平和と薄毛
昼休みはいつも吉田と同僚の田中は近くの公園で昼食をとる。
二人の会話はいつも田中の愚痴から始まる。
「たぶんあの課長は自分の頭も定例会議も不毛なことに気づいていないんだ」
「俺ならあんな頭で外を歩くなんて無理だね」
「笑ってやるなよ、お前もいつかは通る道だぞ」
「俺は将来禿げない、それにしても今日の大事な二時間を消費して決まったのは机の整頓を呼びかけるポスター製作だけだぞ」
「見える化は大事だが何でも見えりゃいいってもんじゃないだろ」
そんなことをグダグダと話しているといつもどおりの時間に鳩じいがやってくる。
鳩じいはいつもこの時間に公園に来ては鳩に餌をあげる爺さんで私達は勝手に鳩じいと呼んでいる。
「だいたい見える化なんて本当に効果あるのかよ」
「例えばあの鳩なんて見える化の象徴じゃないか」
「鳩を平和の象徴と勝手に決めて増やすことで確かな平和の拡大が感じられるだろ」
「俺は鳩から平和を感じたことないけどな」
「それに鳩は俺に糞しかくれない、カラスの方がよほど人間思いだな」
「カラスこそ何もしてくれないだろ、ゴミなんかも荒らすしむしろ害鳥まである」
「カラスは人間に警鐘を鳴らしてくれてるんだよ、ゴミを荒らす存在がいるから初めてゴミをきれいにまとめるってのが人間ってもんだ」
「カラスは鳩と違って嫌われ役を買って出てくれているだよ」
「あと少し品行方正ならカラスが平和の象徴だったかもな」
「あとあの色がもっと明るい色だったらな」
田中と吉田は昼食を終え会社に帰っていく。
それに続いて鳩じいもいなくなる。
少しすると遠くからカラスが飛んできた。
「お前ら鳩は何もせずして人から餌を貰えるから生きるの楽そうだよな」
「それはカラスに愛嬌がないからだよ、八方美人とまではいかなくてもニ三方には美人ヅラすればいいのに」
「そうやって媚売るのはかっこ悪いだろ、まあそういうのは鳩にはわかんねーかもしれないけどな」
「俺も誰かに自分の存在を理解して貰いたいな」
そういってカラスは飛んでいった。
カラスは分かっていない、真に理解されないのは日頃からいい顔しながら生活して他人から勝手に役割を決められている鳩の方だってことに。
「お父さん、いい加減髪くらい整えたらどうですか」
「言っては何ですがあなただいぶ髪が薄くなってきましたよ」
「課長って立場もあるんですから身だしなみくらいしっかりしてください」
「わかってるよ、でもこれは部長へのアピールなんだ」
「今やってることの不毛さの見える化だよ」