191.大農家のお手伝い(5)
「村にゴブリンが現れたんですか!?」
「今朝家畜が襲われていたらしい。そこで一つ頼みがある、一緒にゴブリンの捜索に加わってくれないか? 冒険者がいれば心強いんだが」
「冒険者ギルドには事後報告になるけど、リルちゃんに依頼をした形に手続きはするつもりだよ」
三日目の畑仕事を始めた時、おじさんとおばさんが現れてそんなことを言ってきた。ゴブリンは村人で対応はできるが、冒険者が来ているんだから、と捜索を一緒にしてくれないかとお願いされた。
冒険者ギルドには指名依頼という形で事後報告ではあるけど、届け出を出してくれるみたいだ。それだったら断る理由もないし受けてもいいかな。
「畑仕事はいいのですか?」
「ゴブリンのほうが重要だから、畑の収穫が遅れるのは仕方がない。残りの兄ちゃんたちに頑張ってもらうしかないな」
「もし収穫しきれなかったら家族で収穫しておくから気にしないでおくれ」
畑も大事だけど、ゴブリンが現れたほうが重要らしい。襲われたのは家畜だけど、農家としても放っておくこともできないみたいだ。ここは捜索に加わってゴブリン退治に行きますか。
「私も捜索に加わらせてください。ゴブリン退治なら経験もありますし、力になれると思います」
「そうか、よろしく頼む」
了承するとおじさんはホッとしたような表情をした。その時、お兄さんたちが近寄ってきた。
「ゴブリン退治に行くって本当か? だ、大丈夫なのか?」
「はい、ゴブリン退治なら何度もやったことがありますので大丈夫です」
「本当にゴブリンと戦うつもりなのか? だって、リルって小さいだろ?」
「これでも魔物討伐を始めて一年は経っているので大丈夫です」
「心配だな、一緒に働いていた子がいきなり魔物と戦うことになるなんて」
「もとから冒険者ですから、こっちの仕事も本業です」
お兄さんたちはみんな心配そうな顔をして私を見てくる。子供だから心配されているんだろうな、というのは分かった。普通の反応だから仕方がない。
心配してくれるのは嬉しいな。だけど、私は冒険者でもあるから魔物と戦うのも仕事だ。新しい依頼だからしっかりと成し遂げたい。
「お兄さんたちは私の分まで畑仕事を頑張ってください」
「そっか、リルがそっちにいくなら畑仕事は俺たちの仕事になるのか。リルがいなくなるのは心もとないけど、後は任せてくれ」
「リルちゃんが魔物と戦っている間は僕たちで畑仕事を頑張るよ。戻ってきた時には仕事は無くなっているよ」
「そうそう、こっちの仕事のことは気にするな。リルはしっかりと冒険者の仕事を終わらせて来いよ!」
畑のことをお願いするとお兄さんたちの表情が凛々しくなった。胸を叩いて任せろ、と言わんばかりだ。これだったら後は任せられるね、一緒に仕事ができないのは残念だけど私は私の仕事をしよう。
「じゃあ、行こう。場所は案内する」
「それじゃあ、行ってきます」
「気を付けて行けよ」
「頑張ってね」
「無事に戻ってくるんだぞ」
お兄さんたちに見送られておじさんに連れられていった。
◇
「よし、全員集まったな。これより森の中の捜索を開始する。等間隔に並んで森の中を進んでいって、ゴブリンを見つける。ゴブリンが見つかったらすぐに声を上げて、周りにいる人が駆けつけるように」
森の前で村人が農具を片手に集まっていた。簡単な説明を終えると、等間隔に並んで森の中に入っていく。目視でお互いの姿が見える位置のまま森の中を進んでいく。
周りの速度に合わせて森の中を進んでいった。ある程度進むと、魔力を高めて聴力強化をして周囲の気配を探る。意識を集中して音を拾っていくと、ゴブリンらしき声が聞こえてきた。
「ゴブリンの声が聞こえました!」
「本当か! どっちにいる!?」
「あっちです!」
「みんな、ゴブリンはあっちだ!」
声を上げて近くにいる村人に伝えると、それがどんどん伝えられていく。森の中で響く声を聞きながら、ゴブリンがいる方向へ進んでいった。
もう一度聴力強化をしてゴブリンの様子を聞いてみると、何か話し合っているみたいだ。きっと私たちの声が聞こえてきたせいだろう、話し合うと移動を開始した。
だんだんと近くなる距離、村人たちは注意深く慎重に進んでいく。ゴブリンの気配も近くなるけど、近くなると感じるのはゴブリンの数の気配。
少なくとも五体以上はいる気がする。このまま村人に当たらせるのは大変だ、ここは私が始めに接敵したほうがいい。近くにいる村人に近寄って話す。
「ゴブリンは五体以上いるみたいです。このまま村人が接敵するのは危険なので、冒険者の私が先行します」
「分かった、よろしく頼む。冒険者が先行するぞー!」
ゴブリンの場所は大体特定した、身体強化をしてその場所へ急ぐ。木々をすり抜け、まっすぐに向かっていく。もう一度聴力強化をすると、ゴブリンとの距離がぐんと縮まっていた。
もう少し……見えた!
「グギャッ!?」
「ギャギャーッ!」
ゴブリンもこちらに気づき立ち止まった。木々の間から続々と現れるゴブリンたち、よく見たらDランクのゴブリンもいる。数は全部で七体だ。
お互いに向かい合い、武器を構える。じりじりとにじり寄っていって、攻撃する機会を窺う。緊張感が高まった時、先に動き出したのはゴブリンだ。
「ギャッ!」
まずは一番弱いゴブリン三体が襲ってきた。手には小さなナイフやこん棒を持っていて、ちょっとした脅威だ。ある程度近づいてくると私も動き出す。
もうゴブリン程度の速度は遅い。素早く走ると、ゴブリンが武器を掲げている隙に剣を振るった。縦に深い一撃を与えて、今度は違う個体に向けて下から切り上げる。
「ギャッ!」
残ったゴブリンがナイフを突き立ててくるが、それを簡単に躱して頭を剣で切り落とした。
「ギャーギャーッ!」
「グギャーッ!」
Dランクのゴブリンが命令をして、残りの二体のEランクのゴブリンを動かす。二体のゴブリンはまっすぐにこちらに向かってくるが、全く脅威に感じない。
こちらに近づくのを待って、剣の間合いに入ったら速攻で動く。剣を二度振ると、それだけでゴブリンは無力化できた。グシャリと力なく地面に倒れた。
あっというまに残り二体となった。Dランクのゴブリンは少し焦った様子を見せたが、すぐに表情を歪めて殺意を込めて襲い掛かってくる。今度はこちらが走り寄った。
相手が攻撃をする前に懐に入ると、剣を二度振るう。
「グギャーッ!」
「ギャーッ!」
断末魔を上げてDランクのゴブリンは地面に倒れた。すぐに周囲を確認して他にゴブリンがいないか確認する。……よし、他にはいないみたいだ。
ゴブリンを倒し終わると、こちらに近づいてくる村人の気配がした。
「こっちです! ゴブリンは全部倒しましたよ!」
声を上げて村人を誘導すると、辺りに散らばっていた村人が姿を現した。
「うわっ、こんなにゴブリンがいたんか!」
「オラたちの出番がなくて、なんだかホッとしただよ」
「こんなにゴブリンが……もしかして、ゴブリンの集落ができているんじゃないか?」
現れた村人は倒れたゴブリンを見て一様に驚いていた。
「集落か、ありえそうだな」
「冒険者ギルドに依頼したほうがいいんじゃないか?」
「リルちゃんはどう思う?」
ゴブリンの集落か、ということは数は沢山いるっていうことだよね。私一人じゃ無理そうだし、ここは冒険者ギルドに依頼を出してもらったほうがいいだろう。
「私一人では対応しきれないので、冒険者ギルドに依頼したほうがいいと思います」
「そうだよなぁ。冒険者一人じゃ無理だよなぁ」
「まずは集落の捜索を優先にして依頼して、集落があった場合のせん滅も考えないといけないと思います」
「集落の捜索とせん滅を一緒に依頼するかどうか、だな。んー、村でみんなと相談したほうが良さそうだな」
「村の意見と村長の意見も聞かないといけないべ。とりあえず、このゴブリンを処分して、さっさと帰るべ」
詳しい話は村に戻ってからになった。私たちはゴブリンの討伐部位を切り取り、農具で穴を掘ってゴブリンを埋める。それから村へと戻っていった。