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2:狂ったうんこ野郎でも愛してもらえますか?

「日本人の男性の三人に一人はそうだって言われてるから、別に気にしなくていいと思うなぁ」

「…………」

「…………」


 昼食時。

 所謂昼休みなわけだが、ここにきて水洗慈さんがおかしなことをぶっこんでくる。

 そしてこの憐みとも何ともつかない発言は一体誰に向けられたのか。


 俺と水洗慈さん、そして草井と皮被乃。

 ある意味でクラスで一番親しいメンツとの、いつもの昼食風景。

 俺は水洗慈さんと一緒に購買へ行き、パンを三つほど見繕って水洗慈さんは弁当を四つも買い込んでいた。


 一体誰がこんなに食うのか、って思うだろう。

 俺も最初はそう思っていた。

 しかしながら、彼女は生粋の大食いキャラ。

 

 確か初めて昼食を食った時、彼女が弁当を買えなくてしょんぼりしていたのだが、俺は運よく購買でパンを何個か調達することが出来た。

 水洗慈さんはパンを買うのにも苦労していて、何となくこの小さな女の子が昼飯も食えずに午後の授業をひもじい思いをしながら受ける光景を連想してしまった。

 

『良かったらこれ、食べてよ』


 自然に、言葉が出た。

 え、でも……とか言葉を濁しながらも目がキラキラしていて、遠慮したいのか迷わず手を伸ばしたいのか、と言った様子の彼女に俺はパンを二個ほど押し付け、颯爽とその場を立ち去った。

 その翌日くらいからだったか、水洗慈さんがやたら俺に話しかけてくる様になったのって。


 もっともパン二個程度で彼女の腹が満たされるわけもなく、午後の授業で轟雷のごとく腹の音が鳴り響いていて、周りからはクスクスと笑い声が聞こえたりしたものだったが。

 それを聞いて俺は、もう一つくらいあげたら良かった、なんて思った。


「ま、まぁ日本の男性がどうとかって話はいいとして……いつも思うけど水洗慈さんってその小さい体の何処に、そんなに入るわけ?」


 この話題は食事時にするものじゃない、そう判断したであろう草井が空気を読んで、水洗慈さんに話しかける。 

 半分落ち込み気味に見えた皮被乃だったが、草井の機転によって少しだけ顔色を元に戻している。


「んー……だって、お腹空くんだもん。それにここのお昼美味しいから」

「エンゲル係数凄そうよね、あんた……」

「ま、まぁほら……良く食べる女の子だって、可愛いもんじゃないか? 幸せそうに食べてるところとか」

「えっ?」

「うんこ、あんた……」


 何か失言でもしたんだろうか。

 思ったまま、取り繕わずに言っただけのつもりだった。

 しかし何故か水洗慈さんは顔を赤くしてもぐもぐしているし、皮被乃と草井は何やらニヤニヤしていて、不愉快極まりない。


 しかもどさくさに紛れてまたこのクサマンはうんこ呼ばわりしやがって。

 まぁ、俺もその辺気にはなっていた。

 結論から言えば、単によく食っていても太らないのであれば、答えは一つに決まってる。


 だが俺はそんなことを口にするほどデリカシーに欠けていないつもりではある。

 それに、彼女は低身長ながら出るところが出ているのだ。

 それは腹が出ている、ということではもちろんない。


 低身長ながら、おっぱいがでかい。

 尻もいい感じにでかい。

 腰がくびれている。


 んでもって顔が小さくて目がキラキラしてる。

 近くに行くとふわっといい匂いがする。

 食べてるところが超可愛い。


 何をどうしたら、こんな可愛い生き物が生まれてくるのか。

 そんなことを考えながら俺は、パンの包みを開ける。

 しかしその瞬間、頭に痛みが走った。


「っつぁ……」

「ど、どうしたの?」

「……いや、何でも……って、え?」


 大丈夫、とか呟きながらパンにかじりつこうとした時だった。

 俺の手に握られていたのはパンではなく……。


「のわああああああああああ!?」

「ちょ、ちょっとうんこ!?」

「うんこ言うな!!」


 叫びながら俺は、たまらず手に持っていたビニールに包まれているうんこを、床に投げる。

 その様子を見た水洗慈さんが、呆気にとられた顔をしている。


「な、何してるの、便べんくん……」

「その呼び方も遠慮してもらえると嬉しいな……」


 俺としては、普通に……いや、どう考えても普通じゃないんだけど、いきなり手の上にうんこがあったらそりゃびっくりするし、当然の反応だろうと思う。

 しかし周りの反応は違った。

 可哀想なものを見る様な目で見る者、頭おかしくなったのか、なんて呟いてる者。

 

 そして。


「何で……何で食べ物を! 無駄にするの!!」

「えっ……」

「お、おい落ち着けよお前ら……」


 皮被乃がさすがにまずいと思ったのか、俺と水洗慈さんを宥めにかかる。

 水洗慈さんは、食べ物を無駄にするなんて許せない……なんて呟いているが、俺からしたらうんこを食べ物と認識できるとかそっちの方がよっぽど、異常だろうと思った。


「いや、待ってよ……どうみてもこれ、うんこだろ!? 食事中にすみません、って感じではあるけど、うんこを食べ物扱い出来るとか、水洗慈さんの方がどうかしてるって!!」

「やめてよ!! どう見ても普通のパンじゃない!! 雲黒斎くん、どうしちゃったの!?」

「どうもしてねぇって!! あとフルに呼ぶな!!」


 俺もついつい熱くなってしまい、相手が水洗慈さんだというのに構わず怒鳴りつけてしまう。

 しかし水洗慈さんも、一歩も引かないという強い意志を瞳に宿している。

 そして俺は、気づいてしまった。


「お、お前ら……何食ってんだよ。箸でそんなもん掴んで、あまつさえ食ってるだと……?」

「は? どうしたんだよ、マジでお前……」

「うんこ、あんた頭の中までうんこになっちゃったの? 脳みその代わりにうんこでも詰め替えてもらった?」

「草井さん!! 何でそんなこと言うの!? 雲黒斎くんは、ちょっと疲れてるだけで……」


 もはや俺の目には、クラス中がうんこ食ってる、上級スカトロマスターにしか見えない。

 しかも水洗慈さんは、食べるときに可愛らしく口の周りにソースとかつけてたもんだから、今は口の周りにべったりうんこがくっついている。

 

「フォークでうんこ刺して食って、スプーンでうんこすくって食って……」

「ちょ、ちょっと!?」

「誰か、先生呼んで来い!」


 皮被乃が叫ぶのを聞いた俺は、そのまま意識を手放すことになった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「もうすぐ親御さんが来るって」

「…………」


 保健室のベッドに寝かされていた俺は、放課後になって目を覚ました。

 目を開けた時に目に入ったのは、俺たちの担任であるシリアナ先生。

 あの後俺は、皮被乃と駆け付けたシリアナ先生によって保健室へと運ばれたらしい。


 水洗慈さんは、あの後俺のパンを拾って、何故かカバンにしまったとか。

 そういえばおかしなものが見えたせいで、俺は昼飯も食いそびれたんだっけ。


「雲黒斎くん、君の口から何があったのかを聞かせてくれる?」

「…………」

「言いたくないのなら、無理にとは言わないけど」


 シリアナ先生は椅子を持ってきて、ベッドに腰かけている俺の前に座る。

 ぼんやりとした頭でシリアナ先生を見ていると、綺麗な人だなと改めて思う。

 それに教育熱心で生徒思いで。


 いい先生が担任になってくれたもんだと思う。

 だけど、こんなことを話したところでさすがの先生でも、信じられないだろうと思った。

 それどころか精神病院にでも入れられるんじゃないか。


「でもね、雲黒斎くん。水洗慈さんには、ちゃんと訳を話してお互いが納得できる様にしないとね。物凄く心配してたんだから」

「水洗慈さんが……?」


 あの時、俺が倒れたのを見て、水洗慈さんが一番取り乱していた。

 死んじゃったらどうしよう、とか縁起でもないことを叫びながら倒れた俺に泣き縋っていた、とか何とか何処まで本当の話なのかわからないが、何となく簡単に想像が出来た。


「でも、親が迎えに来るってことは……」

「君が嘘をついてるとか、そういうことは私は考えてない。だけど、念のため検査は受けた方がいいと思う。一回、異常はないって言われたのかもしれないけど、もしかしたら視神経とかにダメージがあったのかもしれないから」


 そういうことか。

 親に迎えに来させて、とりあえず病院で検査を受けてこいと。

 ってことは、病院で事情を話さないといけないってわけね。


 もうすぐ来る、ということはやっぱり俺もそろそろ出ておいた方がいいだろう。

 そう考えて俺はカバンを手に、先生に頭を下げて保健室を出る。

 夕暮れとも言える時間でもあることから、所々暗いしオレンジ色に染まっている。


 病院に行って帰る頃にはもう暗くなっているだろうか。

 そんなことを考えながら玄関を出た時だった。

 ヴォンヴォンと耳に響く、重低音のエンジン音。


「母さん……」

「あんた、倒れたんだって? 朝の件もあるし、ひとまず病院だ。後ろに乗りな」


 何と校庭でV-MAXを止め、俺にヘルメットを一つ投げながら笑いかけてきたのは、俺の母親だった。

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