08 逃亡と後悔
1
「はぁ…」
夕陽に染まる公園のブランコに腰掛けながら、僕は一人ため息を吐いた。
キィキィと鳴るブランコは、まるで僕を責め立てているようだ…。
…僕は後悔しているのだろうか―――
『最後の…手段?』
『はい。出来れば使わずに済めばよかったのですが…致し方ありません。』
…でも、さすがに彼女の「頼み」は聞いてあげられなかった―――
『―――ということです。もちろん、颯太にはなるべく迷惑をかけないように努力します。』
『そ、そっか…。あはは…』
…ただ、どうせ断るのならハッキリと口で言えばよかった―――
『颯太、本当にごちそうさまでした。ファミレスのオムライスがあんなに美味しいものだとは知りませんでした。またいつか食べてみたいです。』
『う、うん。そうだね』
『では参りましょう。颯太、まずは荷物を取りに―――』
『ごめん、すももちゃん! 本当にごめんッ!』
…何もあんな風に逃げ出さなくてもよかったんだ―――
2
「はぁ…」
これで何度目のため息だろう…。
最後に見た、楽しそうな、幸せそうな、すももちゃんの顔が目に浮かぶ。
最初はずっと仏頂面だったけど、ファミレスを出る頃にはだいぶ柔らかな表情を見せてくれるようになっていた。ちゃんと話して説得していれば、きっとあんな別れ方をしないで済んだだろう…。
もしかしたら友達くらいにはなれたかもしれない。
「はは…」
乾いた笑いが自然と漏れた。
僕はどうやら、すっかり彼女に情が移っていたらしい。
「あの短時間でここまで絆されているようじゃ、詐欺を警戒するどころじゃないな…」
「詐欺? 詐欺がどうかしたの?」
突然、背後から声がして、すももちゃんかと思って振り向いた僕の目に映ったのは、
「なんだ…芹沢さんか」
「ちょっと颯太ぁ? 「なんだ」ってことはないでしょーよ」
「あ、ごめん。つい…」
「まぁ、いいわ」と呟きながら、芹沢さんは隣のブランコに腰を下ろした。
「リストラされたサラリーマンみたいな颯太の後ろ姿が見えたから脅かしてやろうと思ったのに、思わず声かけちゃったじゃない…」
「あ、あはは…」
「―――で? 何かあったの?」
「…別に大したことじゃないんだ」
「その割にはめちゃくちゃテンション低いじゃんか。明日からまた連休なんだし、アゲてこーよ。…ね? いいから、おねーさんに話してみ?」
口調は軽いけど、僕に向けられた彼女の真剣な眼差しは夕陽にも負けないくらい綺麗だった。
こうなったら梃子でも動かないのが芹沢さんだ。
話を聞いてもらうしかない。
「実は―――」