188.大農家のお手伝い(2)
大きな鉄板の上で種類豊富な野菜と肉が木べらによって踊る。美味しそうな焼けた匂いが辺りに充満して、空腹のお腹がクゥとなった。
「ほいっと、これでできあがりだよ」
おばさんがそういうと皿に料理を盛り始める。外にある大きな竈の上で鉄板を置き、その上で料理をした。辺りは夕暮れに染まり、いい景色が広がっていた。
だけど、私たちは料理に釘付けだ。
「あとは好きに食べてね。私たちは家の中で食べているから」
「はい、ありがとうございます」
そういったおばさんは家に戻って行った。残された私たちはテーブルつきのイスに座り、皿を片手に食事を始める。
フォークで野菜を刺すと、シャキッとした触感が残っていた。みずみずしくて美味しそう、それに絡まったソースのいい匂いがして堪らない。いくつかの野菜と肉をフォークで刺して、口へと運ぶ。
野菜の甘味と肉のうま味が混じり合い、噛めば噛むほど味が濃くなる。ほっぺがギュッとなるくらいのうま味が堪らない!
「美味しいー」
「うめぇ!」
「なんだこれ、うめぇ!」
「はぐ、はぐっ」
みんなで夢中になって食べ進める。鉄板でソースをかけて焼いただけなのに、どうしてこんなに美味しく感じるんだろう。焼き加減も絶妙だし、お店で出せるレベルだよ。
夢中で食べ進めるからあっという間に皿の中が空になり、みんながどんどんおかわりをしていく。
「いくらでも食べれるぞ、これ」
「量が多いかなって思ったんですけど、これ全部食べれそうですね」
「外で食べるのもいいよなー。余計に美味しく感じる」
「景色もいいし、最高の夕食だね」
沈んでいく夕日を見ながらの夕食は特別に美味しい。耳をすませば遠くから鳥の鳴き声も聞こえてきて、自然の中で食べている感じがして良かった。
「昼にピクニックとかして、食事を食べたことはあるけど。夕方はないな」
「こんないい景色の中は初めてです」
「なんかいいよなー、一日の終わりって感じがして」
「一日の終わりなのに盛り上がっちゃうね」
四人で夕日を見ながら夕食を食べる、それだけなのに心がちょっと弾んでいた。前世でいうところのキャンプみたいで、楽しい気分になる。食事は美味しいし、景色は最高だし、いい職場だな。
鉄板の上で作られた料理はどんどん減っていき、あっという間になくなってしまった。それでも全員がお腹いっぱいに食べられる分はあったので満足している。
◇
暗がりの倉庫の二階に上がると、広い屋根裏にシーツを敷いた干し草が引き詰められていた。こんもりと山ができているふわふわの干し草のベッドだ。
「俺、干し草のベッドで寝るの初めて」
「どんな感触なんだろうね」
「見るからにしてフワフワだぞ」
「なんだか気持ちよさそうですね」
集落にいた時よりも寝心地が良さそうな干し草のベッドに体がうずうずする。すると、他の三人は駆け出して干し草のベッドにダイブした。
「うおっ、フカフカだ!」
「すげー、すげー!」
「これは気持ちがいいね」
何度も干し草ベッドの上で跳ねてその感触を楽しんでいた。
「ほら、リルも来いよ!」
「気持ちいいぞ!」
「フワフワー」
「はい!」
私も駆け出して干し草のベッドにダイブした。シーツの中に体が沈み、フワフワの干し草の感触が体中を包んでくれている。
「わっ、凄いです!」
「だろー!?」
「これ、普通のベッドよりいいんじゃねぇのか?」
「なんで僕たちは普通のベッドで寝ていたんだろう?」
干し草のベッドを手で押すとどこまでも沈んでいき、手を引っ込めると元の形に戻っていく。シーツがあるから干し草の純粋な弾力だけ楽しめるのが良かった。
大の字になってベッドの上に転がると、体は丁度いいところまで沈んでいった。ゴロゴロと右に左に転がっていくと、体は沈み干し草のベッドに包まれる。集落で寝ていた干し草のベッドとは大違いだ。
「うわー、すげー癒される」
「明日仕事したくない」
「ずっと寝ていたいね」
「ここから動きたくないですね」
四人で干し草ベッドの上で大の字に寝る。体を優しく包む干し草ベッドがこんなにいいものだとは思ってもみなかったから、カルチャーショックだ。
「このベッドで寝たら、仕事の疲れもなくなるんじゃないですか?」
「あー、そうかも」
「体の力も抜けるね」
「あーもう、何もしたくねぇ」
あれだけはしゃいでいた青年たちが急に静かになってくる。午後の仕事が思いのほかきつかったのか、優しさに包まれて眠たくなったのだろう、声が少しずつ小さくなっていく。
「夜は三人で喋りたおすって思っていたけど、そんな余裕ねぇな」
「これはすぐに寝ちまうわ。仕事もキツかったし」
「遊び半分で来たからね」
楽しく仕事ができそうでちょっとだけ羨ましい。私も年齢の近い子と一緒に働けば楽しい気持ちになるのかな。そういえば、カルーと一緒に働いていた時はなんだか楽しかったなぁ。元気かな、カルー。
「もう寝るか。こんなに早くに寝るのは小っちゃい頃以来だな」
「あーあ、夜のお楽しみ時間がなくなったな。まぁ、これだけ気持ちよかったら許すけど」
「リルちゃんはどうする?」
「私も寝ますよ。以前はこの時間帯に寝ていたので、懐かしいだけです」
「そっかー、じゃあみんなで明日に備えて寝ようか」
「さんせー」
もうすでにみんなの声が眠そうだ。明日に備えて気持ちのいい干し草のベッドで早めに寝ることになった。
◇
翌朝、開けっ放しの窓から差し込む朝日で目が覚めた。柔らかい干し草のベッドに包まれながら起きる朝は最高で、このまま二度寝をしたい気持ちにさせられる。
もう一度寝たい気持ちをぐっとこらえて、上半身を起こして干し草のベッドから降りた。他の三人を見てみると、まだぐっすりと寝ている。今のうちに着替えてしまおう。
マジックバッグを持って一階に降り、そこで今日の服に着替える。昨日着た服は宿屋に戻ってからまとめて洗うことにしよう。倉庫から外に出ると気持ちのいい朝日を全身に浴びる。
思いっきり背伸びをして体の力を抜く、それだけで眠っていた体が起きてくるみたいだ。美味しい空気を一杯吸い込んで、吐き出す。それから軽くストレッチをした。
すると、家の扉が開く。
「おや、早いね」
「おばさん、おはようございます」
「おはよう。これから朝食を作るから、残りの三人を起こしてくれないかい?」
「分かりました」
倉庫に戻って二階に上がると、お兄さんたちを起こした。お兄さんたちはとても眠たそうにしながらも、起きてきてくれた。着替えがあるらしいから、私は一階に降りておばさんのところへ戻ってくる。
おばさんは昨日の鉄板を使って朝食を作ってくれていた。焼いた燻製肉の上に半熟のたまご焼き、バターをいっぱい使ったホクホク芋の炒め物、薄切りのパンをバターで焼いたトースト。
「はいよ、できたよ。じゃあ、仕事が始まるまでには食べ終わっておいてくれよ」
そういったおばさんは家へと戻っていった。美味しそうな匂いが辺りに充満すると、倉庫から青年たちがやってきた。
「美味そうな匂いだ」
「腹減ったー」
「僕はまだ寝ていたかったな」
だらだらとした様子でこちらに近づいてきた。テーブルに近づいて皿を取ると鉄板の前にくる。ヘラですくって皿に盛り付けてから、よろよろとした様子で席に着いた。まだ眠たそうにしながら、食事を口の中へと運ぶ。
「ん、ん、うまっ」
「バターがんまいわ」
「この燻製肉美味しい」
「たまごの黄身が凄く味が濃いですよ」
「マジで、パンにのっけて食おうかな」
「それ、いいね」
気持ちいい空気が立ち込める朝に美味しい朝食、それに会話のある時間。鳥のさえずりを聞きながら、穏やかな朝食の時間は過ぎていった。