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子供が出来たからって勝手に親にはなれない。  作者: うらの陽子
赤ちゃんが教えてくれたこと
7/7

アダルトチルドレンを認める

高原先生のカウンセリングを終えて、その日の夜、旦那と話をした。

夕食の食器をテーブルから流しに移動させ、テーブルの上を拭く。

旦那さんの飲みかけのビールはそのままにして、私はお茶を入れた。

薫を抱っこして、椅子に腰かけ、目の前に座る旦那の顔をまっすぐに見る。

「今日のカウンセリングで私アダルトチルドレンだって言われた」

旦那は私の顔を見ながら驚くでもなく頷く。

「驚かないの?」

私の問いに彼は淡々と話し始めた。

「何も驚かないよ。だいたい僕もアダルトチルドレンだし。アダルトチルドレンってアルコール依存症の家庭で育った子供っていうのが最初だからね、敬子ちゃんより僕の方がよっぽどアダルトチルドレンだし。なんたって、うちの親父知ってるでしょ、アル中だよ。昼間から酒飲んで、酒飲んだら母さんに手を挙げて、、、で、母さんも典型的なアル中の妻だから、、、共依存だよね。そんな中で育った子供がまともな大人になるわけないじゃん。アダルトチルドレンはだいたいアダルトチルドレンと結婚しちゃうんだよ。僕もそうだよ。ただ、うちの家庭よりは敬子ちゃんの家庭の方がまともだよね。」

私は旦那のそんな言葉に衝撃を受けていた。

旦那は自分もアダルトチルドレンだし、私がアダルトチルドレンなのは分かっていると言っているのだ。

「敬子ちゃんは教師だから、アダルトチルドレンが生まれる家庭を割と見てるんじゃないかな?機能不全家族の子供はアダルトチルドレンだからね。僕は依存症の患者さん多いから常識としてアダルトチルドレンの知識はあるよ。アダルトチルドレンって言っても病気じゃないし、治すとかそういうことじゃないでしょ。だから、カウンセリングでしっかり話を聞いてもらうの一番だよね。アダルトチルドレンの知識のあるカウンセラーさんにあたったんなら、とりあえず良かったんじゃない。」

旦那さんは精神科の看護師をしてる。

だから、カウンセリングに関しても色々と詳しかったりする。

アダルトチルドレンのことも詳しいらしい。

ただ、聞き捨てならない言葉があった。

「治らないの?}

私の質問にビックリした顔をして、旦那が「全くなに言ってんだ」という心の声を小さく漏らしながら返事をする。

「馬鹿なの?病気じゃないから、治るって概念はないでしょ。それに、アダルトチルドレンの人は生きづらさや人付き合いが苦手とか人との距離感がとれないとか音に敏感になるとか、そんな性質になるんだよ。それって性質でしょ?だから治しようがないじゃない。」

そこで言葉を切った旦那さん。目に力が入る。そして、大きく息を吸った後に続けた。

「もし、もしだよ、それを治すってそういうなら、それは詐欺だよ。敬子ちゃん騙されてるよ。」

私は、騙されているという旦那の言葉と旦那の声を反芻しながら、同時に高原先生の言葉を思い出す。

力強く「変われます」そう頷いてくれた。

私は変わりたい。

それに、私は少し変われたのだ。

今までなら、旦那の言葉に迎合して、高原先生を詐欺師呼ばわりしたかもしれない。

でも、今の私は前の私とは少し違うのだ。

「詐欺だとは思わないよ。確かに高原先生は変われますって言った。けど、、、」

私は、自分の言葉に自信が持てない。

だから、今までも旦那に反対されて、それでもそれを否定してまで何かを主張することはなかった。だけど、今、此処で引き下がるわけにはいかない。

「もし詐欺だとしても、私少しかわることができた!高原先生の言葉は嘘じゃないって信じられるよ。だから、このまま高原先生のところに通う。今日初めて否定されずに、正解のない私の本当の気持ちを聞いてもらったの。すっごく安心できた。だから、通う。直さんが言うようにアダルトチルドレンが治るって言うことはないのかもしれないけど、今の現状を変えることはできる。それは信じられるよ。」

さっきよりももっとビックリした顔をした旦那の顔が目に入った。

旦那の表情が柔らかく変化する。

その表情に私の方がビックリする。

初めてそんな柔らかい表情をされた気がした。

「本当になんか変わった、敬子ちゃん。僕が反対してそれでも何かやるって決意表明したの初めてなんじゃないかな。」

そう言って今度は本当に笑顔を向けられる。

私の心臓は大きく跳ねた。

ドクドクと心臓がなり、顔が紅潮する。

私は彼に未だに恋をしているのだ。

こんな顔をされたのは香を生んだ時以来かもしれない。

嬉しくて私の顔もみるみる崩れて破顔した。

私の変化に気付いて旦那は気まずそうに頭を掻いて、「変な顔」とつぶやいた。


この日、本当に初めてきちんと彼と話が出来た気がした。

私は確実に一歩を踏み出したのだ。

彼の言葉通りに、「治る」ことはないのかもしれない。

それでも、人は変われる。

自分はまだ「お父さん大嫌い」「お母さん大嫌い」も口にすることができないくらい「父母」の呪縛の中にいるけれど、いつかは「親の呪縛」から解き放たれる時が来る。


私は今「アダルトチルドレン」。

でも、いつかそれを終わらせる日が来る。

その日を信じて、ゆっくりと自分自身と向き合っていく。



ここで一部終了です。

読んで下さった方、ありがとうございます。


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