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サリアネルスの魔法譚  作者: 朝宮優里
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第一章  蒼の楽園物語

幻の楽園《蒼の楽園》。


そこは幻想的な理想郷だ。


静謐な雰囲気が漂う中、滝から流れ落ち湖となる透明な水。


川が流れる先にある湖の真ん中には、キラキラとガラスが反射して輝いている踊り場がある。


その近くには様々な宝石がちりばめられている白いブランコ。


楽園の周りには、大輪の青い薔薇が見事に咲き誇っている。


浅瀬に置いてある小舟も、サファイアやアクアマリンの宝石が散りばめられていて華麗だ。


楽園の奥には天蓋付きの淡い水色の寝台と、様々な色の宝石が付いている白い本棚が6つ並んでいる。


そして楽園の上部には蒼色の光が輝いているランプがあり、ささやかな光が下に降り注ぐ。


角錐状の天井から降り注ぐやさしい日差しは楽園全体を照らし、角柱状の下部分の周りのステンドグラスがその光を受けて輝く。


まさしく神秘的な蒼の世界。


その完璧なる美しい楽園に、淡青色の髪をした、シアンブルーの瞳の少女が青い花畑の丘に座りながら本を読んでいた。


その女の子はまるで神がこの世に降りてきたかのような美しさだった。


真珠のような艶やかな肌にすらりとした手足、黄金比な顔のパーツ配置、ふわりと広がるストレートロングの髪。


最早、人間とは思えないくらいだ。


少女が着ている膝丈の淡い青のドレスも相まって、妖精らしさも醸し出している。


そんな彼女と蒼の楽園は、女神様の加護を受けているかのように神秘的だった。


この世界だけ、時がゆっくりと流れていた。






そんな中、蒼の楽園に一人の少年が訪れる。


ライトシアンの髪に空色の瞳をした中世的な顔立ちだ。色白で細身の体型をしており、どことなく親しみやすい雰囲気を醸し出している。


その人は建物の奥から歩いてきて、白い天使像が左右に飾られている、荘厳な造りの扉の前で立ち止まった。


その少年は右耳にかかっている青いアクセサリーの宝石部分を右手で一度触ると、楽園に向かって話し始めた。


「サセナ、もうそろそろ時間だよ?」


不思議なアクセサリーの魔法で、蒼の楽園内に彼の声が響く。


その言葉で、楽園の主サセナが本から目を離し、顔を上げる。そして天使像がある扉から見える人物に気づき、満面の笑みを浮かべた。


少女は左手にある青いブレスレットに一度触れた後、来訪者に返事をする。


「ソア兄様、来てくれたの?」


不思議なブレスレットの魔法で、彼の耳にサセナの声が届く。


「うん。サセナは本を読み始めると止まらないから、迎えに来たんだよ」


ソア兄様と呼ばれた少年が苦笑いを浮かべる。


「そうなんだ…、ありがとう。今、そっちに行くね。」


サセナは丘の上に本を置き、ソアがいる扉の前まで駆け寄った。


二人は扉を挟んで向かい合わせに立つ。


「サセナは何の本を読んでいたの?」


ソアがサセナに話しかける。


「えっとね…『妖精たちのRequiem』という本を読んでいたの。」


サセナは少し思案した後、すぐにその題名をソアに伝える。


「そうなんだ。その本、僕も小さい頃に読んだよ。挿絵が美しくて物語もとても楽しかったから何度も読み返したよ。」


ソアは昔を思い出し、懐かしい顔をした。


「そうなの? 私も大好きなんだ! 作者のレリウス・ハーラ様の本はどれも物語の世界に引き込まれるような物語で、思いがけない展開だから。でもそれだけじゃなくて、ハーラ様がご自身で書かれている挿絵がとてもきれいで…」


サセナが綺麗な瞳を爛々と輝かせながら語り続ける。


小さい頃から変わっていない、本がとても大好きだと体現している可愛い姿に、ソアはくすっと笑った。


「サセナは本当にその本が好きなんだね。…そうだ、今度星の巡り合わせがよかったらハーラ様に会わせてあげるよ。」


ソアはサセナの為にある提案をした。


「えっ! 兄様はハーラ様と知り合いなの?」


サセナが驚いたように口に手を当てる。


「うん。きっとサセナも驚くと思うよ。」


ソアはレリウス・ハーラとの出会いを思い出し、悪戯っぽくサセナに笑いかける。


まさかハーラ様があの人だとは…。当時の僕はそれは驚いた。


しばらくあの人と平常心で話せなくなるくらい衝撃だった。


「ハーラ様とお会いできるかもしれないなんて、とても楽しみ!」


サセナは懐かしい顔をしたソアの様子に気づくことなく、嬉しそうに両手を組み合わせて喜んでいる。


ソアはその様子を見て、言って良かったな、と微笑ましい気持ちになった。


「それは良かった。早くハーラ様に会えるといいね。」


「うん! 楽しみにしている!」


サセナが満面の笑みでソアに笑いかける。


ソアも彼女の笑みにつられてにっこりと笑う。


ふと彼は左手につけてある時計を見た。


時計の針は彼が想像していた時よりも進んでいた。


「あ、そろそろ時間だ。早く行かないと遅れる!」


ソアが慌てたように言う。


サセナもその言葉に驚き、


「あれ?もうそんな時間なの? ソア兄様、少しだけ待ってて!私、すぐに支度するから!」


と言うと、本棚がある方向へ走っていき、空色の繊細な細工のネックレスを首にかけて戻ってきた。


「お待たせ!ソア兄様、行こう!」


サセナは少し息が上がりながらソアに話しかける。


「忘れ物はない?」


ソアがサセナに忘れ物がないか確認する。


「うん。全て持ったよ。」


サセナが頷く。


「じゃあ、行こっか。」


ソアが蒼の楽園に向けて左手を差し出す。


サセナは深呼吸をした後、ゆっくりと扉に向かって歩き始めた。


その歩みに合わせて、今まで一度も開いたことがなかった、荘厳な紋章が彫られた透明な扉が外側に開いていく。


サセナのシアンブルーの瞳はまっすぐに外の世界を見つめ、その歩みに合わせて美しい淡青色の髪がふわりと風に揺れる。


まるで神が初めて地上に降り立ったかのような神秘的な瞬間だ。


サセナは完全に開いた扉の間を静かに通り抜けていく。


そして天使像の間を歩き、ソアの手を取った。


ソアは重ねられたサセナの手を軽く握ると、サセナの瞳をまっすぐに見て微笑む。


サセナもソアにとても嬉しそうに微笑み返す。


互いに視線を合わせた後、二人は自然と歩き始めた。




こうして蒼の楽園の主は、騎士に手を引かれながら地上へと降り立ち、外の世界へ一歩踏み出した。


お読みいただきありがとうございます!


感想や改善点、質問などがありましたら、ぜひコメントをお願いします(*^^*)

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