06 『長谷川すもも』
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いの一番にパフェのイチゴにかぶりついた目の前の少女が「死神」だなんて、もちろん、まったく信じていない。
でもここでそれを問答しても意味はないだろう…。おそらく彼女は自分の主張を曲げないだろうし、話が平行線になることは目に見えている。
だから、とりあえず今はそのことは捨て置いて、ある程度は彼女の「設定」に“乗っかる”ことにする。
「死神さんって呼ぶのはちょっと抵抗があるんだけど、人間界で生活するに当たっての仮の名前とかはないのかな?」
「ありますよ。そういうことでしたら名乗っておきましょう。」
話の分かる子で助かった…。
「あ、でも名前を聞くなら先に名乗るのが礼儀だよね。僕は橘颯太。年は十七で高校二年生。颯太って呼んでくれていいよ」
「わたしの人としての名前は長谷川すもも。すももと呼んでください。年齢は人間に換算するならば十四歳なので…中学二年生でしょうか。」
『すもも』だなんて、ずいぶん可愛らしい名前の死神さんだ。
「よろしくね。すももちゃん」
「よろしくお願いします。颯太さん。」
「僕のことは呼び捨てでいいよ。年は僕の方が上だけど、さん付けなんて落ち着かないからさ」
「分かりました。よろしくお願いします。…颯太。」
呼び捨てにするのは恥ずかしかったのか、すももちゃんは少し顔を赤らめながらぺこりと頭を下げた。