7 打ち上げ ※ 藤嶋慎吾視点
「それでは。舞台の無事成功を祝って、かんぱ~い」
「「「かんぱ~い」」」
サラの音頭でチーンとお互いにグラスを合わせて今日の劇の成功をお互いに喜んだ。
劇が終わった後でちょっとしたレクリエーションをし、夕方になって集会場から啓一の実家に戻ってきた。
啓一のおばあさんが打ち上げという名目でちょっと豪華な夕ご飯を用意してくれていてここでお世話になっている俺たちに啓一の婚約者の沙耶香さんを加えた4人でテーブルを囲んでいる。
「それにしても疲れたな…………」
「慎吾、お疲れ」
隣に座る啓一がそう労ってくれた。
そう、事の起こりはこいつの劇の練習に付き合うことになったのが全ての始まりだった。
あの日、俺たちと一緒におやつを食べた妹の優が直ぐサラにメッセージを送ったらしい。
そのときこんなやり取りがあったそうだ。
『今うちに水無月先輩が遊びに来てる』
『へー、水無月くんが。久しぶりだね』
『水無月先輩、劇をするんだって。それでうちでその練習をしてる』
(あれ? 既読がついてるのに紗良ちゃんから返信がない)
『紗良ちゃん? おーい』
それから速攻でサラがうちに来て俺たちの戦いが始まったわけだ。
それでも啓一はまだいい。
役もチョイ役だったし。
問題は俺の方だ。
俺たちに代役として宛がわれた役は主役とヒロイン、浦島太郎と乙姫様だったのだ。
俺が浦島太郎を、サラが乙姫様をやることになったわけだがその日は夜遅くまでサラによる稽古という名のシゴキがあった。
そしてこっちに来るまでにあと2回ほどみっちりサラから指導を受けた。
今の俺は誰よりも浦島太郎を上手く演じる自信がある。
しかし、そんな俺から見ても同じ舞台で共演することになった紗良の演技には度肝を抜かれた。
俺はテーブルの向かいに座るそんな彼女にチラリと視線を送る。
その我が彼女はその隣に座る沙耶香さんとなにやら楽しそうに話をしている。
サラの練習にはこれまで何度も付き合ってきたがやはり本番になるとまさに段違いで同じ舞台の上に立っているにも拘らず、俺も他の観客と同様に紗良の演技に釘付けになってしまった。
お蔭で終わった後にサラから劇での反応がコンマ何秒遅かったなどと小言を言われてしまった。
それはもう仕方がないことだと思う。
正直、それくらいは許して欲しいところだ。
こうして俺たちはときどき相手を変えて話を変えて取り留めもない話を続けた。
「おっ、もう9時か。時間が経つのは早いな」
啓一が時計を見てそう言った。
まったく楽しい時間というのはあっという間に過ぎてしまう。
「それにしてもおばあさんには何か悪いな、俺たちが追い出してしまったみたいで」
「いや、それは気にしなくていいよ。ばあちゃんが自分から言い出したことだし」
この日の夕ご飯は沙耶香さんを呼ぶ一方で啓一のおばあさんは沙耶香さんの家に行くと言って出てしまった。沙耶香さんのおじいさんたちと一緒に飲むらしい。
俺たちが気兼ねなく騒げるようにということみたいだがなんだが申し訳ない。
「それにしても啓一、お前が沙耶香さんと婚約したのはやっぱり犯罪だと思うわ。執行猶予はない、お前も実刑だ」
「はっ? いきなりなんだよ」
「いやさ、まあ、千歩譲って女子高生と婚約。それは許そう」
「ああ……」
『しかし、こんなにレベルが高い娘というのは聞いてなかったぞ』
俺は啓一の耳元で小声でそう言った。
ここに来て最初に沙耶香さんと会って挨拶されたとき、正直びっくりした。
いや、勿論、我が彼女が世界で一番美人でかわいいのは不動な訳だがそれに勝るとも劣らないというのだろうか。
まあ、二人はタイプが違うのでそれぞれのタイプの最高峰というところだろう。
凄く美味しいラーメンと凄く美味しいうどんみたいな?
「いや、何度も言ってるけどお前にだけは言われたくないよ」
「でも今回のことでサラがちょっとアレなのはわかっただろ?」
「……否定はしない」
なかなか分かってくれるヤツはいないんだよな~。
どいつもこいつも『爆発しろっ』て言うやつばっかりでさ。
俺はお前なら共感してくれると信じていたぞ。
「まあ、お前もこれからだからな。女の子は段々と本性を露わにしてくるぞ。気付いたときにはもう手遅れだ、特にお前はもう逃げられんぞ」
「婚約してるからってことか? でも、慎吾だって今さらだろ。紗良さんが以前やったヤンデレ彼女の役みたいなことが現実にしかも身近に起こるのだけは勘弁だからな」
「ああ、あれか……」
以前にサラがドラマでやったヤンデレ彼女の役は放送後、あまりにも怖かったと泣き出す子供が続出したとかでその作品には後で年齢制限がついたらしい。
しかもR15どころかR18にするかで大分揉めたそうでビジネスの都合上最終的にはギリギリR15扱いで留まったと言われるいわくつきの作品だ。
というかなんでそんな配役をするんだろうか。
チャレンジャー過ぎる。
「慎ちゃん、私のこと何か言ってた?」
「……ああ、俺の彼女が世界で一番だって話さ」
突然、サラが話に割って入ってきた。
「うそっ、どうせ結婚は人生の墓場だとか言ってたんでしょう?」
「いや、そんなことは言ってないぞ。せいぜい女王様の下で働く働きアリだ」
啓一曰く俺は実刑らしい。
だとしてもせいぜい刑務所だ。
嫁さんが刑務官で『おらぁ、キリキリ働け~』と毎日言われて『ホイサ~』と言う関係だと言ってもいいかもしれない。
「だから私が養ってあげるって言ってるのに。意地を張るんだから」
「いや、だからといって男として譲れないところはある。やはりパートナーは対等でないとな」
俺としてはここはやはり譲れないところだ。
「何言ってるのよ。男が女に勝てるわけないでしょ?」
むむっ、いくら彼女とはいえ言ってもいいこととダメなことがあるぞ。
ここはガツンと言ってやらなければ。
「それならここは一つ勝負じゃな」
「うわっ、ばあちゃんっ!」
そんなところで登場したのが啓一のおばあさんだった。
どうやら飲み会が終わって帰ってきたようだ。
「ばあちゃん、早かったね」
「年寄りは夜が早いからの。それはそうと古今東西、お互いの言い分が真っ向から食い違ったときは勝負あるのみ。そして4人でする勝負となればもう決まっておる」
「勝負ですか? それは一体どんな?」
「麻雀じゃっ!」
おばあさんはサラの疑問に自信満々にそう答えた。
「「「「麻雀!?」」」」
俺たちの夜はまだまだ終わらない。
ダラダラしません
次話で勝負はあっさりつきます
ルールなどが分からなくても雰囲気で楽しめるようにするつもりです
次々話からイチャイチャエピローグモードに入ります




