5 リハーサル ※ 如月葵(沙耶香の友達)視点
皆さん初めまして。
わたしは如月葵、ど田舎もど田舎に住んでいる花も恥じらう高校2年生。
そんなわたしはこの地域でボランティアとして明日子供たち向けの演劇をすることになっています。
演劇のメンバーはわたしの友達である九曜沙耶香とその婚約者の水無月さん、あと近所に住む友達ということになっていました。
ところが先日、参加予定の二人がインフルエンザになってしまい演劇はやむを得ず中止という話になりかけたんだけど水無月さんのお友達二人が代役に名乗りを上げてくれたことで予定通り実施することになったんです。
そして今日、この地域の集会場で明日の本番に向けてのリハーサルをすることになったわけなんですが……
「えーっと、初めまして。藤嶋慎吾といいます。よろしくお願いします」
代役の一人目は少し年上の大学生のお兄さんでまあ、正直ふつーの方でした。
で、問題はもう1人の方。
「初めまして、藤嶋紗良です。演劇が得意なので参加させていただきました。よろしくね」
はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?
知ってる!
この人知ってるよ!
そう、あれだ!
この前ファッション雑誌の表紙になっていた人だ。
何だっけ?
そう、冬のめちゃモテコーデでどうとかいう特集のやつ!
はいはい、都会はいいね。田舎でそんなの着てたらめっちゃ浮くから、と思ってたアレを着ていた人だ。
ついでにこの前のドラマにも出てた。
というか、いつもテレビで見てますですハイ。
「紗良さんは女優をやっているそうなので今日は演技の指導をしてもらうことになりました」
サラっと沙耶香がこともなげに言う。
『ちょっと、どうなってるのよ! あれ、神女優の藤嶋紗良でしょ? 何でこんなところにいるのよっ!』
『さあ?』
さあじゃねー!
お前が連れてきたんだろうがっ!
これはあれか?
水無月さんちの謎の人脈か?
もうこの地域だけじゃなくて都会にまで広がってんのか?
そこに首をつっこむとこっちの身が危なくなるかもしれないのでほどほどにするけどさ。
っていうか演劇が得意ですってそんな昔ちょっとかじった趣味みたいな言い方おかしいだろっ!
プロでしょ?
それでお金もらってるんでしょ?
確かアカデミー賞で最優秀賞とったんじゃなかったっけ?
というかもうガチガチのガチじゃんかっ!
はぁ~、もう今日だけで1年分突っ込みを入れた気がするわ。
実は今日、沙耶香の婚約者の水無月さんにも初めて会ったんだけどもうそんなことがどうでもよくなるくらい全部持っていかれちゃったよ。
で、こともあろうにその神女優様から演技指導?
いやいやいや、ワタシオカネモッテナイデス。
ホントいくら払えばいいの?
あっ、分かった!
これ、テレビの企画だね?
それならそうと最初に言ってよね、だったらもっとオシャレして来たのに。
で、どこにカメラがあるのかな?
ディレクターさん? プロデューサーさん? に挨拶しなくていいのかな?
あー、あと、顔出しはNGでお願いします。
モザイク掛けてよねって、えっ、違うの?
プライベート?
ふ~ん、えっ、マジで?
「ということでまずは通しでやってみましょうか?」
紗良さんがそう言って仕切り始めたけどいったい誰がこの神女優様の稽古の仕切りに口を挟めるだろうか。
ということで明日の本番に向けてのリハーサルと言う名の稽古が始まった訳なんですが……
「慎ちゃん、何度言ったら分かるの? 違うって言ってるでしょ!」
「水無月くん、もっと演技は大きく! そんな手振りじゃ何やってるかわかんないわよ!」
ひエ~~~~、きっ、きびしぃ~~~。
私もいくつか指摘を受けたけど紗良さんに近い人ほどその指導は苛烈を極めている。
ところで慎吾さんと紗良さんって苗字が同じだからきっと姉弟だよね。
で、慎吾さんと水無月さんがお友達っていう関係だろうな、うん、きっとそうだ。
「うんうん、いい練習ができてるみたいだね」
いや、沙耶はナレーターだからそんな気楽なことを言ってるけど、こちとらとっくにいっぱいいっぱいなんだよ。
申し訳ないけど元々遊び半分の劇なのでセリフをかろうじて覚えたかな~ってくらいのその場のノリでなんとかごまかそうと思ってたのに何でよりにもよってこんなガチ稽古になってるの?
「じゃあ、如月さん。もう1回いくわよ」
「はい、喜んでっ!」
とほほ、小市民のわたしが神女優様にそんなこと言えるわけないじゃないの。
この日はみっちり神女優様の指導を受けることができました。




