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足掻き

「・・・。・・・っ!」



―――― 記憶の中にあった貴方は

こんな事では諦めなかったわ。 ――――


「なんて幻聴だよ、まったく。」


相手魔族たちも持ち直して少しずつ立ち上がり始めている。

満身創痍になってしまった私を見れば

すぐにでも襲い掛かってくるだろう。


―――― 言ったはずよ。私は貴方を見守ると。 ――――


「その喋り口調じゃあ誰かわからないよ。」

私は嬉しさに思わず口角を上げる。

あのアホボケェ自分から死んだくせに

俺の事観察してんじゃねえヨ、ホントに・・・。


―――― フフッ。お主はぶりっ子が

好きなのかえ? ――――


「やかましい、シバくぞ。」


向こうの頭領たちがこっちへとやってくる。

流石に少々警戒してはいるようだが。

だけど俺はもうボロボロでスカしっ屁も出ないんだけどね。


―――― もう、ひと踏ん張りできるかえ? ――――


「何言ってやがる。まだまだこれからだ。」


――――・・・。妾は、充分な時を生きた。

だがな、お主はまだこれからじゃよ。 ――――


琴音の魂が少しずつ俺に重なる。

ボロボロになった体が少しずつ修復されていく。


―――― 妾の力、魂。お主が使え。

言うたじゃろ? お主を見守ると。 ――――


「・・・見守るってさ、何なんだよ? 哲学か?」

何言ってやがるんだ。手ぇ出すのは見守るって範囲じゃねえだろ?


目の前が滲んでよく見えない。

もう生きてはいないと言うのになぜこんなにも嬉しいのだ?

何故こんなにも俺は安堵しているのだ?


―――― お主は妾の最後に平穏を与えてくれた。

それだけで妾は十分嬉しかったのじゃよ。 ――――


「・・・馬鹿野郎。だからってそのまま

死ぬこたあねえだろ。」


―――― このまま、お主との楽しかった記憶を

持って朽ちて逝きたかった。

充分に満足できた最後の生じゃった。 ――――


琴音の魂と力が流れ込んでくる。


―――― 生きよ、妾の為に。お主の死など

見とう無いから。生きよ、お主自身の為に。

お主はもっと、幸せにならなければならない。 ――――


しっかりと足に力が入る。

俺はしっかりと大地を踏みしめた。


―――― お主なら持つかもな、鬼仙術。

但し、多用は・・・ ――――


「関係ない。俺ならどう転がってもどうとでもなる。」





俺は刀と自分の魂を共鳴させた。


"魂の共鳴"

身魂ノ器(みたまのうつわ)、もしくはソウルアーツと呼ばれる

特殊な道具を媒体にして扱える技術である。

そして身魂ノ器は共鳴にて互いの力を増幅させる道具群の事を言う。

その特殊性故に道具自身が魂を持つ物まで存在する

秘匿されし究極の装備群である。今持つ綴魔もその一つだ。


体が共鳴に持たないレベルまで

ガタがきていた筈だった。

だが今はある程度形が成せるくらいには至った。

琴音のアシストが物凄く強く効いている。

「深めるぞ。」

俺は琴音の魂を己が根源まで受け入れた。

琴音自身の力と練られた鬼道術の力が流れ込む。

体の表皮が左半身を主にして岩の様な見た目を持って硬質化していく。

額には左の側に一本の角が生える。


その半身、それは故郷で密かに語り継がれた妖の姿だった。

戦神(いくさがみ)と恐れられた妖、戦鬼。

再び現世へとその姿を現した。


そして・・・。

「目覚めろ、冥神綴魔(つづらま)。」

俺の背には漆黒の翼が現われる。

「映すは想い。大儀無きその理、我が行く道と相反する道成りて。道塞ぎし者、力にて排するのみ。」

俺は刀を前へまっすぐに構え、息を整える。

刀身が肉付くかのように弓なりに先から先まで刃がついた片刃の大剣となった。

敵、大将首を取るべく歩みを進める。

程々で歩みから切り替え急加速、瞬の間にて

相手の残り軍勢を一気に切りつける。

反応できる者は少なく防御態勢をとろうとする者も

構えた防具、武器をそれごと斬り捨て戦闘不能にする。

だが、煩わしい。

「・・・Bio chain system 'Limit' L.o.v.e. DoT'rain 」

魔法による毒素精製、弾丸上に形成し周りの雑魚へと飛ばし込む。

筋弛緩毒系の介入感染型タイプの魔法に更に遅効性を持たした物。

感染者の意識を奪い周りへの好感、仲間意識、忠誠心を元に対象を認知、襲わせ感染させる悪夢の連鎖を起こす。

魔法等で干渉できない者達を加速度的に戦闘不能へ。

魔族の頭領以外はこれで削れるだろう。


頭領へと刃を向けると

流石にこの者は鍔迫り合いにて耐えた。

頭領は何とか、といった様相で俺の剣をはじいた。

「貴様、いったい何なんだその力はっ!」

叫ばずにはいられないだろう。

地獄門を撃ち抜く力も相当な物、

魔族だろうと普通なら不可能な話なんだけどな。

鍛えるなり蓄えるなり、相当な力を

持つ事が出来ていたのだろう。

「お前にも何かしら目的があったのだろう。

故に、神にも迫るその力を手にしていたのだろう。

だが、それでも俺は、今、この場にて屈することは無し。

この力はかつて人の身より神へと昇華した異界の武神の力、

それが時と想いを嵩ね変質して形を成した理外の一振り也。」

俺は更に斬り結ぶ。一振り一振りに思いを乗せて。

「鬼姫により加護されしこの身をもって貴様を穿ち消し去る。

神と称される者すらをも打ち砕かんとする一撃を受けよ。」

俺は全力で踏み込み刀に力を籠め、かつ集中させ斬撃を与えていく。

「調子に乗るなよっ!」

頭領が体から黒いオーラを吹き出す。

魔力とは違う、この世界ではあまり見る事の無い力。

魂を基に作り出すその力は世界によってさまざま呼び方がある。

「ダークネスソウルッ、バーストっ!」

練り上げられたその力で俺をはじき

さらに追い打ちで斬撃を大量に放ってきた。

飛ばされた斬撃を切り伏せようとはしたものの

反応がついていかない。

俺は耐えきれず黒翼でガード。

斬撃を耐えきり、そのまま互いに斬り結ぶが

そのまま押し切られ、ついには街の中に吹き飛ばされてしまった。











いくつもの建屋を吹き飛ばし瓦礫に埋もれてしまった。

俺は全てを押しのけ痛む体を無理やり起こした。

力の結晶体である黒翼を一定量の斬撃は透過し

俺の身体にダメージを与えているし

吹き飛ばしの一撃もかなり効いている。

鬼仙術にて纏った硬化した体もボロボロに崩れ

下の元の人肌が顔を出している。

左腕、両足にあばら、肩も骨が

砕けるかヒビが入っているようだ。

おまけにそこら中傷だらけ出血だらけ。ものすごく痛い。

「・・・ハハッ、ちょっと鈍ってるな、こりゃあ。」

リカバリーが追い付かない。

ガタガタの身体に鞭を打ち、立ち上がろうとするが

力が入らない。

「あー・・・。こりゃまずった、かな?」


「おおいっ! みんなっ、こっちだ!」

彼奴が気づくまで身を休めようとしていたら

人が寄ってきた。

・・・って、おいおい。串焼き屋のおっちゃんじゃねえかよ。

わらわらと何人かの・・・冒険者かな?

ああ、ルカもじゃないか。俺に寄ってきた。

「なんてひでえケガだよ。ハイヒール!」

「重ね掛けでもしないとたんないわよ。

私も掛けるわ。ハイヒール!」

「近くに回復魔法の使い手はいないかっ!」

ルカもドックも俺なんかほっておけばいいんだよ。

・・・だってのにドックのおっさんまでもが駆け寄ってくる。

「ワシのポーションを使え! あるだけ全部使っちまえっ!」


おいおい・・・。

「・・・早くここから離れてください。ここに居ては・・・」

「そんなこと知るかよ!」

カールのおっちゃんは言ってくる。

「余所もんのお前さんだけこんなにボロボロになってんだ! せめてこのくれぇはさせてくれ。俺たちは元々死を覚悟してここに居るんだ!」

かといってこのままここに居られたら困る。

確実にあの頭領が追撃をかけてくるはずだ。

「・・・。もう充分ですから離れてください。巻き込むことになりかねない。」

「だめですよまだ動いたらっ!」

ハイヒールをかけていたよく知らん女性魔法使いが叫んだ。

でもこれ以上はまずいんだわなあ。

「とりあえず魔力ポーション持ってきたからこれ使いながら魔法使って!」

キンキンした声が頭に響く。ルカはもう少し静かにしてくれんかね・・・。







「いい加減よく考えなさいな。」

それは何の音も気配も無く誰も気づくことが無いままに

俺たちのそばに居た。そう、フードのシーちゃん。

周りのおっちゃん達は謎の存在の突然の出現に

グッと身構える。

「貴方はいろんな事を独りでやろうとし過ぎなのよ。

こんなに心配してくれる人が居るって言うのに。」

「・・・。」

「・・・アシストするわ。欠損分は私たち”二人分”できっと何とかなる。」

「・・・すまん、すまんな。」

「我々の制約に触れるとしてもアレは見逃せないわ。」

そう言うとシーは俺の肩を支えて立たせる。

おっちゃんが咎めてくる。

「おい、待てよ! そいつぁまだろくに・・・」

「このバカはこれ以上の無茶をいっつもして来たのよ。それを死なないようにアシストするのが私の役目なの。安心して、無茶は止められないけど死なせるつもりはないから。」

頭領の持つ威圧感を感じる。

結構吹っ飛ばされて離された筈だが

もうかなり近くまで来ているらしい。


―――――― いけるかの? ――――――


「やるしかねえだろ。see(シー)、クロスドライヴだ。」

「傀儡人形及び観測者としての任を破棄、’鬼道’と私に’天翼’で欠損部をカバー。”天来、御身を包む紫白(しはく)の流れ”。」

シーから白を纏った・・・黒き肌を白い羽で

染め上げた天使のような存在が

幽体離脱でもするかの如く姿を現す。

「番いの血、交わりし結晶の翼。顕現せし意志は、天翼の羽衣・・・纏いなさい。」

「クロスドライヴ。」

天使のような存在は白色のオーラへと昇華し

シーは紫煙状の霊体へと変質していく。

それぞれのオーラが俺の身体を包み込む。

「「フュージョン。」」

霊体のシーが後ろから抱き着くように俺を包み込む。

琴音を含めて()()()()が俺に馴染んでいく。

心臓のあたりが痛む・・・が、無視だ。

更に俺は綴魔を自身に溶け込ませる。


俺の本領を引き出せない現状においての最善手。

力を練り上げ、身構える。

そんな俺に迫る魔族の頭領。

「貴様は・・・、ここでっ、消し去るっ!」

頭領が魔剣を構え斬りかかってくる。

瞬の間に力の結晶である翼を精製、展開。

ほのかに紫で染める黒白の混じる二対、四枚の翼。

その左二枚を盾にし轟音を放ちながら防ぎ切った。

しかし、二撃目は更に力を込めて振りかぶってきている。

回避してもしもがあれば衝撃波で周りの被害は甚大、

受けるにしても耐えられそうにはない。

反撃して隙を作りたいところではあるが意識をそっちに割く余裕が足りない。

「・・・ツインゲート。」

余剰エネルギーが両の肩から放出される。

繊細な出力動作が必要な技術を行使する際に

わざとエネルギー過供給になる様に力を練り

過剰分を放出し逃がす事で使用難度を下げる(誤魔化す)方法。

かつて友人が編み出した物量押しの

魔力操作方法を真似たものだ。

「・・・インパクト。」

俺は力を込めた拳でとりあえず殴りつけた。

拳が触れる瞬間にお気に入りロボットアニメの

〇ル〇ブラストを真似て力を爆発させて吹き飛ばす。

感触としては距離は稼げたがダメージの入りは浅めに思う。

今のうちに奥の手を練り上げきる。

『『・・・(アマツ)の翼、纏いし御身。』』

俺の中の二人が(うた)を紡ぎながら

一対の翼で背中を覆う。

其れに合わせて続きを俺が続ける。

「天より授かりし其の御身、己が天をも穿ち貫かん。」

翼を開きなおした其処に、一振りの大剣が現われる。

漆黒に染まるその剣身は紫の輝きを放つ。

その一振りを手に取り、俺は共鳴させる。

かつて、軌跡により顕現した天翼(シーの纏う)の羽衣(オーラの具現)

そしてその羽衣と他、二つの魂と三振りの刀を

媒体として発した天をも穿つその力。

「神妖共々破せよ、破天の(つるぎ)。」

発現させるにはピースが足りないその力を

琴音の存在にて補填した歪な形。

いや、むしろこれが本来のあるべき形なのだろう。

足掻きに足搔き、その結果到達した破天の剣。

足りるか足りないかでは無い。

やるしか無かったから、やりきらねば成らなかったから。

その足掻き故に顕現する。今回も同じ事。

「身、足りずとも発気揚々。成さんとする意志、変わりなし。」


そのまま頭領との打ち合いになった。





随分と長いこと斬り結んでいる。

一撃一撃がとてつもない衝撃波を放ち周りを吹き飛ばしていく。

頭領は左腕を硬質化させ剣と合わせて相手ををいなし

自分は剣と顕現した翼にて相手をいなす。

かろうじて自分が優勢。

剣に更に力を込め無理矢理押し込めていく。

剣戟、鍔迫り合いにて放たれた衝撃波は

互いを傷つけていく・・・。

俺は剣から一気に力を引き出し押し切ろうとした。

魂と破天から力をあふれさせる・・・。

「ここで・・・、終われっ!」

だが・・・。

「ならん・・・成らんのだ。

まだ終われん。そして・・・この時を待っていたぞ。

喰らえ、士魂喰(しこんぐらい)、悪食。」

「・・・まさかっ!」

士魂喰、相手魔族の振るう剣の名のようだ。

だがその剣の名には覚えがあった。その剣おそらくは・・・。


意識するのも束の間、半透明の触手のような物が

相手の剣から大量に生え、

そこからは防ぐ間もないほどの瞬の事だった。

「それはいかん!」

俺が発していた力の大半を

喰いちぎるかの如く無理やり奪っていった。

そう、士魂喰は、魂・・・だけではなく

様々な概念の力を喰らう剣。

かつてある世界にて封じられていた剣。


「・・・ァアァアアアァア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!」

頭領が叫び出した。

「まずいっ、オーバーフローと変質だ!」

俺から無理矢理引きはがし取り込んだその力は

人の身で耐えれるものでは無い。

魔族であろうとそれは同じだ。

俺が使う力は持っていた刀、それに集まった

生きとし生ける者の(まが)が大半。

正気でいられるものは・・・。













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