3 サプライズ ※ 水無月啓一視点
俺の友達が劇の代役で来てくれるという話をばあちゃんにしたら『うちに泊まっていけばいい』と言ってくれた。
その話を慎吾にしたところ『それならお世話になるよ』ということで急遽二人をお客さんとして招くことになった。
出発の日までに俺はもう1度だけ紗良さんの指導を受けてついに実家に帰る日となった。
慎吾と紗良さんは『着いたら最寄り駅に迎えに来てくれればいいから』ということでカップル二人だけの水入らずイチャイチャ旅行をするらしい。
紗良さんは普通に周りにバレないのかと心配だが紗良さん曰く『他人に成りすます演技をするから大丈夫』などと常人である俺には理解できないことを言っていた。
まあ、本人が大丈夫というのなら大丈夫なんだろう。
そんなわけで俺は二人にわずかに先駆けて帰省することにした。
「啓一さん、お帰りなさい」
「サヤちゃん、ただいま」
実家であるばあちゃんちに着いてから手早く暮れの墓参りを済ませ、慎吾たちが駅に着くだろう時間の30分前にサヤちゃんがうちを訪ねてきた。
今回、慎吾たちがうちに来ることが決まってからサヤちゃんは俺と一緒に二人のお出迎えをしたいと言うので一緒に駅まで慎吾たちを迎えに行くことになったのだ。
「慎吾さんってどんな方ですか?」
駅に向かう途中、サヤちゃんがそう聞いてきた。
「う~ん、そうだな~。よくも悪くも普通のやつかな? ちょっと天然だったり抜けてたりすることもあるけどいいやつだよ」
「そうなんですね。啓一さんのお友達ですから悪い人ではないとは思ってましたけど」
類は友を呼ぶという言葉があるがそれは間違ってはいないと思う。
表面的にタイプが違って見えてもその根っこは同じだと思うことは度々ある。
俺たちはたわいもない話をしながら駅という名がついているだけの場所に着くと慎吾たちが乗る列車が着くのを待った。
「そういえば慎吾さんの彼女さんってなんていう方ですか? お名前を聞いていませんでした」
「あー、実は本名は俺も知らないんだ……」
「?」
「まあ、直ぐにわかるよ。ただ、サヤちゃんも知ってる人かも」
「???」
あと、二人が付き合っていることは周りには内緒にしておいてね、というとサヤちゃんは不思議そうな顔をしたものの「分かりました」と言った。
そんな会話をしているとガタンゴトンという音を響かせて列車がホームに入って来るのが見えた。
列車からはまず見知らぬ他の客が降りてきて足早に駅から去っていった。
そして最後に列車からゆっくり降りてきたのは見知った二人だった。
「おーい」
俺はそう言って手を上げてこっちだよと二人に知らせた。
二人は大きなキャリーバッグを持っていたので直ぐに分かった。
しかし、さすがに紗良さんはぱっと見『大女優藤嶋紗良』だとはまったく分からない。
変装のためなのか太い淵のメガネを掛けている。
化粧もいつもとはちょっと違うし髪型も弄っている、
いや、正直それは些細な違いだろう。
大それたことは言えないが存在感というかオーラがまったく違うのだ。
隣のにいる冴えないと言ったら怒られるかもしれないが慎吾とマッチした同じ空気というか存在感でまさにお似合いのカップルといった佇まいなのだ。
「遠いところようこそお越し下さいました。九曜沙耶香と申します」
二人とは初対面となるまずは出迎え側のサヤちゃんがそう言って姿勢良くお辞儀した。
「あー、えっと、俺の婚約者です」
俺がそう言って補足すると慎吾も紗良さんもポカンとした表情を浮かべた。
まさかいきなり俺の婚約者を紹介されるとは思っていなかったんだろう。
ぼーっとしている慎吾を紗良さんが肘打ちして慎吾がようやく口を開いた。
「はっ、初めまして。啓一、くんにはいつもお世話になってます。藤嶋慎吾です」
「初めまして、藤堂更紗です。先日は電話でごめんなさいね」
慎吾が『俺の彼女です』と小声で、しかしはっきりとサヤちゃんにそう伝えた。
「いえ、こちらこそ勘違いしてしまって……」
そういってサヤちゃんが紗良さんの顔を見る。
そして何を思ったのかふと首を傾げた。
「あの、失礼ですが以前にお会いしたことがあったでしょうか?」
「いえ、こちらに来るのは初めてですので会ったことはないと思いますよ」
紗良さんはそう言うがちょっと口元がニヤついている。
「サラ、周りに人もいないし先に教えておいた方がいいんじゃない?」
「えー、もうネタばらししちゃうの?」
「?」
二人のやり取りをサヤちゃんは不思議そうに見ている。
「沙耶香さんが見たのって多分こんな顔じゃないかしら」
紗良さんはメガネを外して髪を手櫛でサッと弄った。
そしてふっと力を抜いたかと思えば今度はさっきとは違うオーラを周囲に放つ。
俺がテレビで彼女を見るときに感じる超一流の大女優としてのオーラだ。
「あっ、ああっ!」
サヤちゃんも目の前の人物が誰かが分かったみたいだ。
サヤちゃんは口をパクパクさせて俺に視線を送ってきたので俺は一つ大きく頷いた。
「藤嶋紗良の名前で女優をやってるの。よろしくね」
紗良さんは一つ大きくウィンクした。
あー、なるほど。
これが本物の女優か。
オンとオフというのだろうか。
あまりの変わり様に正直俺も驚いた。
しかし、自分の傍に自分よりももっと驚いている人がいると冷静になれるということを聞いたことがあったが確かにその通りだ。
俺はまだ口をパクパクさせているサヤちゃんを眺めながらそう思った。
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