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適当男の森の行進と妖艶なる女子(おなご)


俺はこの事を思い出したのは出会いから

しばらく経ってからだった。

それは、()()()()での(あやかし)と呼ばれる者の一種だ。


人に近き姿持ち、神通力にて障害を退け、

振るう力、如何なる化生をも物ともせず、

正に鬼神の如きなり。


人の殻持つ、人成らざる者。

まさしく、戦場の鬼。


人はこう呼んだ。


(あやかし)、戦鬼。






------------------------------------------------







静けさ・・・


この世界においては珍しくも思える。


まるで鈴虫が鳴くかのようなリンとした虫の鳴き声。


月明かりに照らされた森の奥深く・・・

茶黒の髪をなびかせ、無駄に優雅に歩くのが俺だ。

目的はただの移動。普通の移動と違うのは

道なき道を進んでいるくらいの事だ。

なるべく人に見つかりたくないが為に。

別に急ぐ旅では無い。今は時間の余裕があるのだ。

故に先のため、念の為だ。

直前からではなく、事が近くなる前から

自分が居た痕跡をなるべく残さないようにする。


たったそれだけの事だったのだが

気付けば街がどこなのかわからなくなってしまった。

でも、まあいい。地形も無視してまっすぐ進めば

どうにかなるし、最悪遠見の魔法なりなんなりで

街道を探せばいいのだ。





しかし、おかしい。

今自分が居るこの世界は、()()()()()とは比るまでもなく

弱肉強食な世界である。

本来なら夜の森は闇夜でも問題なく

行動ができる魔物に襲われてもおかしくは無い。

夜行性でなくとも暗がりで視界が効かずとも

関係なしに縄張りに入られたことを察知して

迎撃するような好戦的な物も多いのだ。


だが、この森は静かすぎるのだ。

本来ならもう少し魔物に動きがあってもいいのだが。

まるで息を殺すかのようにして潜んでいる。

俺を狙っているのだろうか・・・

否、そういう雰囲気ではない。

恐らくは触れずが仏、手を出さずに

何かが過ぎるのを待っているのか。

少なくとも自分では無い何かを恐れているのだろう。

今の自分は一般的な冒険者にしか

見えない様カモフしてるから。

普通なら何かしらちょっかいを出してくる筈なのだ。







しばらくそのまま進むと少し開けた場所に出た。

そこには白と紫のグラデーションが美しい和装を

身にまとった女がいた。

時代劇というか、そんな感じの着物を

身にまとっている。

青みが強い紫色の髪で少女と大人の中間くらいの

見た目である。女子高生くらいの見た目かな?

そんな子の額には角が二本生えている。

ふむ、と少しかしげながらその女を見ていると

こっちを向いてきた。

可愛らしいお姉さんボイスと言ったところか。

人を魅了するような声で話しかけてきた。


「おや、珍しいの。黒髪の青年とはな・・・。 こんな夜更けに何故にこのような森深くにおるのだ? もしや・・・、迷子かえ?」

いや、それはこっちのセリフである。

「それはこちらのセリフですよ。なぜ貴方のような女の子がこんな夜の森深くに居るのですか? とても危険ではありませんか。」

すこし丁寧目に対応してみた。

それを聞いた女はクスッと笑う。

「おぬしは余所者のようじゃのう。

さすらば知らぬのも無理はあるまい。」

そう女は言うと、トン、トン、トンっと

こっちに近づいてきてこう言う。

「妾は夢陣幻影城の主よ。近くの町や村からは

人喰らう悪魔として恐れられておる。」

彼女はニマッと笑みを浮かべると

こっちを下から顔を覗き込むようにして見てくる。

「そうは見えませんよ。見た目相応の無邪気な少女のように見える。」

「そうか。おぬしにはそう見えるのだな・・・。」

女は少し悲しげな笑みをこぼすとふっと空を見上げる。

そこには巨大な黒い竜種がいた。

俺は竜種には詳しくはない。ただ一目見て

通称”ドラゴン”と呼ばれる上位竜種と

わかるぐらいのシッカリとした出で立ちだ。

近づいてきているのは気付いてはいたのだが

あえてそのまま無反応を決め込んでいたりする。


「しつこいのぅ・・・。いい加減学べばよいものを。ここは妾のテリトリーじゃぞ。」

ナントカドラゴンとでも呼ばれそうなそれは一気に

”自称悪魔”の女に向かって降下してくる。

その速度に乗せて大口を開き、竜種の特徴的な攻撃

”ブレス”を放とうとしてくる。

「しつこいわっ!これで何体目じゃっ!」

女がドラゴンに向かって飛び上がり

ブンッと空を蹴るとドラゴンの頭が破裂した。

そして残った胴体がワンテンポ遅れて

とてつもない轟音とともに爆発四散した。


うーん、それなりにこの子は強いらしい。

「・・・妾は、バケモノじゃ。・・・決して、人とは相容れぬ。」

もしかしてかまってちゃん系弱気かな?

こんなファンタジーな世界で何言ってんだ。

「うーん、ただ馬鹿力なゴリラってだけじゃないの?」

めんどくさいので雑に答えてみた。


「・・・なんじゃとっ!? こんな”ないすばでぃ”な女子(おなご)に向かってゴリラじゃと!?貴様、婦女子への言葉がなっておらんではないかっ!この阿呆がっ!」

うーん、なんだ、この感じ?

一気に残念お姉さん感が出たぞ。

言うて見た目はお姉さんなんて歳に見えない。普通に少女だ。

しかも何がないすばでぃ~だ。自分で言うな。

更にそれはグラマラスな女性に対する

言い方の様な気もする。

スレンダー系にこのバブリーな言い回しは

しないのではないか?


声の妖艶な響きもすべて台無しである。

ってか、そこは気にするのか。

「大丈夫ですよ。ゴリラ女みたいな強い女性が好きな殿方もおりますよ。決して諦める必要はございません。」

「ゴリラ言うなっ!ばかぁっ!」

おこですね。


「まあまあ、落ち着いて。悲しそうな顔するよりも笑ってたり怒ってる顔のほうがよく似合いますよ。」

「怒った顔は余計じゃよ。」

彼女はムスッとしていた。

まあ落ち込んでいるよりはいいじゃないか。

「あのドラゴンって何だったんですか?」

「妾のテリトリーの横とでも言ったらいいのかう・・・。その方面から時々やってくるのじゃよ。縄張りを拡大するためかちょくちょく侵攻してくるんじゃよねぇ・・・。まあ妾が数十年前にう・・・もろうとるんじゃがの。あと別に丁寧語じゃのうてもよい。堅苦しいだけじゃ。もっと気楽に話してほしいの。」

言い直してもそんなに意味変わってないよねそれ。

力づくで奪ったんでしょ?どうせ。

「全言撤回、あんたアホの子に見えるよ。」

「酷い言い様じゃのう、まったく。」

ムスーッな顔。なんだか見てて面白くなってきたぞ。


「まったく、酷い男じゃのう。しかしだ、もう夜も遅い。ここら辺は定期的に間引きしているとは言え魔物も強い。正直不本意ではあるがお主、うちに泊まって行かんかの? 近場で意味のない人死には嫌じゃからの。」

うーむ、これはツンデレかな?

でもって逆ナンかな?

「今とてもものすごく失礼なこと考えておるじゃろ。」

コノムスメ、ココロヲヨメルノカー?

「ソンナコトナイヨー。スッゴクウレシイヨー。」

「酷い棒読みじゃな。まあのう・・・。

本音言えば、久々に楽しい会話ができたからのう。

もう少しお主と話をしたいと思ってな。」

「まあ急ぐような旅をしてるわけでもないし

少しお世話になってあげましょう、あげましょう。」

「なんでお世話になる方が上から目線になれるのじゃ・・・、まあよいわ。では、幻影城にお一人様ご案内じゃのっ!」




久々に騒がしい生活を楽しめそうだ。

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