短編小説 心の病(前編)
「人生に疲れた」
私は親戚が眠る墓に対して独り言を言う。
「相談できる相手もいなくて・・・・・・ 」
周りの人間がみたらきっとおかしい奴だと思うだろう。
「生きることがいやになってしまいました」
そんなことは分かっているが、言葉に出てしまうほど、追い詰められていたのである。
しばらくして、私は墓の前でお祈りをして、アパートに戻った。
そして、アパートに戻って何をしているかというと、どうしたら楽に死ねるか、ノートに書き出していた。
----ノート----
毒による自殺
首つり自殺
海に飛び込んで自殺
以下省略
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実際に書き出してみたが、実行することは難しいと思われた。
それから私が、自殺した後にその死体を処理する仲間の気持ちを考えなければならなかった。
その結果、海に飛び込んで静かに自殺することが望ましいと思われた。
早速、実行したいところであったが、私が今までお世話になった島の人たちにお別れを言わなければならないと思った。
次の日、私は暗い顔をして、この島の北にある旧道を歩いていた。
旧道であるならば、人とあまり会わないので、気楽であった。
今日の予定は、島の全てのお世話になった人たちに感謝の意を示すことである。
私は、周りの人に自殺しようということを気づかれないように明るく振る舞おうと思っているが、できない気がする。
私はしばらく歩いて、今まで働いていた市役所へ行った。
私はつくり笑顔を無理矢理つくり市役所の中へ入った。
「おお、君か。最近、姿が見えなくて心配していたよ」
大熊は、私に気がつくと、にこやかに声を掛けてくれた。
「どうも! 」
私は元気な声で、返事をしたのであった。
「君が市役所をやめると、きいたとき驚いたよ」
「驚かせてしまい申し訳ありませんでした」
私は丁寧にお辞儀をした。
「誰しもやりたいことを、はじめから分かっている人なんていないさ。若いうちは、悩んで苦しんだほうが、後の人生が楽しくなるかもな」
大熊は、厳しいが、重みのある言葉を言った。
「そうですか、勉強になります」
私は、常備しているメモ帳に名言を書いた。
「ところで、何かあったのかね」
大熊は鋭い質問をしてきた。
「別に・・・・・・ 」
「私は君の両親ではない。しかし、長い間つきあってきて、君がどんな人間か知っている」
私は次の言葉が出なかった。
「君は何事においても真面目だが、不器用で失敗してしまうことが多い。しかし、私はそんな君が好きだ。そして君は何か悩んでいることがあると我を忘れて、何かを求めるように、必ず私に会いに来る」
大熊は、そう言い私をみた。
「本当に君は悩んでいることはないのかね?」
私はうつむいたまま黙り込んでしまった。
この続きは、後編で読んでください。
終わり