パンツと自分の旅立ち
あれからシャビーテさんの護衛付きになって半年程過ぎた。大きく変わった事はないが、人類全パンツ計画は前途多難な道を歩みつつも、順調な滑りだしを見せていた。
最終的にシャビーテさんと一緒に考えた汎用パンツだが、結局、白はやっぱり汚れるとの事で、カラーバリエーションの広がりを食い止めるまでには至らなかった。だけどそれが皆に興味を持たせるキッカケになったのは吉報だった。今ではもうパンツは自分の手から離れ、一人歩き出している。機能性よりも見た目重視になり、みんながこぞって可愛いオリジナルパンツを作り始めたのだ。今やそのブームは十人十色ならぬ、万人パンツになろうとまでしている。なんならシャビーテさん専用だったちょっとえちぃ清楚パンツさえも好評だったりしている。信仰のある国なので、純白は主に生娘や未婚女性に好まれ、逆に人妻はそれ以外のセクシーなレース柄や、落ち着いた色のパンツを求め、幼女達は可愛い動物の絵などのが刺繍されたお子ちゃまパンツを履くようになった。繰り返すがもうパンツはその手から離れ、一人歩きしている....それはけして比喩などでは無い。その証拠に町中で空っ風でも吹き荒れようものなら、有りとあらゆる様々なパンツ達が歩いているのが良く見れた。パンツはけして恥ずかしいものではなく、寧ろアレを隠せちゃうおしゃれ小物のファッション武器である。などと口酸っぱく街頭選挙カーのように訴え続けた為、今ではごく自然にパンツが風景に溶け込んでいた。シャビーテさんとの同棲生活で発見した「パンツだから見えても平気」と言う無意識なパンツバイアスも相まって、服で隠していた時よりも明らかに下半身のガードは緩くなり、自分で無くとも世の男達が影で嬉しい悲鳴をあげてる声まで聞こえそうな程であった。ここまで広まると時代を一つ進めたような自負さえ感じる。何より異世界に様々な最先端文明を開花された主人公はいても、ここまでパンツを流行らせた変態はいないだろう。と、言う事もまた謎の自信に繋がった。
ふらっと街中を見ても、公園によっても、家に帰っても、そこにパンツがある。もうパンツが無いなんて言わせない。僕らはかならず見れるから、輝くパンツを嗅ぎ合ったあの日を胸に今日も生きていけるのだ。ヘーイ!
つまりこの時、自分は幸せの絶頂期を迎えていたのだ。カーストと言う過酷な現実に直視しつつも、今の日本じゃ絶対不可能な理想郷を作り上げ、それを自由に誰もが見れる環境を手にする事ができた。最早自分にできる事と言えば、シャビーテさんを守り抜く事だけである。
だが、これらの要因が結局、自分の注意力を散漫にしていたと言うなら、皮肉なものだと思った。
シャビーテさんの家の周辺を警戒する事も自分の仕事のうちだった。結局夜通しで警護に当たる事をシャビーテさんが許さなかった為、一緒に寝る事はもう習慣とさえなっている。それでも何かあればいつでも起きれるようにと、意識は常に残しながら横になっていた。
そう言う訳で、この朝方の周辺巡回の時間が一番眠気に来た。さすがにこんな朝に賊が侵入してくるとも思えなかった。いつもの様に、芭蕉の葉の間から強い木漏れ日がちらつき、鳥の鳴き声だけが耳に響いてくる。それはいつもの日常の知らせでもあった。
最後の日、自分はいつもの様に巡回を終えて、診療所の扉の前近くを歩いていた。家の中からいい匂いが漂う。シャビーテさんの手作り料理だ。半年もいれば今日のメニューが何なのかぐらいその臭いで当てられる。まぁ、大体カレーっぽい何かではあるが。
鼻歌まじりにドアに手をかけた時だった。
「イテッ」
右肩にガクッとする痛みを感じた。
肩の肉離れになったかと思い、左手で痛む箇所を押さえる。しかし左手は予想外のものを掴んでいた。それは鳥の羽の様なものだった。
それを辿ると、今度は太い筒の様な物を掴む。そしてそれは自分の方の付け根に当たる。
急に寒気がしたのは目を向けた時だった。
太い筒は、自分の肩を貫通し鉄製の鏃はドアに少し刺さっていた。筒の付け根から血が滲み出し、思わずギョッとする。
なんだよこれ...
矢で撃たれた経験が無いと、矢で撃たれたのを理解出来ない事に初めて気づいた。速やかに行動しなければならない中、頭は馬鹿みたいに混乱しまくっていた。
何が起こった?
撃たれた?
誰が、自分に?
自分が狙われた?
シャビーテさんじゃない
なんで?
イミガワカラナイ
皮肉にも滲む痛みで何とか冷静になる事が出来た。肩が何だかピリピリしている。冷や汗は全身にびっしりだ。なんとか体勢を整って、後ろ振り返る。足に感覚が無くなり、しゃがみ込む様な形でようやく後ろを見た。
何もいなかった。
そりゃそうだ、時間が、かかり過ぎている。
息が荒い。ちょっと静かにしたい。
シャビーテさんに、気づかれたくなんか...。
意識が急に遠くなる。
女性の悲鳴が遠くから聞こえた。
.........
次に目を開けたのは、ベッドの上だった。
不思議な感じだった。おっさんとシャビーテさんが今にも泣きそうな顔で、自分を見ていた。
見つめると、二人とも何かを叫んでるようだった。声はもう聞こえない。息は大分楽になっていた。ピリピリは全身まで達していた。毒矢だったのか。まるで身体中の血管が炭酸水になったように騒めいていた。
瞼が動かない。
体も動かない。
これはもう詰みか。
今度こそ本当に死ぬんだと感じた。
シャビーテさんは泣いている。
泣きながら何かを言っている。
暖かい手の温もりを僅かに感じる。
泣かないで、泣かないでよ
泣いてのを見るとこっちにも涙がうつっちゃうから。悲しいのが、うつっちゃうから。
安心させたくて何とか手を握ろうとした。
手を....握りかえせ...てを....てを...!
ぎゅっと彼女温もりを握りしめたその時、
目の前がゆっくりとそして静かに、フェードアウトした....。
そして、脳が気泡を吐く音を聞いたのだ。




