08
次の日の朝、ユキは冬の精のねぐらから出てきて、ナツが通りかかるのを待っていました。
冬の精のねぐらで休んでいたせいか、疲れ果てていた昨日に比べると、少しは元気になっていました。
それでも冬の間よりはずっと、体力は落ちていましたが。
ユキはしばらくそこで、ナツのことを探していましたが、ナツはなかなか見つかりません。
ここのところずっとナツと一緒にいたせいか、ひとりでいるのはとても心細いことでした。
どうしたんだろう、ナツ。
いつもの仕事場に行くのなら、絶対にここを通るはずなのに……。
けれど、結局その日は一日じゅう、ナツの姿を見かけることはありませんでした。
※※※
その次の日の朝も、ナツはユキの元にやってきませんでした。
どうして?
冬の精のねぐらの入り口に座りながら、ユキはナツの姿を探していました。
もしかして、わたしがあんなこと言ったからかな。
わたしはナツの手伝いもしてきたけど、夏のちからが使えるようになるまでは、迷惑ばかりかけてたんだ。
それなのに、あんな風に怒ってしまったから、ナツは愛想をつかしちゃったのかな。
体が弱っているせいか、後ろ向きな考えばかりが、ユキの心に浮かんできました。
森の奥できらりと輝く光を見つけたのは、そのときでした。
「あっ、ナツ!」
光の方向へ、ユキは急いで飛んでいきました。
やがて、夏の精の後姿が見えてくると、ユキはすっかり安心して、さっきまでの不安を忘れた声で呼びかけました。
「ナツ、昨日は何してたの? わたし、ずっと待って……」
ユキの言葉は、そこで途切れてしまいました。
ユキの声を聞いて振り返ったその夏の精は、ナツではなかったからです。
「ん? なんだい、あんた」
「……ごめんなさい。勘違いだったみたい」
ユキはぺこりと頭を下げて、雪の精のねぐらへ戻ろうとしました。
しかし、その前に、もう一度振り返ると、見知らぬ夏の精に声をかけました。
「ねえ、あなた、ナツっていう夏の精は知らない? わたし、ナツを探してるの」
夏の精は仕事をしながらも、首を横に振りました。
「知らねえな。だいたい、俺、今日からここらを任されるようになったばっかりで、ここらのこと自体あんまり知らないんだよ。その、ナツっていうやつの名前だってはじめて聞いたな」
「……え、このあたりって、ナツが任せられてたんじゃないの? 他の夏の精が仕事してるのみたことないし」
「ああ、じゃ、ナツってやつは前任者かな。俺、そいつの交代で来たんだからさ。ま、どうだか、よくは知らないけどさ」
「前任者?」
ユキがそう繰り返すと、夏の精はうなずきました。
「そ。今は俺。じゃ、もういいかい? いつもだけどさ、忙しいんだな、俺」
ユキはお礼をいって、遠ざかっていくその夏の精をながめました。
前任者?
交代?
ナツが?
「……じゃあ、ナツはもうここには来ないってことなの?」
ユキはそうつぶやいて、夏の精のねぐらの方向へ目をやりました。
※※※
ユキは冬の精のねぐらの中で、今にも飛び出したい気持ちをおさえながら、夜になるのをじっと待ちました。
そうして夜になると、夏の精たちがたくさん戻ってきているはずの、夏の精のねぐらに向かったのです。
いつものようににぎやかな声が、夏の精のねぐらの中から聞こえていました。
ひとりきりで夏の精のねぐらに入るのははじめてで、少し心細かったのですが、それでもユキは中へ足を踏み入れました。
ざわざわとした大広間の中、あちらこちらへ目を向けましたが、ナツの姿は見つかりません。
しばらくそこに立ってみましたが、ナツが声をかけてくることもありませんでした。
夏の精の中にいるユキの姿は目立つから、ナツにはすぐに見つけられるはずなのですが。
もう、いてもたってもいられず、ユキは大声をあげました。
「ナツ! ねえ、どこにいるの? ナツ!」
何度、そう叫んだことでしょう。
もちろん、ユキひとりぐらいの声では、夏の精全体の騒がしさの中には少しも響きませんでした。
「ユキちゃん」
そう、後ろから声をかけられたのは、ユキの声がかれかけたころのことでした。
ユキが振り返ると、そこには、前に一度、ナツと一緒に話したことのある夏の精たちが立っていました。
「あ、この間の……。ねえ、ナツは? ナツはどこにいったの?」
ユキのその問いかけに、そこにいた夏の精たちはみんな暗い顔をしました。
中にはお互い目を合わせて、首を横に振る夏の精もいました。
やがてひとりが、しずかな声でいいました。
「なあ、ユキちゃん、よく聞いてくれ。ナツはもう、ここにはいないんだ」
ユキは、突然心が冷たくなったような気がしました。
「なんで? どうして? ナツが何をしたっていうの?」
また、別の夏の精が口を開きました。
「ユキちゃん、俺たちはあんたが嫌いじゃない。いい子だと思ってる。だから、これからいう言葉を悪く取らないで欲しい。だけど、事実なんだ」
「……何がよ」
「ナツがここからいなくなったのは、あんたが原因なんだ」