大事な、お・は・し・も
ジリリリリリリリッ!!
わあ! ビックリしたよ。
この音、わかっていてもドキッとしちゃうよね。
「では皆さん、あわてずに非難しましょうね」
そう、今日は避難訓練の日なの。でも何時から訓練がはじまるか知らされていなかったから、ずっとドキドキしちゃってたよ。
もしも火事や地震がおきた時にちゃんと避難できるように、しっかり訓練しておかないとね。
「避難訓練は "お・は・し・も" が大事です、しっかり守って非難しましょうね」
「「「「はーい!」」」」
そうそう、先生のいう通り "お・は・し・も" がとっても大事だよね。
"お" は、押さない
"は" は、走らない
"し" は、しゃべらない
"も" は、戻らない
これをしっかり守らないと、逃げ遅れちゃったりするかもしれないもんね。
よし、あわてずに非難を開始しよう。
「のう、美香よ」
「……」
ヨミヤちゃん、しゃべらない、だよ。
「美香よ、聞こえておらぬのか? ああ、このけたたましい音が邪魔をしておるのだな」
しゃべっちゃダメ、しゃべっちゃダメ。
「うむ、この訓練は一体どういう意図があって行われておるのかのう? 緊急事態の想定にしてはどうものう……」
ヨミヤちゃん。それは朝、先生が説明してくれていたよ、聞いていなかったのかな?
「うーむ……緊急事態の想定にしては随分のんびりしておるしのう……おいそこのお主、もっと早く進むのだよ」
ちょっとヨミヤちゃん、突然前の男子の背中を押しちゃって。押さない、はどうしちゃったの?
ほらほら、押された男子も困っちゃってるよ。
「おや、前が少し開いてきたのう。美香よ、今のうちに急ぐのだ!」
本当だ、少し開いてきたね。かといって走り出しちゃうだなんて!
ダメだってばヨミヤちゃん、避難訓練は走っちゃダメなんだよ!
「美香よ、どうしたのだ? なぜ先を急がぬ? 今日はまったく口を開かぬしのう」
ああ、言いたい! けどしゃべっちゃダメだから言えない!!
どうしたら良いのぉ。
「そうか、もしや……」
おやや? ヨミヤちゃん、もしかして間違ってることに気付いてくれたの?
「お主、何か忘れ物をしたな? それが気になっておるのだろう」
違う違う、違うよヨミヤちゃん。
「それならそうと早く言うのだよ。どれ、私が取ってきてやろうかの」
待ってヨミヤちゃん! 忘れ物はしてないよ、戻ってもダメなんだよ。
「美香はそこにおるのだよ、すぐに戻るからのう!」
ああもう、我慢できない!
「ヨミヤちゃん、"お・は・し・も" だよ!」
「そうか、箸を忘れたのか、任せておくのだよ」
「違ーう!!」
何てことなの、全然話が通じないよ。
避難訓練なのに、やっちゃダメなことばかりやっちゃってるよ。
そうこうしている間に、ヨミヤちゃんあっという間に戻ってきちゃったよ。
「美香よ、お主の箸なのだよ、さあ受け取ると良い」
「うん……ありがとう……」
「さあ! 早く撤退をしようではないか!!」
「うん……そうだね……」
何て良い笑顔なのヨミヤちゃん、何だか怒る気にもなれないよ。
大事な、お・は・し・も。コンプリートしちゃったね、ヨミヤちゃん。
ここまで読んで下さりありがとうございました。次話もよろしくお願いします。




