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薙ぐ







ここは、よく街が見渡せる・・・。

「さあて・・・。ここでお別れだな、鬼灯の姫よ。」


領主の館の裏、崖の上。俺は穴を掘っていた。

土属性の魔法で適当に穴をあけ、ついでに墓石をこしらえる。

琴音を穴の中に寝かせ埋めていく。

「墓石をドンッっと置いて完成だな。」

こっちの文字では無く古臭い感じの日本語で名を刻んでおこう。


――――――

異界ノ鬼姫 鬼灯 琴音

永キ時 跨グ旅 開拓者ラノ軌跡ノ元ニテ終エル

――――――


もっとカッコよく書いてやりたかったな。

僕ぁ語彙力が無いね。






奴は俺を追ってきたみたいだ。

「・・・・頼む、教えてくれ。

私は、いったい何をしてしまったんだ?」

領主 パルミ・フォロール。

愚かな男。何もわからずに事を起こし、すべてを無に帰す男。

「すでにおわかりでしょう。騙されていたんですよ、用意周到に長年かけて。

捕まえきれずに居なくなってるでしょう? 何人か。」

すでに準備を終えているのだろう。

抜けに抜けたしょうもない策のために。

「・・・一体何のために?」

「簡単に言えば地位や富。

領主になって資源を独占したい欲深い奴がいたんですよ。

もっとも、恐らくその彼の方すら誑かされただけでしょうけど。」

俺は大雑把に説明した。

何が今まで行われてきたのかを。







「彼女が守り続けたこの街、よく見てください。

きっと切り拓いた時には想像もできない規模になってるのだと思います。」

「三代だ。御爺様の頃から三代かけてここまで大きくしたんだ。」


風のざわつきが聞こえる・・・。

魔法を使わずとも分かる、戦火の匂いが近づいている。


「・・・無くなりますよ、これから。

すぐにでも魔族の侵攻が始まります。」

「・・・私が愚かだったが故にこれで最後か。

せめて、こんな愚かな私に巻き込まれないように

今すぐにでも避難してもらう以外に無い。」

だが、無理だ。

「近くの街まで結構かかりますよね。3、4日くらいは。」

「それに荷物を持たずに逃げるとしても

馬車の数も従魔使いも足りない。

他街や国に救援を頼んだところで絶対に間に合わない。」

「どんな者を呼び寄せても被害は甚大になるでしょう。

個人的に諜報をかけていますが数は恐らく数万。

かつ魔王クラスの魔法の使い手である領主が自ら出陣と来ている。」

「・・・どうしたらいいんだ。私とて戦えないわけではないが

そんな事でどうにかなる事態では既に・・・。」



・・・琴音、わかってるよ。 一回だけ、今回だけだ。



「・・・街の東門の側に住人すべてを集めてください。

あと、北西・・・西門側、門からそれなりに離して

街に居る高ランク冒険者へ依頼をかけて防衛させてください。

領兵も攻撃に特に優れている部隊を少数だけそこへ。

残りは一般人の防衛へ。逃げれる人からで良いので街外への非難をしてください。」

「・・・避難のための時間稼ぎか。」

「いえ、・・・街の外へは念の為です。

魔族は、・・・俺が何とかしましょう。」

「そんなっ!相手は軍勢なのだろ?どうあがいても無駄死にだっ!」


・・・。


「・・・誰しも奥の手は持っているものです。

それに、彼女なら万全の状態で挑めば

この程度の事、物ともしなかったでしょう。」

「だが、」

「逃げる準備だけしといてもらえたらいいです。

もしもが起きた時の保険だけ欲しいので。

俺なら、()()ならこの程度の事何の問題も無い。」












―――――― 西門 外 ――――――



ここに居るのはシーと俺だけだ。

誰もいらない。足手まといが増えるだけだから。

有力冒険者も何人か残っていたのだが

自分たちより後方にて取りこぼしが出た時の為に引いてもらっている。

ガタガタの身体もストックを消費して元に戻した。










『我が、主よ。』





何時も俺は後悔する。





『我が、親しき友よ。』





後悔してからしか、動けない、動かない。





『我が、愛しき人よ。』





行き過ぎた力は、世界を破壊する。





『我が、魂の番人(つがいびと)よ。』





この世界の理外の存在なら、尚更。





三色(さんしき)の布陣の其の縛り、一時の解を与えん。』





個を消し、世の(ことわり)の守護者で在らねばならない。



シーは三枚の護符を取り出すと俺に投げた。

俺は両手を合わせ力を練り呪印を発現させる。

護符は俺の近くまで飛ぶと燃え消え、空に呪印を広げる。



『呪樹侵力、限定解錠。』

「呪樹侵力、制限解放。」


空中の呪印と体表の呪印が混ざり合うと消えていった。





()()の禁、今此の場において破らん。





『己が信念を解き放て。』


「偽りの身体、もたずとも構わん。」


『己が利己を貫き通せ。』


「今、私は一人の描いた軌跡の為に己が命を燃やす。」





此れは、私の、我儘・・・。



その髪、白銀に染め。

その目、(あけ)に光らせ。









少しずつ見えてきた。森の隙間を縫う影が。

恐らくは先発隊だろう。魔族とテイムされた魔物の混成だ。

正確な数まではわからない。

血を滾らせ、殺意を振りまき進行する。

「愚か也。」

思わず言葉を漏らす。

下らぬ破壊、殺戮衝動。半端な強者故の傲り。

私は両の親指を噛み血を垂らし、両の手を合わせる。

()()()()()()()己の体故に()()を使うには

血印にて強力な繋がりを生む必要があった。

本来なら魂からの力の練り上げだけで事足りる。

「禁術、獄門解放。」

腕に血色の呪印が走る。

「口寄セ、地獄門。」

足元に両の手を付くとその場に

魔法陣のような術式の円陣が現われる。

そこから横に一本の筋が走り更に大きな円陣を形成。

その円陣から巨大な禍禍しい門が現われる。

「異界の魑魅魍魎よ、現世(うつしよ)にその一部を顕現せよ。悪食行使、”魍魎跋扈(もうりょうばっこ)”。」

獄門は少しの隙間だけ開けられた。

その瞬間魔族の先頭集団が目を抑えて悶え倒れる。

耐えれるはずが無い。これは、覗いてはならない地獄の門。

覗けば己が根源から目という概念を焼かれ朽ちはてさせられる。

ひとたび完全に焼かれてしまえば肉体を癒せど視力が戻ることは無い。

だが、これはまだ、始まり。悪夢はここからだ。

門の隙間から這い出た無数の塊。

どす黒い肉塊の様に蠢くそれらは

生有る者を喰いちぎり、切り裂き、溶かし、蹂躙する。

「喰らえ、喰らえよ、地獄の悪鬼よ、悪食よ。

愚かなる其の御霊、喰らいて永久の監獄に捕らえ賜う。」

喰われた魂は門の先の其れらの糧となる。例外は基本無い。













貴方は何時もそう。

もっと、自分に素直になるべきだった。

助けたいなら助けたい。それでいいじゃない。

それでも、貴方はきっとやり過ぎない。

今の様に人の外へと成らなくならぬのは

事を始めるのが遅いから。それだけなのよ。

「・・・貴方はどう見るかしら、彼を。」


―――― 分かるのだな、私が。 ――――


「今は、彼を支えてあげて。今必要とするは、我にあらず。

貴女の為の事の成りなの。だからこそ、貴方の心を見せてあげて。」


―――― お主ではなく? ――――


「私は、この場では傍観者にしかすぎないの。

この舞台ではただのアシスタントでしかないのよ。

キャストである貴女が上がらなければならない。」


―――― お前は、気付いているのか? ――――


「魂の枷は既に外れているわ。かつての自分の通った道もわかってる。それでも今は私では無いの。彼の横に立つべくは。」


―――― 忘れるな。お前と彼奴は、

すべての鍵となる存在。 ――――


「そうだとしても、私のやる事は変わらない。彼が思うがままを成すだけよ。本当の意味で思うが事を。」


今は、頼んだわよ。鬼道の姫。

貴女自身、ケジメをつけて。













遠くを見る。

「流石にそのままにはさせてくれないか。」

極太の光の筋が走り、獄門を吹き飛ばした。

衝撃波で後ろの街の一角も瓦礫の山にしてしまった。

「四分の一も行かないか・・・。だがウン万の軍勢がそれなりに戦力を削れたから良しか。」

だが・・・、

「うぅ・・・ぁあアッッ!」

頭が一気に痛みだす。

それなりの時間、獄門を行使していたからだろう。

意識が飛びそうなほどに頭が痛い。

口の中も鉄の香りがする。血が滲んでいるようだ。

「・・・まだだっ!」

歯を食いしばり必死に意識を戻す。

そうしていたら目の前に転移をしてきた。

「・・・さすがの数だな・・・。」



「何奴かと思えば、こんな小僧が一人で召喚術を

行使していたのか。余程人手がいないと見える。

異形の女がいなければこの程度か。」

恐らく、コイツが魔族領の頭か。

引き連れてるのも精鋭揃いだ。

半開の獄門から呼び出せる程度の存在ではどうしようもなかったか。

後ろから残りの兵も詰め寄って来たな。

パッと見三万とかだろうか。おそらく残りの軍勢全てが揃ったか。

正面部隊しか私に直には当たれないとはいえ流石にキツイ、このままだと。

()()か。体が持つとは思えないが

其れ以外に道は無し。


「・・・お隣の魔族領の頭領だな。

すまないな。八つ当たりに近いが、向かってくるなら

潰す迄だ。どうせ問答など意味は無いのだろう?

お前とは主義、主張が合わないだろうからな。」

情報は既にある。弱肉強食を信条とし全てを蹂躙し征服する。それがこの頭領。

「物分かりが良い人族だな。だがどうするというのだ?

強者こそが全て。我が力で蹂躙するのみよ。

既に満身創痍のお前ひとりで何ができるというのだ?」

相手は嘲笑してくる。愚かにも。


「・・・心を、紡げ。

異界より、人の心の現身(うつしみ)よ、我が前に顕現せよ。」


自身の周囲に膨大なエネルギーがあふれ出す。

それは自らの肉体はおろか魂さえもを喰い破るかのような・・・

(あまつ)をも覆う黒翼の御心よ、

我が行いと対立せしその理、我が信条をもってして滅さんが為

今生の(たま)の元へと帰来せよ。」

別次元へ手を入れ引き出すは

現世(うつしよ)の負を集う漆黒の一振り、妖刀綴魔(つづらま)

左手でしっかりと鞘をつかみ取り、左腰に構える。

抜刀の形を取り様々な力を手を伝わせ注ぎこむ。

左腕がミシミシと軋むが無視だ。

とりあえず数を減らさなければならない。

「不味い、あの男をっ」

今更焦った所で遅い。お前たちが見せた隙を使い

今出せる最大出力で、()()だけだ。

「・・・抜刀。」

抜刀、たったそれだけ。きちんとした技名も無い。

力を乗せ、斬撃を飛ばす。それだけの一撃。


だが、充分だ。


敵対する者全員を薙ぎ払う。そのための一撃。

前に出ていた精鋭たちが防御姿勢をとる。

持ちこたえたようだがそれは想定内だ。

目的はその後、持ちこたえた奴らを基点に後ろへと斬撃が拡散。

後ろから迫っていた雑魚の集団を消し飛ばすにはこれで充分だ。

とりあえずは行動不能にすればいい。


森ごと消し飛ばした。

強者がそれなりに残ったが

それなりにダメージも受けているようで

残りが実力者ではあるのだろうが数十くらいの数になったのだ。それだけでも良しとする。

「・・・チッ。」

両の手首に無数に筋が走り血が噴き出す。

いくら無理に力を込めたと言えどこの程度も持たないのか。

全身の力が抜けて膝をついてしまう。

まだこの刀の力をほんの少しも出していないと言うに・・・。

「限界か・・・。」






―――― もう、諦めるのかしら。 ――――






「・・・。・・・っ!」








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