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その後の両親(4)

 二人は村人に嫌われていた。怠惰に生活し畑仕事は最低限、その上で税金を滞納する始末。始めは二人の面倒を見ようと思っていた人は減っていき、今この村で二人の面倒を見ようと思う者はいない。


 それで終わればいいのだが、二人の畑の収穫は良くない。そのせいか、食料を寄越せと他の家々を回り歩いていた。みんな、自分の生活で精一杯で二人の面倒は見れない。そんな二人を無視し始めた。


 だが、無視をすればするほど二人は騒ぎ立てた。家の周りで喚いたり、扉を壊れそうになるくらいに叩いたり、家に入ろうとまでしていた。そこまでやって、家の住人は静かにしろと言わんばかりに野菜を投げつけた。


 二人はそうやって村の住人から野菜を貰っていた。そうやって、村人たちに迷惑をかけながら二人は怠惰に暮している。だけど、村人の二人へ対する印象はどんどん悪化していった。


 中には村を追い出そうと考える者も出始めて、その者たちは二人の住んでいる小屋を訪れて抗議をしたほどだ。だけど、その度に二人は抵抗して頑なに小屋を出ようとはしなかった。


 もっと強い実力行使が必要だ。そう思った村人は村長に二人を追い出せと直談判した。村長は迷う。折角この村に来た労働力を手放すのは惜しいと思っていた。今はダメだけど、これから更生する可能性も捨てきれなかった。


 でも、二人は更生しないと村人たちは思っていた。村人たちはさらに村長に強く詰め寄った。その熱意に村長は折れ、今度役目を担わなかった時には村を追い出すと約束した。


 こうして、二人の知らないところで話が進み、着実に追い出される日が整った。村人たちはより一層目を光らせて、二人の行動を監視した。だけど、こういう時に限って二人は最低限の事をこなしている。


 村人たちはとてもやきもきした。早く、役目を放棄すればいいのに……。そう思って毎日監視する。そんな日々が過ぎ去ったある日、とうとう大きな問題が起きた。


 ◇


「あー、畑仕事だるいな。今日は休んでもいいだろう?」

「でも、食べる物がないから収穫がないと辛いよ。今日は頑張って行ってきて」

「それってお前は行かないってことかよ。お前も来るんだよ」

「えー、だって疲れるし汚れるし……」


 二人が怠惰に小屋の中でくつろいでいた時だった。小屋の外から村人の叫ぶ声が聞こえてくる。


「魔物だー! 大量の魔物がこっちに向かっているぞー!」


 その言葉を聞いた二人は体を固まらせた。それはいつの日か聞いた言葉とそっくりだ。


「おい……魔物が来るって」

「えっ、やだ、そんなの……」


 二人の表情が恐怖で歪み、あの時の事が蘇る。町を襲った大規模なスタンピード。大勢の魔物が町の中に入り込み、人々を殺していった。


 その中をリルを抱えて逃げ惑う。とてつもない恐怖を感じ、ずっと体の震えが止まらなかった。それでも、死にたくないという強い気持ちでなんとか生き延びることができた。


 また、あの時と同じになる。そう考えた二人は恐怖に支配されていた。


「嫌、嫌よ! また、あの時のような事になるなんて!」

「ここから逃げて……いや、逃げたらまたあの時と同じだ。何か他に……そうだ! この小屋に引きこもろう!」

「小屋に引きこもる? ……いいわね、それ! 絶対に外になんかでないんだから!」

「そうと決まれば、扉を家具で塞ぐぞ! そうすれば、魔物は入ってこられない!」

「そうね、そうしましょう!」


 恐怖で震えあがっていた体に力を入れて、家具を動かして扉の前に設置した。すると、扉の前には沢山の家具が積まれて、扉が開かなくなる。


「こ、これで魔物は入ってこられない。ははっ、今回は俺たちの勝ちだ!」

「そ、そうよね。これで魔物は入ってこられないわ」


 目の前にできたバリケードを見て二人は安堵した。だが、その時。扉がけたたましく叩かれた。突然の音にビックリした二人は恐怖で体を寄せ合う。


「おい、いるんだろ!?」


 すると、扉の向こう側から村人の声が聞こえてきた。その事にホッとするが、次の村人の言葉に二人は戦慄する。


「大勢の魔物が現れた! みんなで農具を持って戦うぞ! 早く、農具を持って出てこい!」

「は、はぁっ!? 農具を持って戦うだって!? そ、そんなことはできない!」

「何を言っている! このままじゃ村が壊されてしまう! そうならないためにも戦うんだ!」

「いやよ! 私たちはこの小屋から出ないんだから!」

「何をわがままな事を……。ここを開け……開かない!? おい、何をした!?」

「扉が開かないように細工させてもらった! だから、俺たちはここから出て行かない!」


 村人は力づくで扉を開けようとしたが、扉はびくともしない。しばらくすると、村人から怒声が聞こえてくる。


「お前ら覚えていろよ! この事はみんなに言いふらしてやるからな!」


 捨て台詞を残すと、その村人は立ち去って行った。ようやく静かになった小屋の中。二人はベッドの藁の中に潜り込み、その身を隠す。


「ここで隠れていれば、もし魔物が入ってきてもバレないはずだ」

「そうね。何があるか分からないから、身を隠しておきましょう」


 二人は魔物がいなくなるまで、ずっと藁の中に身を隠し続けた。


 ◇


 しばらくすると、外が騒がしくなってきた。人々の叫び声や魔物の声が聞こえてくる。二人は体を震わせながら、ずっと藁の中に身を隠していた。


 その時、扉を開けようとする音が聞こえた。


「おい、いるんだろ!? 頼む、俺の家族をかくまってくれ!」


 どうやら、この小屋に誰かを入れようとしていた。だが、扉を開ければ魔物が入って来る可能性がある。二人に助け合いの精神はなく、冷たい言葉で突き放す。


「こっちに来るな! 魔物に気づかれちまうだろう!?」

「あっちにいって! 助けを求めるなら、違う家にして頂戴!」

「今すぐにかくまって欲しいんだ。魔物がすぐ傍まで来ている! この扉を開けてくれ!」

「絶対に開けるものか! 他の誰がどうなってもいい!」

「早く向こうに行って! 私たちまで魔物に襲われてしまうわ!」


 村人と二人の激しい問答が続いた。必死になっている村人の声は二人には届かない。


「くそっ、くそっ! お前ら許さないからな! 絶対に許さないからな!」


 村人はそう言い残し、小屋から離れていった。これで魔物もこの小屋には近づかないだろう。二人は深く安堵をした。


「絶対に魔物に見つからないように、息をひそめておこう」

「今度村人が来ても返事をしないようにしましょう」


 二人はそのまま藁の中で黙って息をひそめ続ける。外からは魔物と戦う人の声と魔物の声が聞こえ続けてきた。


 ◇


「……静かだな」

「えぇ。しばらく声は聞こえてきてないわ」


 あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか? 音が聞こえなくなったのを機に二人は藁の中から姿を現した。そして、物音を立てないように扉に近づく、耳を澄ます。もう魔物の声は聞こえない。


「……出てみるか?」

「そうね、少し覗いてみましょう」


 物音を立てないように慎重に家具をどかせていくと、ゆっくりと扉を開けて外を確認した。外は争った形跡が地面に残っていた。だけど、どれだけ周りを確認しても魔物の姿は見えなかった。


 そこでようやく二人は外を出て、また注意深く周囲を確認する。だけど、どこにも魔物の姿は見えないし、声も聞こえない。魔物たちはいなくなった。この事実にようやく胸を撫でおろすことができる。


「ふー、なんとか生き延びれたな」

「こっちに魔物が来なくて本当に良かったわ」

「安心したら、腹が減ったな。野菜でも茹でてくれよ」

「そうね、そうしましょう」


 二人が小屋に戻ろうとした時だった、こちらに近づいてくる集団が見えた。その集団は真っすぐこちらに向かっているようで、二人は不思議そうな顔をしてそれを見ていた。


 すると、集団は二人の目の前で立ち止まった。異様な雰囲気の集団の気配に気づかぬまま、質問をする。


「魔物はもういなくなったのか?」

「もういなくなった」

「そう、なら安心ね。報告ありがとう。私たちはこれから食事だから、あなたたちは帰ってもいいわよ」

「お前たちに用事がある」


 怒りを滲ませた声が聞こえてきて、二人は少しだけ体を固まらせる。


「な、なんだよ……」

「お前たち、魔物との戦を拒絶したようじゃな」

「当り前じゃない。魔物と戦えるわけないじゃない」

「じゃが、他のみんなは戦に参加したぞ」

「ふーん、だからなんなんだ。俺たちには関係ないね」


 村人は協力して魔物に立ち向かったのに、二人は怯えて小屋に引きこもっただけ。


「それに助けを求める声を無視したようじゃな」

「当たり前だろ。だって、魔物が来るかもしれないのに扉なんて開けられない」

「何度も懇願したのに、それでも扉を開けなかったようじゃな」

「だから、当たり前でしょ! もう、なんなのよ……」


 ただ事実確認と変な圧力に二人は段々と苛立ってきた。その時、村長が決定的な言葉を吐き出す。


「お前たちをこの村から追放する」

「なっ……」

「えっ?」

「村の危機を無視し、助けを求める声を無視したお前たちはこの村には必要ない。即刻、立ち去れ」


 村を追放する、その言葉を聞いて二人は信じられないと驚いた。だけど、村長の眼差しは厳しく突き放してくる。いや、村長だけじゃない。他の村人の眼差しも冷たいものだった。


「い、いや……そんな。お、俺たちがいないと生産力が上がらないぞ? そうなると、困るのは村だよなぁ」

「お前たちは一度も税を納めたことがないだろう。何をいまさら……お前たちはこの村には不必要なんじゃよ」

「そんなの仕方ないじゃない! 税として納める作物がないんだもの! そんなの後からいくらでも挽回できるわよ!」

「何度も猶予を上げたが、挽回できた試しは無かろう。村に取ってお前たちは邪魔者でしかない」


 まだ自分たちは必要とされている人間だ。そう思っていたのだが、どうやら現状は違うようだ。


 突然のことで戸惑う二人。すると、二人目掛けて石が飛んできた。後ろに控えていた村人が石を投げつけたみたいだ。


「村の危機に立ち向かわなかったお前たちを、俺たちは同じ村人にはしておけない! さっさと出て行け!」

「この人でなし! あなたたちなんていらないわ!」

「早く出て行け!」

「や、やめっ……」

「痛いっ!」


 二人に向かって無数の石が投げつけられる。村人からは今回の事で完全に堪忍の緒が切れたみたいだ。誰も二人を許そうとはしなかった。


 そんな村人の態度を見て、二人はこの状況は本当にヤバイと思った。


「た、頼む! この村にいさせてくれ! 今度は真っ当に仕事をするから!」

「ここを追放されたら行くところがないの! それにこの村の事は嫌いじゃないから!」

「俺たちはお前たちの事が大嫌いだ! 顔も見たくない!」

「ここにいたら、毎日の様に石を投げつけてやる! 死ぬまでな!」

「この村にあなたたちの居場所はないわ! 絶対に許さないから!」


 村人たちの当たりはどんどん激しくなっていく。飛んでくる石に耐え切れず、二人はその場を走って逃げ出した。だが、それで許す村人はいない。走って逃げる二人を追いかけて、まだ石を投げつけていた。


「くそっ! くそっ! なんでこうなったんだよ! なんで、楽に生きられねーんだ!」

「こんな目に合うなんて、最悪! こんなことなら、集落を出なければ良かった!」


 二人は悔しそうな声を上げて、村人が追って来ない場所にひたすら逃げ続けた。だけど、村人はしつこく追いまわして、二人に石を投げ続ける。


 そうして二人は追放され、行く先が決まらぬままさまよう事になった。

お読みいただきありがとうございます!

次の更新はコミカライズの情報と共にお届けしたいな、と思っています。

なので、三月のどこかで更新したいですね。

まだ、書く内容は決まっておりませんが、お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
リルちゃんの魔力適正を考えると、元貴族だった両親の遺伝もありそう… 元貴族だったことで、どれだけ出来たかは置いといて、計算や読み書きも出来る… 真面目に働けば、底辺からでも普通の生活が出来るまではいけ…
この性格じゃスタンピードが無くて無事に商会をやれていたとしてもいつか破綻していただろうな……
つまり、リルは子爵領の相続権のある貴族になるルートがあるということですね!!
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