アルセイン子爵(12)
町の一角が賑わいを見せている。建物に入っていった住民たちは、荷物を外に出して仕分けをする。使える物、使えない物。
使えない物は荷台に乗せて町の外まで運んでいき、使える物は他の住民たちが綺麗に洗って乾かし始める。そうやって、住民たちは協力して、住まいの準備をしていた。
その様子を見て回り、現場指揮を取っている地方官吏に声を掛ける。
「問題はありませんか?」
「はい、今のところ順調に進んでおります。このままいけば、今日一日でこの地区の分別と清掃は終わりそうです」
「それは良かったです。では、時間になったら、食事を用意する者たちを炊事場に集めてください」
「かしこまりました」
そう指示をすると、私は仕事の続きをするために拠点へと戻っていった。
今、アルセイン領の領民となった者たちの力を借りて、住処の準備を進めていた。何年も放置された住居は埃まみれになっていて、とても住める状況ではない。だから、住民たちの手を借りて人海戦術で町の清掃を始めた。
スタンピードで人々がいなくなった町には色々な物が残されていた。家具、食器、その他の備品。それらの中には再利用が可能な物が多く、綺麗にして再利用することになった。
思ったよりも使えそうな物があり、準備するための費用がグッと押さえられた。これなら、予定よりも多くの資金を他の所に使える。費用が必要なところにはしっかりと使わなければならない。
その事を考えていると、大きな建物の前に辿り着いた。そこには冒険者ギルドの紋章が輝いているのが見える。拠点に戻る前に、アーシアさんに状況を聞いてこよう。
私は冒険者ギルドの中に入っていった。中に入ると、綺麗に清掃されたホールが目に飛び込んできた。
大きなカウンターがあり、カウンターの奥では忙しそうにギルド職員たちが動いている。それに、ホールの横には待合席が用意されており、帰って来る冒険者を待っているようだ。
私はその様子を見ながらカウンターに近づいた。
「お忙しい所すいません」
「あっ、リル様! どうかされましたか?」
「現状を聞きに来たのですが……」
「かしこまりました。今、ギルド長をお呼びします」
話しかけると、すぐにギルド職員が対応してくれた。しばらく待っていると、奥からアーシアさんの姿が現れる。
「お待たせしました、アルセイン子爵」
「ここには馴染みの人しかいませんから、いつも通りでいいですよ」
「ふふっ、そうね。リルちゃん、どうしたの?」
「冒険者ギルドの運営に問題がないか確認しました。今、どんな調子ですか?」
お互いに気心知れた仲。力を抜いて、お互いに話始めた。
「冒険者ギルド内の清掃は終わったわ。リルちゃんが真っ先に住民たちに清掃をお願いしたお陰ね」
「清掃が終わりましたか。今はどんな仕事をしていますか?」
「今は持ってきた備品を用意しているところよ。半分は終わったわね。明日には備品の準備も終わるから、明後日には冒険者ギルドを使用可能に出来るわ」
「それは頼もしいですね。冒険者ギルドが通常営業になると、冒険者たちも喜びます。引き続き頑張ってください」
思いの外、冒険者ギルドの営業が開始されるのが早くて驚いた。冒険者ギルドは町にとって無くてはならない場所。早く機能してもらいたいところだ。
「それはそうと、冒険者たちが狩ってきた魔物の売り先は大丈夫? 明後日には使えるようになるから、領内に売り先があれば助かるんだけど……」
「それは準備が進められています。私の友達のカルーがお店の準備をしています。明日までにこちらに顔を出して、詳しい話をするように伝えますね」
「そう、良かった。なら、安心だわ。うん、明後日には冒険者ギルドが通常営業出来そう」
今、この町に商会は一つしかない。カルーが率先して動いてくれたお陰で、なんとか冒険者ギルドも回りそうだ。
「あと、何か困った事とかないですか? 手を貸して欲しいとか、資金を援助して欲しいとか……」
「今ので困った事がなくなったわ。あとは、冒険者ギルドの通常営業まで私たちが頑張るだけよ」
「それは良かったです。では、私はこれで失礼しますね。残りの作業、頑張ってください」
「えぇ、リルちゃんも頑張ってね」
お互いの事を労うと、私は冒険者ギルドを後にした。じゃあ、カル―の所へ言って用件を伝えに行かなきゃ。
そう思って、私は通りを進み、カルーの商会まで急いだ。
◇
また、大きな建物に辿り着いた。その扉をノックするが、誰も出てこない。仕方がないので、私は扉を開けた。
「おじゃまします」
建物の中は綺麗に清掃されており、すでに人が住んでいる様子だった。この建物もちゃんと使えるようになったらしい。
私はそのまま建物の中を歩いていき、人が居そうな部屋を片っ端から訪ねてみた。だけど、中々人に当たらない。
一体どこにいるんだと悩んでいた時、奥の方から声が聞こえてきた。どうやら、そちらにいるようだ。
私はそっちの方に行き、扉をノックした。しばらくすると、扉が開かれ、中から男性が姿を現した。
「あっ、アルセイン子爵!」
「すいません、急に訪ねてしまって。用件があるので、カルーを出してもらえませんか?」
「はい、ただいま!」
そう言って、男性は部屋に戻った。部屋の外で待っていると、再び扉が開き、カルーが現れた。
「アルセイン子爵、お待たせしました」
「いえ、急に訪ねてしまってすいません。二人で話せますか?」
「はい、もちろんです。では、そちらの部屋に……」
そう言って、カルーは隣の部屋に私を連れ出した。そこはちょっとした応接間になっている部屋だった。すると、よそよそしかったカルーの顔にパッと笑顔が咲く。
「リル、お疲れ様! 今日はどうしたの?」
「商会の準備は順調ですか?」
「うん、順調も順調。住民の中に商会で働いていた人がいたお陰で、準備は滞りなく進んでいるわ。今もみんなで会議をしていたところよ」
商会を立ち上げたカルーが真っ先に求めたのは従業員だった。一人ではできないことをいち早く気づき、私に早めに従業員を雇いたいと言ってきた。
そこで、住民の中から商会で働いた経験のある人を募集すると、何人か手を上げてくれた。まだ、慣れない環境で仕事をさせるのは心苦しかったが、なんとか働き始めてくれた。
その従業員と一緒になって、カルーは毎日忙しそうだった。
「それで、何か用?」
「冒険者ギルドが明後日には通常営業したいという事だったので、明日に打ち合わせに行ってくれませんか?」
「明後日に通常営業!? は、早いわね……。分かったわ、こちらも準備をして明日行くわ」
「忙しい所、すいません……」
思ったよりも早い動きにカルーは驚いたようだけど、すぐに落ち着きを取り戻してくれた。
「今後の流れとしては、冒険者が魔物を狩って冒険者ギルドに売る。冒険者ギルドが魔物を解体する。解体した物を商会に売る。商会で売られた物から必要な物を私が買い取る。という、流れになりますが……よろしいですか?」
「えぇ、それで大丈夫よ。まだまだ、町は復興中だけど、少しずつ動いていかなきゃね。町の外への繋がりも作らなきゃいけないし、そっちの方も進めるわ」
「よろしくお願いします」
まずは領内で販売路を形成する。それを循環させながらも、外への繋がりを作っていく。やる事は多いが、やりがいのある仕事だ。
「じゃあ、今度は商会に物が卸された時に話し合いましょう」
「えぇ、その時はよろしくね。リルも頑張ってね」
「はい、カルーも」
そう言って、私は商会を後にした。まだまだやる事は山積みで、止まっている暇はない。とにかく、復興に全力を注ごう。
お読みくださりありがとうございます!
この続きは読みたいというコメントを頂いたので、しばらくはこの話が続いていく事になります。
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