05
「そうすれば、夏には消えないかもしれないじゃない」
そのときユキは、ナツにそう考えを伝えました。
「わたしが消えるのは冬の精だからかもしれない。夏なんだもの、夏の精になれれば消えるはずがないでしょう?」
「夏が終わる時にはどうするんだ?」
ナツがそう聞くと、ユキははっとした表情になりました。
考えていなかったのです。
「そのときは……じゃ、秋の精にもなる。冬が来るのを待つ」
その答えを聞いたナツは、呆れ顔でためいきをつきました。
けれども、ユキはまじめでした。
ともかく、そうして、ユキは夏の精としての生活をはじめたのです。
※※※
最初にユキがしたことは、毎日毎日、ナツのあとをおいかけて仕事をながめることでした。
妖精の仕事は、いつの季節も変わらないようでした。
妖精のもっている季節のちからを両手から出して、あたりに振りまくのです。
「ねえねえ、ナツ。それ、どうやってるの?」
たまにユキは、仕事のじゃまになることはわかっていても、ナツにそう聞いてみました。
ナツの両手から出ている暖かな光が、いったいどうすれば出せるのか、さっぱりわからなかったからです。
「……どうっていわれても」
「だって、わたしには出せない」
「そりゃそうだろう。お前、冬の精なんだから」
口を動かしながらもナツは、両手から光をはなっていました。
その両手を、うーん、とうなりながらユキは見つめつづけました。
仕事中は、ナツはあんまりユキとは話をしませんでした。
聞かれたことに答えることはあっても、ユキと話すことで仕事を中途半端にすることは出来ませんでしたから。
だから、えいっ、とか、そりゃ、とかいいながら、ナツのように両手をあたりに向けるまねをしているユキのことは、横目で見ているだけでした。
そのかわり、夜が来たあとは、ナツはユキとたくさんの話をしました。
ユキがナツの後をおいかけるようになって何日かがすぎると、ユキは夏の精のねぐらにまでやってくるようになったのです。
はじめてユキが夏の精のねぐらについてきたとき、ナツは少し心配そうにユキに聞きました。
「お前、本当にねぐらにくるのか?」
夏の精のねぐらには、これまで、夏の精しかいたことがなかったのです。
前に一度ユキが入ったことがありましたが、あれは長老をおとずれただけで、そこで夜をすごすのとはまた違うことでした。
「なんで? 悪いことじゃないでしょ。だいたいわたし、これから夏の精になるんだし。何の問題もないじゃない。ねっ?」
ユキは当然のようにそう答え、ナツはいつものように呆れた顔をしました。
実際にユキが夏の精のねぐらに入っても、最初に来たときと同じで、ユキのことを気にする夏の精はいませんでした。
夏の精じゃないものがいることはわかっても、みんなおしゃべりや遊びや休憩に夢中で、ユキがいようがいまいがどちらでもかまわなかったのです。
毎夜、夏の精のねぐらの中で、ふたりはいろんな話をしました。
ユキは夏や夏の精のことをたずね、ナツは冬や冬の精のことを質問しました。
「お前、雪を出すときはどういう風にしてるんだ? 今は雪、出ないのか」
「うん。それがね、出ないの。いつもはこう、力をこめれば、きらきらって出てくるんだけど。冬じゃないからかな」
そういうと、ナツが少し残念そうな顔をしたのを、ユキは見逃しませんでした。
「もしかして、雪、見たかった? ねえ、見てみたいんじゃない?」
ユキは自慢げにそういい、その顔をみたナツは少し口をとがらせました。
「……いや、雪を出すのも季節のちからを振りまいてるってことだろ。同じようにすれば、お前も夏のちからを使えるのかと思って」
「ああ、なるほど。ナツ、けっこう頭いいじゃん」
「そんなことない」
「ううん、ナツのいうとおりかもしれない。ま、それはそれとして、……本当は雪、見てみたかったんでしょ? そうでしょ?」
ナツが不機嫌な顔になり、ユキはますますニコニコとする、ふたりの会話はよくそういう風になるのでした。
そして、その他の話もふたりはしました。
それは、春や秋の話です。
「わたしが知っている秋は、秋の終わったばかりのころ。この森、今は緑でしょ? それが、全部茶色いの」
「俺の知っている春も、春が終わったばかりのころだ。今よりもっと緑が少ないけれど、夏にはない木の実があって、めずらしい花も咲いている」
「……ねえ、春や秋は、どんな風になってるんだろうね。気にならない?」
「ああ。お前と話していると、そんな風に思えてくる。冬だって、お前に聞くばかりで、俺はよく知らない」
「わたしは幸せかもしれない。夏を見ることが出来たんだから。かわりに、こんな風になっちゃったけどさ……」