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129.集落のみんなへ(2)

 肉を受け取った後はお昼を食べた。それから馬車の旅で必要となりそうな食料以外のものを買い揃えて、カルーのところへ遊びにいく。お客さんがいない時に二人でおしゃべりをするのが楽しい。


 このおしゃべりももう少しで終わりか。そう思うと寂しいけど、今は楽しいを分かち合いたい。そういうことは考えないようにして楽しい時間を過ごした。


 カルーと別れた後は夜ご飯をテイクアウトして集落へと戻る。いつもなら薄暗くなる時間に集落に辿り着くのだが、今日は夕暮れの時に帰ってくることができた。久しぶりに夕日で赤く染まる集落を見た気がする。


 その光景を見てちょっとだけ寂しくなっちゃった。この集落から離れることを考えると、もっと寂しくなっちゃうな。でも、いつだって帰ってこれるんだから、帰ってくるつもりでコーバスに行こう、うん。


 集落の広場まで来ると、食糧庫に近づく。その食糧庫の前には見張りのおばあさんがいてボーッと座っていた。そこに近づいて挨拶をする。


「こんにちは」

「ん、あぁリルかい。食料を持ってきたのかい?」

「はい、沢山持ってきました」

「ありがとよ。それじゃ、中に置いておいてくれ」


 おばあさんが立ち上がると食糧庫の扉を開ける。いつものように中に入ると、マジックバッグから布を取り出して中へ広げた。そして、メルクボアの生肉を布の上に置いていく。その光景をおばあさんは見ていたけど、突然驚いた声を出す。


「ちょ、ちょっと待っておくれ! 一体どれくらい出すつもりだい」

「えーっと、あとこの三倍はあります」

「三倍だって!? んー……とりあえず、全部出して見せて」


 焦ったおばあさんのいう通りにマジックバッグの中に入っているメルクボアの肉を全部出してみた。すると、おばあさんは呆けた顔をしてその肉を見ている。


「あんた、これだけの肉をどこで手に入れたのさ」

「外の冒険者をしているので、狩ってきました」

「狩って来たって、これを売ってお金に代えるんじゃないのかい?」

「このお肉はお世話になった難民集落のみんなに食べて欲しくて狩ってきたものなんです」

「確かにこれだけの量があったら集落全員に大きな肉の塊を食べさせられることはできるとは思うけど……」


 まだ驚いた顔をして肉を眺めるおばあさん。しばらく考えている顔をすると、こっちを向いて口を開く。


「昼の分の連中のもあるんだよね?」

「はい、昼の分も含めて狩ってきました」

「悪いんだけど、明日の朝の分の半分だけ置いて貰えるかい。残りはまた明日ここに置いて貰えると嬉しいんだが」

「分かりました。半分しまいますね」


 やっぱり一度に置いておくと邪魔になっちゃうよね。私はメルクボアの肉を半分だけマジックバッグに戻した。うん、これでよし。後は明日の朝に調理してもらえればみんなに行き渡るよね。


 食糧庫を出るとおばあさんは扉を閉めた。


「リル、こんなに沢山の肉を持ってきてくれてありがとね。朝の連中も昼の連中も喜んでくれると思う」

「そうだったら嬉しいです。私がここまでこれたのは集落のみんなのお陰なので、少しでも恩返しができれば」

「この肉を見ればリルの気持ちは伝わるさ。集落を出るのにここまでしてくれた人はいないのに、リルは本当にいい子だね」


 そういったおばあさんは私の頭を撫でた。久しぶりに感じた人の手のぬくもりに胸の奥が温かくなる。


「明日が待ち遠しいね」

「はい!」


 ◇


 次の日の朝、いつも通りに目覚めた。体を起こして、座りながら背伸びをする。しばらくボーッとして頭が覚醒するのを待った。次第に思考が鮮明になっていくと、ベッドから出てゴザの上に立ち上がった。


 それから吊るされた服に手を伸ばして着替え終わると革靴を履く。準備が完了すると家を出て広場に向けて歩いていった。広場につくとまだ配給は始まっていないようだ。お手伝いをするために鍋がある場所に近づいていくと、女衆がこちらに気づく。


「リルちゃん、お肉見たよ!」

「あんなに大量のお肉みたのは初めてだよ」

「あーいう魔物を退治したんだってね、すごいねぇ」


 するとすぐに声が掛かった。みんなが喜んでいるのが目に見えて嬉しくなる。鍋に近づいて中身を見てみると、ゴロゴロとした肉が沢山入っていて、今にも鍋から零れ落ちそうになっている。


「この量だとみんなに肉が行き渡るよ、ありがとねリルちゃん」

「朝からこんなに大きな肉が食べられるなんて贅沢だよ」

「お世話になった皆さんに少しでも恩返しができて良かったです。どうやったら喜んでくれるか考えたんですけど、食べ物がいいかなって思って」

「そこまで気を使ってくれて、本当にありがたいねぇ」

「さぁ、できたよ! リルちゃんは今日のお手伝いは休みだよ」


 鍋の中には大量のお肉が入ったスープが出来上がっていた。


「朝の配給ができたよ! 今日のスープにはリルちゃんが獲ってきた魔物の肉が入っているよ!」

「リルちゃんがみんなにお世話になったからそのお礼にっていうことらしいよ!」


 女性たちがわざわざ声を上げて説明をしてくれた。ちょっと恥ずかしくなるけど、悪い気分にはならない。


「リルちゃんも何か一言いいな」

「えーっと、私がここまで来れたのは集落のみんながいてくれたお陰です。その恩返しにみんなにお腹いっぱいにお肉を食べてもらいたくてメルクボアという魔物を獲ってきました。美味しく食べてくれたら嬉しいです」


 私がここまでこれたのはみんながいてくれたお陰だ。その感謝を形にするためにメルクボアを狩ってきた。その思いを伝えると、周囲から拍手が沸き起こる。ところどころ声をかけられるからちょっと恥ずかしいな。


「配給をくばるから、列になって並びなよ」

「リルちゃんは先にお食べ」


 そう言ってスープの入ったお椀と芋を渡された。お椀はずっしりと重くて驚いてしまう。こんなに沢山のお肉が入っていて食べ応えがありそうだ。早速地面に座りスープに入っているお肉を頬張る。


「ん、美味しい」


 弾力のあるお肉で力を入れないと噛み切れない。中々に食べ応えのあるお肉で、食べてるっていう感じがして好きだ。噛むたびにジュワッとあふれ出る肉汁も美味しくて喉が鳴る。


 周りを見てみるとみんなお肉を頬張っていた。嬉しそうな顔をして、美味しそうに食べる姿は見ていて嬉しくなる瞬間だ。女衆も集まってお肉を頬張り、みんな美味しそうに食べている。


「お肉美味しいわね。食べ応えがあってジューシーで」

「リルちゃんが獲ってきたっていうんだから、凄いわねぇ。私たちにはそんなに強そうには見えないけど、なるほどねぇ」

「これだけの大物を仕留められるんだから強いのよ。小さいのにすごいわねぇ」


 褒められると照れてしまう。でも、本当に喜んでくれて良かったよ。ちっぽけな恩返しだったかもしれないけど、気持ちが伝わって良かった。この幸せの時を忘れないように、しっかりと目に焼き付けておく。

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