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第16話・困惑、当惑、それ迷惑

 それは誕生日の話題から始まった、と思う。



 「センパイって確か誕生日今月でしたよね?」


 …秋埜に教えた覚えないんだけど、顔合わせする前から知ってたからなあ、この子。


 「盛大にお祝いしてあげますからね?」

 「そう言ってくれるのは予想してたけど、逆に秋埜の誕生日っていつなの?」

 「四月二十日っす。ちょうどセンパイの七ヶ月前っすねー」

 「それは七ヶ月前じゃなくて、五ヶ月後、って言うんだと思う」


 センパイこまかー、と少し呆れた様子。

 だってね。そこで先輩後輩決まるんだから、最近圧倒されてる身としては重要じゃない。


 「ちなみにもっちーはうちと三日違いの、四月二十三日だったりします。来年はまとめてお祝いしてくださいねー?」

 「一週間お弁当作るのでもいい?」

 「別にいーですけど、最終日だからって手は抜かないでください」


 …わたしはうなだれて手元の炒飯弁当をじっと見る。

 例の、動物園で秋埜を置き去りにした件のお詫びということで、今週は月曜から金曜まで秋埜に手作り弁当を提供していた。

 けど、主婦業を舐めていたわたしは毎日違う弁当を作る、という難行に絶えきれず、最終日の今日はとーとー全品冷食、という体たらくになってしまっていたのだ。

 ちなみに主食が炒飯。当然、冷食を温めただけ。いーじゃない、美味しいんだから。


 「…で、誕生日の話に戻るんすけど」

 「うん」


 プラスチックのスプーンを口にくわえながら、秋埜が言う。お行儀悪いよ。


 「センパイの誕生日の五ヶ月後にうちが同い年になるなら、センパイってうちと同い年の時間の方が、年上の時間より長いってことになるっすよね」

 「うん。それで?」

 「…同い年の間だけ、麟ちゃん、って呼んでもいーすか?」

 「調子にのんな」


 秋埜にチョップ。


 最近この子、距離の詰め方が先輩後輩の間を越えてきてて、ちょっと困る。友だちとしては普通なんだけど、同じ学校に通ってる間くらいは線をちゃんと引いておいて欲しいんだけど。


 「大体ね、その理屈で言うと秋埜がわたしより年上になるなんてことあり得ないんだから、結局秋埜はわたしの後輩。わたしは秋埜の先輩。何か問題ある?」

 「うー、問題は別に無いんすけど…こう、麟子センパイを年下のように愛でてみたいなーって、思う自由くらいあってもいーじゃないすか」

 「思うのは勝手だけどねー…もう好きにしてよ」

 「うい、好きにします。えーとですね、まず考えたのはー…」


 許可、というか放置に徹したのをいいことに、妄想をまくしたて始める秋埜だった。

 もういい加減、中庭でのお昼ご飯が辛くなってきたから、この時期になるとお昼休みに解放される小講堂で食べてたんだけど、他に人目もある場所であんまり無茶苦茶言わないで欲しい。ただでさえ、わたしの場合取り巻く目が少なくないんだから。


 …秋埜がイヤだって言うから、あんまり男の子に色目…って言葉が悪いなあ。えと、かわいく振る舞うような真似止めてからそっち方面の声が減ったかというと、全然そんなことは無かった。

 むしろ、逆…いや、回数こそ激減したんだけど、なんか男の子の側の見る目が変わったとゆーか、なんか記念にコクっとけ、みたいなノリじゃなくって、結構本気っぽい雰囲気になってきたというか…。

 なのでわたしとしては、ちょっと気を持たせつつ本気にならないようにする、って態度がとれなくなって、定番の「気になってる人がいるんです」というのを使わざるを得なくなり、その結果妙な噂が流れている、らしいのだ。

 らしい、っていうのは星野さんに聞いたからなんだけど。


 「…で、長い眠りから覚めた麟子センパイの前で言うんです。『お姫様、長い眠りの間に私の方が、年上になってしまいましたよ』って。そしたらセンパイは恥じらいつつも小さい声で、『…はい』って言うんです!…どーすか?」

 「どーすか、じゃないわよ。大体秋埜のせいで最近わたしに変な噂が流れてるんだから、ちょっとは責任感じたらどーなの」

 「変な噂?」

 「…あー、まあその、わたしの思い人が秋埜なんじゃないか、って話」

 「詳しく!」


 食いつかれた。言うんじゃなかった。

 なんかもう、全部聞くまで駄々でもこねそうな勢いだったので、仕方なくざっと説明したのだけど…。


 「…そーすかー…麟子センパイの好きなひとって、うちだったんですかー…」


 いや、そーいう噂、ってだけだから。そもそもなんで照れるの。


 「…せんぱぁい?うち、責任とっても…いーすよ?」

 「間に合ってます」


 なんだか面倒くさくなってしまった。甘えるよーに下からのぞき込んでくる秋埜はかわいかったけど。

 それにしても。


 「…わたしの噂なんだから、とっくに秋埜の耳に入っててもおかしくないと思ったんだけどな」

 「やだなー、センパイ。本人目の前にしてるのに、今さら噂なんか聞いたってしょーがないじゃないですか」


 それもそうか。つくづく、再会前に何をやってたんだか、この子も。




 そのあとしばらくは、秋埜創作の、わたしがお姫様、秋埜が王子様、なんて今し方の話題のことを思うと結構際どい与太話(よたばなし)で盛り上がった。


 「…あ、王子様とお姫様、で聞きたいことがあったんだけど」

 「なんすか?」


 そしてもうすぐ予鈴も鳴ろうか、という時間になった頃、わたしはふと思い出したことがあって、そのことについて尋ねてみた。


 「こないだ秋埜の家に担ぎ込まれた時、わたし何か寝言…うわごと?みたいなこと、言ってなかった?」

 目が覚めた時は忘れてたんだけど、後になってやけにハッキリした風に思い出したら、その時のお姫さまとの会話に妙な現実味があったのだ。

 「……………言ってなかったっすよ?」


 たっぷり間をとった後に目を逸らして言われてもねー。

 まあどこまで口走ってたのか分かんないし、今それを問い詰めたとこで何か分かるわけでも、何かが変わるわけでもないのだろうし。


 「そっか。じゃ、そろそろ戻ろっか」

 「…センパイ、食いつき悪いっすね」


 誘い受けか。


 「そこまで気になることでもないしね…って、なんでそこでむくれるのよ」

 「べーつーにぃー?」


 秋埜は弁当箱をいつもよりいくらか乱雑な手付きで片付けると、ハンカチに包まれたそれをわたしに渡して言う。


 「はい。どーもごちそーさまでした。来週はうちが作りましょーか?」

 「無理しなくていーよ。大変でしょ?」


 本音のトコは、わたしより冷食の比率が低い弁当作ってこられて先輩としての矜持が傷つきそうだったからなんだけど。

 でも、それでちょっと寂しそうにされてしまうと、その、変な見栄はったみたいで、後ろめたくなるような…もー、しょうがない。


 「…無理しないでね。結構大変なんだから」

 「はい!作る前の日には予告しますねー」


 言い方一つで受け取り方って変わるんだなあ…気をつけないとね。

 と、反省するわたしなのだった。

 でもおかげで、秋埜と気まずくなったまま週末を迎えることもなくなったのだけどね。



 ・・・・・



 そしてまあ、わたしの誕生日、となると毎年恒例の行事みたくなっていて。


 『今年はアップルパイに挑戦しようって思うんだけれど』

 「あのー、緒妻さん。受験生って立場忘れてません?」

 『ケーキ作るくらいで勉強が滞るほど余裕のない受験生じゃないけど?』


 そういえば自分の高校受験の年にも、このひとこーやってわたしの誕生日にケーキ作ってくれたんだっけ。


 『まあでも、お麟ちゃんの誕生日当日は模試が入ってて、その日に、ってわけにいかないのよ。一週間くらい前倒しになっちゃうんだけれど、いいかな』

 「お祝いしてくれるだけで十分ですって。あ、そういえば秋埜もお祝いしてくれるって言ってたから、ケーキ作ってくれる日に一緒に集まりません?」

 『それはいい考えね。夜なら大智も来られると思うし』


 チクリ。


 緒妻さんの口から出たその名前が、わたしを微かに苛む。

 他の誰かとの話題に出たのならそんなこともないのかもしれないけれど、緒妻さんとの間で聞くその名は、何故かわたしの胸をざわつかせる。

 …だめだってば、わたし。

 何がダメなのか、考える間もなく、努めて軽く、声を出す。


 「部活終わって直に来られると、せっかくのケーキも全部大智のお腹に収まっちゃいそうですけどね」

 『ふふ、だったら部活の後に何か食べさせてから来た方がいいかもね』


 ほんとーにこのひとは、大智のことになると楽しそうに話すなあ。

 わたしのこんな混乱を、知ってか知らずか、電話口からでもしあわせなのが分かりそうな口振りで、いる。


 『…それでね、ちょっとはお料理も用意出来たらなー、って思ったんだけど、そこまでは手が回らないかもしれないから、秋埜ちゃんにも手伝って……お麟ちゃん?』

 「え…?」


 話の内容なんか、とっくに大智のことからは外れている。

 でも、わたしの頭の中ってばずっとどこかでそのことが引っかかっていて、緒妻さんは心からわたしの誕生日を祝ってくれようとしている、のに。


 『どうしたの?泣いてる?』

 「そ…んなこと、ないです…よ」


 …わたしは、鼻づまりみたいな情けない声で、自分のスマホを握っていた。


 「わたし、ちょっと嬉しくて…」


 悔しくて…。


 「緒妻さんが毎年お祝いしてくれるのが、ほんとうに楽しくて…」


 緒妻さんがずっと大智と一緒にいるのが、ほんとうに羨ましくて…。


 「感極まって、ちょっと感動してたんです…」


 もう自分でもどうしていいのか分かんなくって、泣いてたんです…。



 ごめんなさい、緒妻さん。

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