190.大農家のお手伝い(4)
作物倉庫へじゃがいもを持っていき、布の敷かれた上に転がした。重たい木箱を持って中身のじゃがいもを取り出す作業は大変。お兄さんたちは手や足を震わせながらなんとか作業をした。
それが終わると念願の昼食だ。いつもの場所にいくと今回は鉄板ではなく、事前に皿の上に用意されていた。具だくさんのサンドイッチと酪農家から貰った牛乳だ。
疲れているお兄さんたちは食事の時は元気になってサンドイッチにかぶりつき、牛乳を飲み干していく。
「うめー!」
「家で飲む牛乳と大違いだ!」
「あー、生き返るー」
すごい勢いで牛乳を飲んでいる。私も飲んでみよう……んっ、美味しい! 新鮮で濃厚な味が広がっているのに、後味は凄くすっきりとしていて飲みやすい。
サンドイッチと牛乳、交互にずっと食べていられる。あっという間に食べきると、お兄さんたちはテーブルに体を預けてぐったりとした。まだ疲れは回復してないみたい。
「午後のために少しでも休んでおこう」
「そうだな、午後も同じ作業だしな」
「リルも休んだほうがいいぞ」
「そうですね、のんびりしてますね」
お兄さんたちは静かになった、どうやら仮眠をとっているみたいだ。私は疲れたけど寝るほどじゃない、イスに座っていい景色を眺めて時間を潰していく。
◇
午後の仕事が始まった。また荷馬車で畑まで移動をすると、じゃがいもの収穫を続ける。スコップで土を掘り返し、じゃがいもを取り、布で土をとって、木箱に入れる。
午前中と同じ作業がずっと続いていく。午前中はあんなに元気だったお兄さんたちは時々しゃべるくらいで、後は黙って仕事をしていた。
集中しているとあっという間に時間が過ぎるみたい。次々にじゃがいもを掘り起こして収穫していくと、もう終わりが見えてきた。あとはもう少しで終わりそう。
その後も集中してやっていくと、最後のじゃがいもを木箱に収めることができた。
「終わったー」
立ち上がって大きく背を反る。辺りを見渡していると夕暮れになったばかりか、少しだけ赤くなっていた。なんとか一日の仕事を終えることができたな。
早速木箱を集め出すと、お兄さんたちの視線がこちらに集中した。
「あれ、リルちゃん、もしかして……」
「はい、終わりました」
「なんだとっ、ということは俺たちっ」
「負けたのかー!!」
お兄さんたちががっくりと項垂れて、地面に座り込んだ。そうだった、勝負をしていたことをすっかり忘れていたよ。
「リル、早すぎだぞ。俺はまだ残っているのに」
「やっぱり冒険者はズルいぞー」
「あはは、リルちゃんに負けた僕らって」
「お兄さんたちも残り頑張ってくださいね」
そういうとお兄さんたちはのろのろと立ち上がって作業を続けた。昨日は負けちゃったけど、今日は勝てて気分がいいな。木箱を集めたらお兄さんたちのお手伝いをしよう。
木箱を一か所に集め終わると、私はお兄さんたちに近寄った。
「残りは一緒に手伝いますよ」
「本当か、ありがとう」
「リルが手伝ってくれると助かるぜ」
「勝負に負けたくせに、手伝われる僕らって」
残りの収穫を順々に手伝っていく。手伝っているお陰か、お兄さんたちの作業の手が早くなったように思えた。あーは言いつつも、どうやら負けず嫌いの気持ちがあるらしい。
残りのじゃがいもを四人で収穫し、終わる頃には周りが夕日で真っ赤に染まっていた。
「おーい、終わったかー?」
そこにおじさんがやってきた。
「今ちょうど終わったところです」
「そうか、今日中にここが終わって良かった。さぁ、木箱を積んだら戻るぞ」
「そうだ、まだ木箱の仕事が残っていたんだった!」
「あと作物倉庫にじゃがいもを転がす仕事も残っているよ」
「うわー、聞きたくなかった!」
「ほれ、さっさと木箱を荷馬車に積め。早くしないと暗くなっちまうぞ」
お兄さんたちは肩を落としながら、木箱を持ち上げた。私も木箱を持ち上げて、荷馬車のところまで急いだ。おじさんも加わりみんなで木箱を荷馬車に積む。
なんとか夕日が出ている間には積み終わり、作物倉庫へと急いだ。
◇
「今日は疲れたー!」
「もう動けねぇー!」
「僕も!」
夕食の時間が終わり、倉庫の二階に上がるとお兄さんたちが真っ先に干し草ベッドに倒れこんだ。
「お疲れ様です」
「なんでリルはまだそんなに元気なんだよー」
「やっぱり冒険者だからか?」
「いや、きっと僕らよりも若いからじゃ」
なんだか好き勝手に言われているような気がするけど、まぁいいか。私もそれなりに疲れていたので、干し草ベッドに倒れこむ。ふわふわして気持ちがいい。
「今日は身体強化は使っていたのか?」
「今日は木箱を持ち上げるくらいしか使いませんでしたよ」
「え、それしか使ってないの?」
「それなのに、まだ元気が残っているのか。冒険者ってすげーんだな」
まぁ、冒険者は体力勝負な部分があるしね。でも昔のままだったら私もへたっていただろう。まだ元気なのはそれなりに体力がついてきた証拠なんだと思った。
「小さいのに頑張っているんだな。その、一人なのか?」
「そうですね、親から見放されたので一人で生きていくしかないんです」
「親はいなさそうだから、そうかなっとは思っていたけど……そうだったんだね」
「親もいねぇのに、ここまでしっかりと働けるんならすげーよ。俺らとは大違いだ」
四人で干し草のベッドに仰向けになりながら雑談が続いた。こんな年齢の子が働いていたら色々と考えちゃうよね。
「リルが懸命に働いている姿を見ているとな、俺らも頑張らなきゃって思ったんだよな」
「今日の仕事だっていつもなら放り出しているくらいにキツイ仕事だったんだけど、リルちゃんが働いているならやらないとなって思ったんだよ」
「リルはすげーな、文句一つ言わずにしっかりと仕事をやりきるんだからな」
そうだったんだ、私の働いている姿を見てやる気を出してくれていたんだね。もしかしたら勝負もやる気を出すためにわざわざ言ったのかな?
「こんな小さな子に負けてたまるか、っていう気持ちにさせてくれたよ」
「そうそう。それがなかったら、最後まで仕事ができなかったかもしれないな」
「気まぐれで来た仕事だったけど、リルと出会えて良かったぜ。仕事の達成感みたいなものが味わえたしよ」
体を起き上がらせてこちらを向いてそんなことを伝えてきた。働いている姿を見せるだけで感謝をされるとは思わなかったので、なんだか照れくさい。
「私の働いている姿を見るだけでやる気になってくれたみたいで、なんだか恥ずかしいです」
「すげーよな、リルはよ。あんな大変な作業を楽しそうにやっていたんだから」
「あー、収穫の作業が思いのほか楽しくて。それに、お兄さんたちが楽しそうにしてくれたお陰で私も楽しく仕事ができました」
「僕たちのお陰? ということは、僕たちもリルちゃんのためになっていたってこと?」
「はい、お陰でやる気が持続して仕事が早く終わりました」
「マジかよ、リルの仕事が終わったのって俺たちのお陰だったのか!?」
私の言葉にお兄さんたちは嬉しそうに声を上げた。一人でやる仕事よりも誰かとやる仕事のほうがやりがいがある、まぁ時と場合だけどね。
なんだかんだで楽しそうに働いていたお兄さんたちと一緒に働くのは、私なりに楽しかった。いつもは大人に混じっていたけど、今回は若いお兄さんが一緒だったからいつもとは違う感じがした。
いつもよりは少し緩めに仕事ができた、それが良かったんだと思う。気の持ちようでこんなにも仕事の負荷が変わるんだな、と改めて感じた。
「明日も今日みたいな調子で一緒に仕事をしましょうね」
「おうよ! リルが頑張るんなら、俺たちだって頑張るぜ!」
「明日も負けられない戦いになりそうだ」
「残り二日もなんとか乗り切れそうだよ」
四人で協力し合いながら明日もその次も仕事を乗り切っていこう。おー、と四人で拳を突き上げて心を一つにした。




