その後の両親(1)
番外編第一弾、両親のその後が知りたいという声が多かったので書いてみました。
全四話の予定です(現在執筆中につき、話数が変わる可能性があります)
後書きにお知らせがありますので、そちらを見て頂けると幸いです。
「では、皆に紹介する。この者たちが今回移住を希望してきた者たちだ。この者たちに知恵と技術を与えて、村の生産力を高めて欲しい」
村の広場では役人が村人を集めて、移住してきた人たちを紹介していた。
「そっちの端にいる人から順番に自己紹介をして欲しい」
役人がそういうと、移住希望者の人たちはオドオドしながらも自己紹介を始めた。みんな控えめに自分の事を話して、少しでも印象を良くするためにできるだけ笑顔を作っていた。
順調に自己紹介が進んでいくと、とうとう最後の人になる。その最後の人たちは今まで自己紹介をしてきた人たちみたいにオドオドしていない。どことなく、不遜な態度を見せていた。
それが、リルの両親。夫のエリックと妻のルルーだった。
「スタンピードで町を破壊されて、止む無く難民になったエリックだ。本当ならこんな村じゃなくて、町に住む方が合っていると思うが、仕方なく来た」
「エリックの妻、ルルーよ。農業の事は分からないから、ぜひ皆さんに協力してもらいたいわ。私たちが働かないと生産力っていうのが上がらないんでしょう? だったら、私たちに協力するしかないわよね」
明らかに上からの目線で話す二人。村人たちは思ってもみない態度をしてきた二人に目を丸くした。それと同時にこの人たちと上手くやっていけるのか、とても不安に思っている。
それは役人も思っていて、口を挟もうとしたが……止めた。自分たちの役目は移住者をこの村に連れてくる事だから、村人と移住者の間を取り持つのは自分たちの仕事じゃないと思ったからだ。
自己紹介が終わると、村長が前に出てきた。
「この村に新しい労働力を連れてきていただき、感謝を。移住者には住処を用意してあるので、そちらに案内しよう」
「では、後は任せたぞ。我々は帰るべき場所に帰る」
「はい、お役人の皆様……ありがとうございました」
村長と役人が言葉を交わすと、役人たちはその場を去って行った。それを見送った村人たちも広場を去り、自分の家へと戻っていく。数人の村人は残り、村長に付き従った。
「じゃあ、移住者の皆さん、私についてきてくだされ」
村長がそう言って歩き出すと、残っていた村人が続きその後ろを移住者の人たちが追って行った。二人も同じように歩いていく。
「ようやく、家で休めるのね。はー、長かったわ。もう、地面の上で寝るのはこりごり」
「今日は柔らかいベッドで寝れそうだな。それだけでも、あの集落を出たかいがある」
二人の頭の中では、何不自由なく暮していた頃の記憶が過った。難民の集落を出たのだから、当時と同じようなベッドで寝れると思っていた。柔らかいベッド、気持ちのいい布団。それを頭の中で思い描いていくと、心が逸る。
そうして、村長の後についていくと一軒の小屋に辿り着いた。その小屋は難民の集落にあった掘っ立て小屋よりはマシな程度の作りで、二人は唖然とした顔でそれを見ていた。
「この家に住みたいと思う人はおるかの?」
「はー!? これが家!? ただの小屋じゃねぇーか! こんな小屋に住めるか!」
「もっと、立派な家はあるでしょ!? それを出しなさいよ!」
「じゃ、じゃが……今空いている家はこれくらいしかなくて」
「建っていた家がこの二倍も三倍も大きかったぞ! そっちを寄越せ!」
「そっちの家はもう人が住んでいて、お主らは住めないぞ?」
「だったら、その人たちを追い出してよ。変わりに私たちが住むから!」
こんな小屋に住むなんてまっぴらごめんだ、と二人は村長に猛抗議した。村長に詰め寄る二人だったが、一緒にいた村人がその間に入り二人を止めようとする。
「わがままを言わないでくれ。この家しか用意できなかったんだ。それで我慢してくれ」
「この村に来てやったんだから、それ相応の持て成しができないとはどういうことだ!」
「い、言っておくが……早く家を決めたほうがいいぞ。じゃなきゃ……」
「こんな小屋に住まわせようとっていう魂胆ね! 良い家を用意できなきゃ、納得できないわ!」
村人が二人を宥めようとするのだが、二人は聞く耳を持たない。その隙に村長が他の移住者に問いかけると、ここに住むと手を上げた移住者がいた。
村長はその移住者を連れて家の中へと入っていった。その様子を眺めていた二人は鼻で笑う。
「あんな小屋でもいいだなんて、気でもおかしくなったか?」
「難民の集落でも恋しくなったのかしら? 何にせよ、私たちはこんな小屋に住まないから」
文句を言う二人を村人たちは困惑した表情で見ていた。すると、村長が家から出てくる。
「じゃあ、次の家に移動するとしよう」
そう言って歩き始める村長。その後に村人が続き、移住者が続いていく。最後に不遜な態度の二人がその後を追って行った。
◇
次に向かった家も小屋のように小さくて、二人はその家に住むことを断固として拒否した。なので、他の移住者が手を上げてその家に住むことになる。
こうして、移住者として最後まで残った二人。先に見た家はダメだったが、きっと最後には良い家が残っているはず……そう思って期待していた。だが、実際に目にした家を見て二人は愕然とした。
「な、なんだこれは……穴が空いているじゃないか!」
「傾いているじゃない! ど、どういうことよ!」
「ホラ、言っただろう? 早く決めたほうがいいって」
最後に紹介された家は今までに見た小屋とは全く様子が違った。壁には穴が空き、家は少し傾いていて、ドアが半開きになっている。
これじゃ、難民集落にいた時の掘っ立て小屋よりも酷い。掘っ立て小屋でも穴は空いていなかったし、傾いてもいなかった、ドアだってしっかりと閉めれた。
「すまんが、この家しか残っておらんのじゃ」
「ここに住めっていうのか!? 冗談じゃない!」
「嫌よ、こんなの家でも小屋でもないわ! まだ、難民集落の掘っ立て小屋の方がマシよ!」
「住んでみたら案外快適かもしれんぞ。ほら、中を見てくれ」
村長が開けっ放しのドアから中へと入る。二人は嫌な顔をしながらも、村長の後についていった。そして、分かるのは……通気性がいいということ。家の中にいるのに、ずっと風が吹いている感覚がする。
「なんだ、この家! 風が通り抜けるじゃねぇか!」
「これが家だなんて……嘘よ!」
「ね、熱がこもらなくて暑い時は快適じゃぞ」
怒りで震える二人。その二人が視線を変えると、そこにはベッドが置いてあった。そのベッドには柔らかな布団も気持ちのいいシーツもない。ただ、藁が敷かれたベッドがあった。
「なんだ、これ……これがベッド?」
「ま、また草?」
「藁のベッドじゃ。この村に住む人たちは大抵藁のベッドで寝ておるぞ」
「う、嘘だ! ど、どこにある……柔らかい布団と綺麗なシーツはどこだ!?」
「村に来たらいいベッドで寝れると思ったのに、嫌よ……こんなベッドで寝るなんて嫌!」
二人は絶望した顔で叫んだ。屋敷で暮していた時のような、いや……最低でも町で暮していた時のようなベッドで寝れると思っていた。なのに、また草のベッドだなんて……。
「くそっ! さっきの奴らと替えてもらう!」
「そうよ、そうしましょう!」
二人はこの家に住みたくなくて、さっき見回った家に走って行った。あの家は穴も空いていなかったし、傾いてもいなかった、ドアも半開きじゃなかった。住むのならあっちのほうがいい。
そう思って、さっき来た家を訊ねる。ドアを乱暴に叩いて、返事もないのに中に入った。すると、中にいた移住者たちは驚いた顔をする。
「な、なんだ!?」
「お前らはここから出て行け! 代わりに俺たちが住んでやる!」
「何を言っているの? ここは私たちの家って決まったんだから」
「そんなの関係ないわ! ここから出て行って!」
二人は移住者を外に出そうと掴みかかった。力の限り引っ張るが、移住者は激しく抵抗した。そして、抵抗する力は移住者の方が強い。二人は移住者の手によって家の外に連れていかれると、投げ飛ばされた。
「いい加減にしろ! ここは俺たちの家って決まったんだ!」
「そうよ! あなたたちにも渡された家があるでしょう? そっちで大人しく暮らしなさい!」
移住者が声を張り上げて、二人を威嚇する。力で負けた二人は悔しそうな顔をして、その移住者を睨みつけた。
その時、二人を追って村長と村人が集まってくる。村長たちは呆れた顔をして、二人を立ち上がらせた。
「あの家しか残っておらん。あの家に住まないとなると、野宿になるが……」
「くそっ! なんで、あんな小屋に住まなきゃいけないんだ!」
「野宿は嫌だけど、あの小屋も嫌……」
村長の言葉に二人はしぶしぶあの小屋へと戻っていった。
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