばし、手で引きちぎり。
私自身も素手である程度殺しておいた。
後始末を考えるならこれが手っ取り早い。
我々の痕跡は最低限に抑えわからないようにしなければならない。
撲殺が一番だ。
鬼灯の部屋に入るとすこしまわりを見て状況を確認。
力を開放する。髪と目が紫に染まる。
紫のオーラを噴出させながら印を室内に刻んでいく。
刻み終わったら部屋の外に出て更に外からも印を刻む。
この部屋だけが別空間となる様に世界から隔離した。
中には一応自分とアイツだけが入れるように転移魔法陣も設置しておいた。
最悪砦が吹き飛ばされてもこの部屋は異空間に残るし
私たちは何も特殊なことをせずに入れるようにもした。
とりあえずはこんなもので・・・いや、
「・・・死体処理ぐらいはしておかないと、か。彼女の言付けも渡さなきゃだし面倒よ、ホント。」
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・・・・ケツが痛い。
馬車ってのは何度乗っても慣れないものだ。
俺は掘っ立て小屋の屋根だけのっけたような
安価な乗合馬車に心の中で悪態をついていた。
まあでもここいらは道がそれなりに舗装されてるから
楽な方ではあるんだよな。小石なんかも少ないから
揺れはそこまで大きくはねえ。
高級で乗り心地のいい馬車に乗れだと?
低予算こそベストに決まっている。ただの移動だぞ。
でも痛いもんは痛い。ケツが痛い。
イライラしながら黒髪の頭をガシガシ掻いた。
「兄ちゃん、だから言ったろ。敷もんを貸してやると。」
「そんなもんで銅貨2枚もとるんだろ?いらねーよ。」
その返しに御者は笑う。
「ケチケチすんなよー。こっちだって商売なんだからさ。」
「ケチはどっちだよ。」
どう考えても客が俺だけだったから
ちょっとでもふんだくろうとしてるだろいけすかねぇ。
こんな緩いやり取りをしながら俺は最果ての街に向かっている。
まあ、今となっては最果てだなんて感じでもないんだが。
元々森と山を挟んで魔族領とにらみ合ってた街なのだが
ここ3.4ヵ月で状況が変わったらしい。
今では互いに交流を始めようかとの声まで上がっているそうだ。
一回あわや戦争寸前まで行ってしまったそうだが
魔族領の代表が変わって色々変わったそうだ。
「フォロールへようこそ。」
衛兵のお兄さんがにこやかに挨拶をしてきた。
今俺は馬車の中から身分証を衛兵に見せていた。
一応規則として見せてくれとのことだった。
確認が終わると街を囲う壁の中へとご入場、門へとゴーだ。
街に入って俺は御者と別れた。
客が少ねえからってそこそこ取りやがって。
御者には別れる前に俺の目的の場所は
どこかを聞いていたのでそっちに向かう。
「ようこそ、フォロールの冒険者ギルドへ。」
受付のお兄さんがそう答える。営業スマイルと共に。
俺はとある紹介状を使う為にフォロールの街の冒険者ギルドへ来たのだ。
ここのギルドは冒険者と商業ギルドの
両方の機能を持たせてあるらしい。
元々辺境だったこともあり商業ギルドが単体では無く
冒険者ギルドに委託管理させているそうだ。
俺は身分証、其れ即ちギルドカードを出すのと同時に
封筒に入った紹介状を渡した。
「すいませんがこれをお願いします。」
受付のお兄さんが封を開け中を確認する。
紹介状の中身に目を通しているお兄さんが突然ギョッとなり、横に居たお姉さんに静かながらも圧をかけるように
「今すぐ、ギルマスを呼んでくれ。言われていた例の照会だ。」
と、言うのであった。
「あのー、何かまずい事でも書いてありましたかね?」
そう聞くと男は焦り
「い、、、いえ、滅相もございません!ただ、どうしても照会が必要なものだったものでして。問題はございませんっ!」
照会に紹介、紛らわしいね。
しばらくするとおっちゃんって感じの人がやってきた。
「いやぁ、すいません。仰々しくしてしまって。それよりもあなた様のお名前はジン様、ジン・キジマ様でよろしいですね?」
「はい、そうです。紹介状に名前も書いてありましたかね? あとそんなかしこまらないで欲しいです。僕は貴族でもなければランクもB程度ですよ。」
「・・・すまないね。私も堅苦しいのは苦手でね。フォロールのギルドマスター、カールだ。」
あれ?
「マスっ・・・? よろしくお願いします、カールさん。」
「早速だが物件まで紹介しよう。」
俺はフォロールにはお店を開きに来たのさ。
喫茶店を開きたいと思ってね。
誰も俺を知らない街でお店を持ってのんびり暮らしたかったんだ。
材料の仕入れルートとかも考えなきゃだけど
幸いにも資金はしっかりと準備できたし
仕入れもちょっとばかしのツテがある。
友人からの紹介ってことでこの街の西側の建屋を安くで譲ってもらえるように紹介状を用意していたのさ。
お高くまとまってない、一般の方にも通ってもらえるようなリーズナブルなお店が出したいんだよね。
さてさて、物件まで歩いて移動しているのだが
西側に近づくにつれてどんどん建物が新しくなっていってる感じがある。さらに進むと建設途中の家やお店も多くなってくる。
そして、その西側地区の中心地になるのかね? デカい噴水がある広場に3つの銅像が並んで立っているのが目に入った。
真ん中の銅像は額に2本の角が生えた和装の女性、それも何故かちょっとドヤ顔である。
そしてその左右はフードを被って顔を隠している怪しげな二人だ。
「なんなんですかね? この銅像。」
「これかい? 街を救った英雄様たちだよ。」
なんでも少し前に魔族領内で内乱のようなことが起きて
その勢いのままフォロールまでその一派が侵攻してきたとのこと。
その時この街を守ってくださった3人だそうだ。
「ほえー、しかし、脇の二人はフードに仮面って怪しすぎません?」
余りの怪しさに思わず俺ちゃん、苦笑いだよ。
「まあ、なんというかな・・・。二人とも顔出し厳禁って奴だったんだよな。両者シャイなのさ。」
「へー。なら真ん中の子はなんで顔出ししてんのさ。」
「あー、それはだなぁ・・・。その方は色々、色々あったのさ。俺たちフォロールの古株たちはみんな世話になったんだ。英雄ってよりも恩人とかの言い方の方がしっくりくる。」
そうこうしているうちにお目当ての物件に着いた。
庭付き2階建てのなかなかいい物件だね。
だけど俺が提示した金額っていいとここじんまりしたリビングダイニングキッチン程度の建屋しか買えないはずなんだけどなー。
「これまた立派だなー。多分予算なんかも紹介状には書いてあったかと思いますがこれ金額間に合いますかね?」
「別にいいさ。もともと出来る程度でいいから少しだけ融通してくれって話だったからな。」
「いや、融通しすぎじゃありませんかねこれ。」
1LDKのお部屋探ししてたら3LDKプラスして2階に庭付きって感じでやり過ぎ感が酷い。
「いいんだよ。これの依頼者から聞いてるがだいたいどんな事したがっててどんな建屋を用意するのがベストなのかはしっかり相談済みだぜ。何よりもデカい貸しがある人だから問題ないさ。」
あー、あの野郎さては無茶言いやがったな・・・。
「・・・安心してくれ、依頼者二人からお前さんによりいいものを渡したかったからとも聞いている。」
まったくあの野郎・・・。
・・・ん?二人だと?
「俺は・・・俺たちフォロールの人間は依頼者たちに、そんでもってその依頼者がお前さんに借りがあったって話。そんなとこだろ。」
「に、してもこれはデカすぎますよ。」
「まあいいじゃねえか。それにな、せっかく店を出すなら長い事ここに居てほしいのさ。フォロールはこれからまだまだ発展する。だからこそお前さんにも手伝ってほしい。彼女らの紹介ならお前さんを信用するよ。」
・・・んん? やっぱりどういう事だってばよ?
ってかこれって・・・。
「はあ・・・。そんな期待するようなこと言われてもただ店出すだけですよ? もしかしたらつぶれるかもしれないですしね~。」
「その時はその時だ。一応冒険者なんだろ? 食い扶持自体は確保できてるじゃないか。」
「まあ、そうですね。あ~、気楽にいきたかったんだけどなんか期待されちゃったよ~めんどくさい~。」
「期待はしてるがそんなに気を追わなくていいさ。最悪俺たちの世話にでもなればいいじゃないか。」
あー、シーじゃねえな多分。
あいつ俺の心覗いてから行きやがったからな・・・。
「受け取ったのは二通だ。シーってフードの子が代理として言付けでその紹介状を持ってやってくる奴を手助けしてほしいってのが一つ、もう1通はお前さんが考えてたことを彼女が教えてくれたんだ。」
「アイツ・・・こっそり奴に渡してやがったのか・・・。」
「一応安心してくれ。手紙の内容は俺たち二人しか見ていない。つまり、そういう扱いをするってことだ。」
あー、バレないと思ってたのに。面倒だよ・・・。
そしてカールさんは俺の方を向きなおして
一度咳払いをしてこう言った。
「では、改めて。ようこそフォロールへ。今後ともよろしく、英雄殿。」
フラグを回収しきらずにこのお話はここで終了します。
元々訳ありチート野郎の案があった所にとあるVのシチュボ募集があったので
送ろうかどうか迷いながら思い付きで書き始めたものです。
(まあ、シチュボ送りにしてみたかった物の原形は残ってないですしその某Vの方を当てはめたキャラも最早似ても似つかずにはなってしまいましたが)
ここに登場した人物のうち
ゼロとシーやその関りについてはまた気が向いたときに
別話として更に書き進める予定ではあります。
この二人の関係性と行ってきたことが軸となる話をメインでやっていきたいかなぁと思っていますよ。