幼馴染勇者パーティーの神官は幼馴染達の願いの欠片だったようです。
僕の名はノリス。僕には大切な幼馴染が四人いる。
正義の心を持ちいつも陽気なアイン、勇敢で寡黙なゴラン、好奇心旺盛で頭が良いメイベル、優しくしっかり者のソフィア。
四人とはいつも一緒に過ごした。村長の息子のアインに付き合い、村を見回っては困っている人の手助けをしたり、
鍛冶師の息子のゴランに付き合い、親父さんが打った武器をテストするため魔物退治に向かったりもした。
隠遁した魔女の孫娘のメイベルにつき合わせられ魔道具や新魔法の実験をしたり、
神官の娘のソフィアは、僕が孤児だった関係で教会に引き取られ兄妹のような関係になり「兄さま、兄さま」と慕ってくれて面倒を見ていた。
いつも、一緒にいられると信じていた。でも、それは無理な事だと思い知らされた。
はじまりは選定の儀での事。
この世界では誰でも12歳になると、その人物にもっとも相応しい職業と現在のレベルが神より告げられる。
もちろん、告げられた職業になる必要などないが大抵の人は神より与えられた職業に付き生涯を終える。
その選定の儀でアインは勇者、ゴランは聖戦士、メイベルは賢者、ソフィアは聖女に選定された。
僕は何も告げられる事はなかった、そればかりかレベルさえもなかった。
四人は王都に召喚され、残った僕は育ててくれた養父である神官様が同情して見習い神官として修行することになった。
それから4年の歳月を経て、復活した魔王を討伐するため勇者アインと仲間達が旅立つ事となり、幾人の猛者達が同行を願い出たが
彼らが選んだのはよりにもよって村で見習いがとれ、神官となっていた僕だった。
村に現れ「行こう」と差し出された手を掴んでしまったのは皆の笑顔が昔と変わりなかったからだ。
何事にも中途半端で、レベルさえ不明な僕がパーティーに入るのは足手纏いではないかと悩んだ時期もあったけど、
あちこちでやらかしてしまう幼馴染達のフォローするのにいっぱいいっぱいですぐに忘れてしまった。
僕達の旅は苦難の連続だったけど、子供の頃に戻った気がして楽しかったのは内緒だ。
旅を続け、魔王城に近付くに連れてなにか大切な事を忘れている気がした。
それが何かなのが解ったのは魔王城の入り口に立った時だった、自分が何者かで何の為にいるのかを思い出したのは。
僕の役目はあと少しで終わる……
【勇者アインの会心の一撃により魔王は斃れた】
「やった! 魔王を倒したぞ!」
「おう!」
「まあ、ボク達に掛かればこんなもんだよね~」
「ようやく終わりましたね、兄さま。――兄さま、それ!?」
ソフィアが僕の姿に気付いたようだ、驚くよね? 僕の存在が消えていってるんだもの。
「どどど、どういうことだ!ノリス!!なんでそんな事に!!」
アイン、落ち着きなさい。今説明するから。
僕は元々人間ではなかった。僕は四人の願いの欠片、四人のこんな人がいて欲しいという願いから生まれた。
アインは最も信頼できる頼れる相棒を、ゴランは切磋琢磨できる好敵手を、メイベルは何でも分かり合えて楽しめる親友を、ソフィアは甘えられる兄を願い、僕が生まれた。
勇者と支える仲間たちに対しての女神の配慮。曲がらない様に、間違わないように、そして魔王を討伐するために動いてくれるように。
だから、僕には職業もレベルもなかった、人ではなくいずれ消え行く存在だから。今まで戦えていたのは君たちの成長に僕という存在が自動であわせた結果だ。
魔王を倒した今、勇者達に僕はもう必要ないということだ。
「そんな、そんな事って……おかしいぞ!」
アイン……
「これから凱旋して報酬を貰ったら、ノリスとゴランと三人でイケないお店に行って豪遊してから、別の店に向かってお姉ちゃん達とキャッキャウフフして――」
うん、やめようアイン。欲望に忠実だぞ? というか僕も行く事前提だったの? 神官なんだけど。
「――それからまた別の店に行ってピチピチのギャルとチュッチュして、いつの間にか朝になったら最初の店に行って非番だった娘と――」
君、そればっかだな!! どれだけ女の子と大人の遊びしたいんだよ!
いつも、陽気で僕たちを引っ張ってくれた君はどこにいったんだ!
今の君はイケない道に若者を誘うおっさんみたいだぞ!
君のそれをずっと聞いてたら時間が来て消滅してしまうから放置するぞ。
ゴラン、君はいつも勇敢だった。敵の前から一歩も引かず仲間を攻撃から守ってくれた、子供の頃からそうだったよね。
君にライバルと呼ばれて僕は嬉しかったよ。僕のは紛い物の力だったけど、君の力は真に君が努力をした賜物だ。僕は君がライバルとして誇らしい。
「ぐうううううごぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉ!!!!」
ゴラン、穴という穴から色んな汁が出てるぞ? ちょっと待ってくれ、失禁してない?
待って? 待って、待って待てって!!!!うおっ! 汚い!! ……危なかった。
泣いて突進してくるなよ! 透けてなかったらゴラン汁塗れで消えなくちゃいけなかっただろ!
壁にぶつかって失神してるけど、そのままでいてくれ。
メイベル、君の知識にはよく助けられたね。迷宮のリドルもあっさり解いてくれたし、罠もあっという間に解除してくれた。
一度、ダンジョン型の魔道トラップに一緒に吸い込まれた時は君がいなければ脱出できなかった。
子供の頃から好奇心が旺盛で魔道具や新魔法の実験をつき合わされて酷い目にあった事もあるけど、それ以上に君と実験する事が楽しかった。
「…………ブツブツ」
メイベル? あのどうしたの? ずっと、俯いて何か小声でブツブツ言ってるけど?
「コンナノオカシイダロナンデノリスガボクノマエカラキエルンダメガミカ?メガミガワルイノカ?ホロボサナイトダメカ?イッソノコトセカイヲホロボシテヤロウカフザケルナフザケルナボクノタイセツナ――」
あ、あの……メイベル? ちょっと、いやかなり怖いんですが。何か危ない事をしようとしてませんか?
……こ、これは僕の手には負えないな……他の人たち、後は頼んだ!
ソフィア、僕の大切な妹。君と過ごす時間が一番長かったね。子供の頃から僕のような存在を兄と慕ってくれて頼ってくれた。
僕はそれが嬉しかったんだ。受け入れて貰えたと実感できたから、この世界で一人ではないと実感できたから、僕の妹になってくれて、僕を兄にと望んでくれてありがとう。
君は何も言わずに笑顔で僕を見送ってくれるんだね、ありが――
「リザレクション」
【聖女ソフィアがリザレクションを使った! 魔王が復活した!!】
――へっ? あのソフィアさん? 今何をしたの? なんで魔王を復活……って魔王を復活ぅぅぅ!!!!
何やってんの、何やってんのぉぉぉぉ!! なんで魔王を復活させたの! 魔王だって放心してるよ! 今ワシ死んだよね? って顔してるよ!!
「初めのうちは兄さまに掛けようかと思ったのですが、肉体が消えてしまっては復活できるかわからなかったので。魔王ならば肉体はありますし、それに魔王がいれば兄さまは存在できるのでしょう?」
あっ、本当だ! 透けて消えかけてた肉体が元に戻ってる! ってそんな事で魔王復活しちゃったの!!
「そんな事、ではありません。兄さまと世界、どちらを取るかといえば兄さまです」
世界をとろうよぉぉぉぉぉぉぉ!! そこは世界をさあああぁぁぁ!!!!
「いやです」
プイッじゃないよプイッじゃ! 大体、リザレクションなんて奇跡いつ覚えたの!
「魔王を倒したときです」
さっきかぁ~! とんでもないタイミングで覚えちゃったよこの子、どうしよう魔王……。
アイン! もう一度、魔王を倒してくれ!
「――それから店で体験して吟味した女の子達を一堂に集めて宿屋を借り切って――」
まだ続けてたの!? もう止めて、君完全に性欲の権化じゃないか!!
話を聞いて魔王を倒してくれよ!!もういいよ! ゴランッ、は失神したままか。
メイベル! 魔
「イヤ」
最後まで話を聞こ?
念のため聞くけどソフィアは……駄目なんだよね?
「はい、勿論です」
あぁぁぁぁ、どうしよう魔王……本当にどうしよう…………
結局、魔王の処遇は隠居させて死んだ事にすることで決着した。魔王の説得はあの後に復活したアインとゴランの肉体言語による説得により解決した。
肉体言語というよりゴラン汁塗れのゴランに恐怖したらしい。
僕達は王国に凱旋を果たした。
王国の人々は魔王を倒した勇者パーティーを熱烈に歓迎し称え、勇者達が王国の要職に着くだろうと予想したが全員が生まれ故郷に帰る事を望み、村へと帰っていった。
アインは村に帰ると村長に就任した。
本来、彼の能力と肩書き、功績なら王女様とも婚約できたはずなのだが彼はやらかした。
凱旋パレード後の式典で報奨金を受け取った際、大声で「やったぞおおおお!! ノリス! ゴラン! お姉ちゃん達のいる店に行くぞおおおおおお!!」と叫んだ。
王様はおそらく報奨金授与後に婚約を打診しようとしていたのだろう、アインの言動に激しく動揺していた。
その後、何も言わずに勇者をスルーした事で王様も人の親なんだなと思った。
村長に就任した彼の手腕は素晴らしく、また魔王を倒した勇者の肩書きというのは絶大で村の開発や運営に周辺からちょっかいを掛けられる事も無くなり、順調な村落運営ができているそうだ。
それと、勇者と仲間たちが住み守っている村ということで移住者も増えているらしい。
ただ、彼は変わってしまった……悪い意味で。
「エッチなお姉ちゃんのいる店に行こうぜ!」と連日僕の元へ突撃してきてはソフィアとメイベルにボコボコにされている。
僕の代わりにメイベルの新魔法薬の実験台になり、女性になってしまうハプニングがあった際も僕の元へ突撃して「ノリス! 俺を愛棒で貫いてくれ!」といってボコボコにされていた。
すぐに同じ薬を飲まされ元に戻ったのけれど、副作用でたまに女性になってしまうようだ。
男性時は「俺と遊ぼう(お姉ちゃんのいる店で)ぜ! 相棒!!」とやってきて
女性時は「俺で遊ぼう(体で)ぜ! 愛棒!!」と叫んではボコボコにされている。
どうやら男性時には女性全体に向く性欲が、女性時には僕にしか向かないらしい。
副作用が早く消え去ることを切に願う。性欲は諦めた。
ゴランは親父さんの跡を継ぎ、鍛冶師になった。
彼もまた王国に狙われる一人だったけれど、ゴランが背中に背負っている長剣を愛しすぎていたせいで様々な勧誘話は無くなった。
アイリーンと名付けた長剣をとても大事にし、毎日話しかけ、鞘を服と言ってアイリーン専用の鞘を100以上持ち毎日換えている。
その光景を目の当たりにして皆が引いた形だ。ちなみにアイリーンは人化はしないし、人格も無いただの剣だ。
それからアイリーンと結婚式も挙げた。村の住人はゴランの事を分かっているから変とも思わずに結婚式に列席してきちんと祝っていた。
いや、単にお祭り好きだからかもしれないけど。勇者パーティーの結婚式だから盛大にやったし。
最近では、小さなナイフを打ってアイリーンとの間に産まれた娘と言い始めている。控えめに言って怖い……
メイベルは実は貴族令嬢だったらしく、魔王を打倒した彼女を取り込もうとした生家に呼ばれたけど数時間で戻ってきた。
何でも暇だから実家の一角で新魔法の実験して、爆破した為追い出されたらしい。
村に戻ってからは魔女のおばあさんがやっている雑貨屋を手伝いつつ、色々な物を開発している。
彼女の作った物は村の発展においても非常に役に立っているみたいだ。
よく教会に遊びに来てはソフィアとお茶を飲んだり、教会に突撃してきたアインを吹き飛ばしている。
最近は中々付き合えないけれど、時間が許すときはメイベルの実験に付き合っている。
彼女と実験するのは童心に帰れて楽しい時間だ。
ソフィアは最も勧誘の手が多かった。
王国の王子や貴族の男子からの求婚、教会関係、教国へ招聘も全て拒否して村に戻り教会でシスターをしている。
聖女は女神の愛し子であるため、無理強いできずにいるようだ。無理を押し通そうとすると天罰がくだるらしい。
村でシスターをする傍ら、色々と精力的に活動しているようで内容は知らないけれどソフィアが毎日楽しそうでなによりだ。
あとメイベルと何かの配分で揉めているみたいで、未だに決着はついてないらしい。
しっかりしてるのに僕には甘えん坊な所は変わってない。そろそろ兄離れして欲しいなぁ。
孤児院の子供達が僕の事をお兄ちゃんと呼ぶと無意識に威圧したり、一緒に寝ないと拗ねたりするのは勘弁して欲しい。
魔王は村で農家をやっている、今の名前はマオさんだ。
魔王はあのままで放置できない為、僕達の村で監視する形で住んでもらっている。
あとで聞いたのだがマオさんが隠居を受け入れたのは肉体言語でもゴラン汁のお蔭でもなく、
元々マオさんは穏健派の魔族だったけどなんでも数百年に一度行われるシステム?というので魔王に選ばれ仕方なく侵攻していたみたいで
一度アインに倒された折に、システムから外れて役目から降りれたらしい。
配下の方は本物のヤバイ奴らでポッと出の魔王の命令は聞いてもらえず大変だったとか。
農業を四苦八苦しながら続けて、孤児院の子供達に分けてくれている。
いや、もはや全部くれる。前に「マオじーじのお野菜おいしい!」と言われてから「孤児院の子供は全員ワシの孫!」と宣言して
遊びにもきてくれる。
ただ、子供達に暗黒魔法を教えないで欲しい! 鬼ごっこでシャドウバインドなんて闇の拘束魔法を使っているのをみて驚いたんだから!!
そして僕はこの村で神官をしている。
元々、選ばれた訳でもないから注目もされずにすんなり村に戻れた僕は、養父から教会を完全に任されて何とか頑張っている。
僕を育ててくれた養父に倣って、子供を育てるべく孤児院を運営したりもしている。
本当なら今頃消滅していた僕がこの場にいれることは今でも信じられない。幼馴染たちも同じようで必ず1日1回は僕に会いに来る。
――いつも、一緒にいられると信じていた。でも、それは無理な事だと思い知らされた――
無理だと思っていた事は無理じゃなかった。幼馴染の彼等はいつも一緒にいようとしてくれていた。
どんな時も……例え世界を騙すような事になっても。僕は彼らの幼馴染になれて良かったと心から思う。
彼等の願いから生まれた僕だから
これからも幼馴染のアイン、ゴラン、メイベル、ソフィアと一緒にいたい。
教会に続く扉を開けると大切な幼馴染達の顔がすぐに目に入った。
「おはようみんな! 今日も1日頑張ろう!!」
あれ? どうしたの皆? 驚いた顔をして。
「「「「ノリス(兄さま)が喋った!!」」」」
あっ! そういえば僕なんとなくで、ずっと念話で過ごしてたんだっけ。