Let’s play tag!
わや……わや……わや……わや……
「美香ちゃん、そっちに行ったよ!」
「うん! さゆりちゃんも早く逃げて―」
今はお昼休みの時間、今日はクラスの男子たちと鬼ごっこで遊んでるんだ。
いつもは男子に交じって遊ぶことなんてあんまりないんだけど、今日は特別なの。
なぜかって? それはね……
「うむ? 今度は彼奴が鬼か、まったくコロコロと変わりすぎだ!」
ヨミヤちゃんがやりたいって言ったから。
チャイムと同時に駆け出していく男子たちを見て、興味を持ったみたい。それで私とさゆりちゃんも一緒に遊ぶことになったんだ。
でもヨミヤちゃん、さっきから叫んでばっかりで全然逃げ回れてないよ。でも男子たちはヨミヤちゃんの可愛らしさに照れちゃって、全然タッチしようとしないね。
ヨミヤちゃん、なんだかちょっとだけズルなんじゃないかなと思っちゃうよ?
「くぅっ、なんという遊戯なのだコレは……戦略と戦術の織り成す激しい闘争とはまさにこのことよ!」
戦略と戦術の……? 今なんて言ったのヨミヤちゃん。鬼ごっこにそんな難しいものはないと思うよ。
あれれ? そういえば鬼は今どこにいるのかな?
「美香ちゃん、後ろから来てる!」
「もう遅いぜ、タッチ!」
ああっ、ヨミヤちゃんに気を取られていたら私がタッチされちゃったよ!
私が鬼になっちゃったよ、どうしようどうしよう?
でもそうだ、ヨミヤちゃんなら私でも簡単にタッチできるかな? よし、ヨミヤちゃんには悪いけどタッチしちゃおうっと。
「うむ? 美香よ、お主まさか鬼なのか!?」
「そうだよヨミヤちゃん! ほら、ターッチ!」
「うむああぁぁっ!」
やった! ヨミヤちゃん全然逃げないからすぐにタッチできたよ。叫び声はちょっと良く分からないけど、これでヨミヤちゃんが鬼だね。
さて、急いで逃げないと……って、おやや? ヨミヤちゃん全然追いかけて来ないよ、どうしたのかな?
「ヨミヤちゃん、今はヨミヤちゃんが鬼だから、誰かにタッチしないといけないんだよー」
「……嫌だの……」
「え?」
「嫌だと言ったのだ! 私は誰にもタッチはせぬ!!」
ええぇ!? 突然どうしちゃたのヨミヤちゃん?
「でも、鬼ごっこってそういう遊びだから、このままだとずっとヨミヤちゃんが鬼だよ?」
「私はそれでも構わぬ、元より鬼と呼ばれし我が身よ……」
言ってることが全然分からないよヨミヤちゃん。一体全体どうしちゃったっていうの?
「美香よ……私はのう、こうやって誰かに鬼という忌役を押し付け合うこの行いに深い悲しみを覚えておるのだよ」
「えぇ? でも鬼ごっこってそう言うルールなんだよ」
「それがいかんのだ! ルールに縛られ従うだけでは、よき行いが出来ぬこともあるのだ! ルールに従うのではなく、己の心、そして信念に従うべきなのだ! なぜそれが分からぬぅぅっ」
いやいやヨミヤちゃん、鬼ごっこってただの遊びだよ。何もそんなに難しく考える必要はないんだよ。
「なあ、ヨミヤちゃん……」
ほらほら、男子たちも集まってきちゃったよ。皆鬼ごっこの続きがしたいんだよきっと。
「ヨミヤちゃん、俺達が間違ってたぜ! ヨミヤちゃんが正しい、そうだろう皆!」
「ああ、ヨミヤちゃんの言う通り、信念に従うべきなんだ!」
「そうだ、ルールに縛られてちゃダメだってことに気付けたぜ!」
ええぇーー!? 嘘でしょ皆! どうしてそうなっちゃうの? ただの鬼ごっこだよ、何で皆そんなにスッキリした顔で空を眺めてるの?
「皆、ただの鬼ごっこなんだから何もそこまで……」
「美香よ、私は悲しいぞ……お主はその心まで鬼と化してしまったのか?」
そんな難しい話じゃないんだってば、あと私の心は鬼じゃありません!
「おいおい、城戸崎も考えを改めろよな。間違ってたのは俺達なんだぜ……」
もうっ、そんな優しい目で言われても困るよ!
これじゃ遊びにならないんだよ?
あれれ? ちょっと待ってよ。
そもそもヨミヤちゃんが、鬼ごっこがしたかったんじゃないの?
あれれー?
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