189.大農家のお手伝い(3)
「ここが今回収穫する畑だ」
おじさんに連れられてきた場所は広い畑が一面に広がっていた。見渡す限りの畑に圧倒された私たちはしばらく何も言えない。
「とりあえず、今日は五列くらいの収穫を頼むべ」
長ーい列を見て、列を数える。収穫するべき作物の多さにやっぱり口を開けない。これは大変な収穫のお仕事になりそうだ。三人の様子を見てみると、三人とも目を見開いて大口を開けていた。
「収穫する作物はじゃがいもとかぼちゃだ。今日はじゃがいも、明日はじゃがいもとかぼちゃ、明後日はかぼちゃの収穫だな」
「収穫の手順とかありますか?」
「じゃがいもはスコップか鍬で土を掘り起こす感じで収穫だ。取ったじゃがいもは全部土を払って木箱に入れてほしい。午前と午後の二回に分けて作物倉庫に移動させるから、手際よくやっていってほしい」
それを全部手で行わないといけないのか、大変な作業みたい。身体強化を使わないでもできそうな作業だけど、いざという時には使わせてもらおう。
「じゃあ、各自頑張ってくれ。私たちは向こうの列から収穫を始める。昼前になったら迎えに来るからそれまで頑張ってくれよ」
「はい、分かりました」
おじさんは家族を引き連れて離れた場所の列に移動した。残された私たちも早速作業をしないとね。必要な道具は畑の端っこに置いてあるし、準備万端だ。
だけど、お兄さんたちは大丈夫かな?
「お兄さんたち、大丈夫ですか?」
「はっ! いやいや、なんの話かな?」
「さっきから無言でしたけど、話を聞いてました?」
「も、もちろんだよ。収穫方法もバッチリさ!」
「本当ですか、早速作業を開始しましょうか」
「そそ、そうだな!」
なんだか慌てている様子だけど、本当に大丈夫かな? 何やら三人で話し合いを始めたけど、何を話し合っているんだろう。しばらく、そんな三人を見てみると、こちらを振り向いた。
「や、やあ冒険者のリル。冒険者だから体力と力には自信があるんじゃないか?」
「体力と力ですか? 普通の冒険者に比べたら弱いとは思いますが、一般の人に比べたらあるとは思います」
「そ、そうだよね。そうしたら僕たちよりもリルちゃんのほうが強いっていうことになるね」
「まぁ、そうですね」
「強さに差があるから、作業に差があってもいいだろう? だからリルは二列を担当して、俺たちが一列ずつ担当するのはどうだ?」
なるほど、この畑の広さを見て怖気づいてしまったんだろう。均等に分けた時のことを考えて、自分たちには無理だと悟ったみたいだ。確かにこの量は一般の人には厳しいかもしれない。
昨日の作業を思い出しても、お兄さんたちは肉体労働向きじゃないと思う。ということは、畑仕事をやるのはとても大変なことだ。お兄さんたちを頼りに仕事はできないだろう。
ここは私が頑張らないといけなさそうだ。
「私が二列でいいですよ」
「そうか! なら、それで対決だ!」
「えっ、対決するんですか?」
「どっちが早く終わるか勝負だな、今回も負けないからな!」
「今回も厳しい戦いになると思うけど、負けないよ!」
まさかこの状況で対決をするとは思わなかった。まぁ、でも三人とも元気になってくれたのは良かったと思う。あのままだったら、私がいっぱいやらないといけない結果になっていたかもしれない。
そう思うと、この対決はいい刺激になってくれている。三人のお兄さんたちがやる気がなかったら私が大変な目に合いそうだったから、むしろこの状況を喜ぼう。
「今回は私が勝ちますよ」
「よし、始め!」
「オラオラ、全部のじゃがいもを獲ってやるぜ!」
「男を見せるぞ!」
……急に元気になって、笑っちゃいそうになっちゃった。これって自分たちが勝てると思っているから、そんな態度になっちゃうんだよね。冒険者を舐めてもらっては困ります、私もこの状況に乗ってあげましょう。
畑の端に置いてあったスコップを片手に畑へと入っていく。まずはじゃがいもの掘り起こしからだ。一うねに二列のじゃがいもが植えられている、まずは十列掘り起こそう。
じゃがいもから離れた位置でスコップを刺し、てこの原理でじゃがいもを掘り起こす。土ごとじゃがいもが持ち上げられた。結構簡単に持ち上げることができた、そんなに力は必要ないみたい。
すぐにスコップを抜き、また違うじゃがいもを掘り起こす。そうやって次々にじゃがいもを掘り起こしていき、十列二十束のじゃがいもを掘り起こすことができた。
次に木箱と土で茶色くなったタオルを近くまで持っていき、掘り起こしたじゃがいもの傍にしゃがむ。じゃがいもの茎を掴んで土をかき分けると、丸々としたじゃがいもが現れた。
土を掘り返してみるとそこからも沢山のじゃがいもが現れる。こんなにいっぱいのじゃがいもが収穫されるのは見ていて気持ちがいいし、掘り返す時も楽しかったな。
タオルを手に取ると一つずつ拭きながら土を取り除いていく。大小さまざまなじゃがいもを次々と拭きあげていくと、一株のじゃがいもを収穫することができた。
木箱を覗いてみると、丸々と膨らんだ大小さまざまなじゃがいもがいっぱい。それでも木箱の一割にも満たないが、収穫した喜びが溢れだしてきた。
「おほー! こんなに獲れたぜ!」
「こっちはこんなに大きなじゃがいも獲れたよ!」
「なんの、こっち見てみろ!」
お兄さんたちは楽しそうに収穫を始めていた。その喜びようは子供みたいで可愛く見える。
「リルも獲れたかー?」
「はい、沢山獲れましたよ」
「俺はこんなの獲れたぜ!」
「僕はこんなに!」
みんなで収穫したじゃがいもを見せあって喜びを分かち合った。
◇
延々と同じ作業が続いた。土を掘り返し、じゃがいもを掘り起こし、じゃがいもを拭いて木箱に入れる。ずっと続けていくと飽きてくるが、これは仕事だそんなことを言って手を止めていられない。
それに勝負もしている。二列やらないといけないから、午前中でこの一列を終わらせないといけない。途中からスピードアップをして黙々と作業を続けていった。
あれだけ元気だったお兄さんたちも次第に口数が減っていき、今では黙々と作業をしている。集中しているのか、それとも疲れているのかは分からない。あんなに賑やかだったから、今はちょっと寂しい。
そんなことを思いながら作業をしていくと、終わりが見えてきた。ラストスパートとばかりに動きを早くして作業を進めていく。そして、とうとう列の最後のじゃがいもの収穫を終えた。
「一列、終わったー」
立ち上がって大きく背を逸らす。なんとか午前中に半分を終わらせることができた。今までやってきたうねを見てみると、綺麗にじゃがいもが抜けた後が続いている。
離れたところではお兄さんたちが黙々と作業を続けていた。今のうちに木箱を一か所に集めておこう。身体強化をして木箱を持ち上げると、進んできた方向に戻っていく。
「あれ、リルちゃん作業は?」
「半分終わりました」
「何、マジか!」
「俺らはどこまでいった!?」
「大体半分くらいじゃないかな」
「だったら、まだ負けてないよな!」
「まだ勝負はついてないぜ!」
私の姿を見ると急にやる気を出して、素早い動きで作業をし始めた。そんな光景を見ながら私はじゃがいもの入った木箱を一か所に集めていく。
全ての木箱を集め終わった頃、荷馬車が近づいてきた。
「母屋に戻って昼飯にするぞー。じゃがいもを馬車に積んでくれー」
おじさんが午前中の回収にやってきた。お兄さんたちは慌てて木箱を集め始め、その間に私が持ってきた木箱を馬車に積み込み始める。私が全てを積み込み終える頃にはお兄さんたちも木箱の回収を終えた。
「はぁはぁ、重い」
「腰が、痛いっ」
「ちょっと、休ませて」
「なんだ、だらしない。リルちゃんはこんなにも元気なのにな」
「私は身体強化をしてますからね」
「やっぱり冒険者はズルい!」
「その力は使わないでくれー!」
「僕たちはこんなにヘトヘトなのに……」
お兄さんたちはその場でへたり込んでしまう。仕方がないのでお兄さんたちが持ってきた木箱を私が荷馬車に積み込んであげた。午後の仕事は大丈夫かな?