05 ファミレスにて
1
「では早速ですが、まずはわたしのことをお話ししておきましょう。」
「ちょ、ちょっと待って」
「はい?」
「このタイミングで話し出すのは微妙じゃないかな」
「何故です?」
「何故って。…分からない?」
「分かりません。」
分からないかぁ。
「えっと、あくまで僕の意見ってだけなんだけどさ」
「はい。」
「席に着いて、注文も済ませてから話し出す方が自然だと思うんだよね」
僕たちが入ったファミレスは夕飯時ということもあって非常に混み合っていた。
入り口付近には「待ち」のお客さんも結構いる。
まあ、僕たちもその「待ち」の席に腰掛けているわけなんだけど…。
しかも僕と少女は隣同士ですらない。
間にちょこんと座っている小さな女の子が、僕の方を見て不思議そうに首を傾げていた。
普通この状況で“とても重要な話”はしないだろう…。
「鬼。―――あなたがそう言うのでしたら、わたしはそれでも構いません。」
さり気なくまた「鬼」と言われた気がするけど聞かなかったことにしておこう…。
2
三十分ほどしたところで席に案内された僕たちはテーブルを挟んで向かい合っていた。
店内には親子連れが多く、「あれやりたい!」とドリンクバーを指さす小さな女の子や、縦横無尽に駆け回っているわんぱくそうな男の子の姿があった。
人によっては不快に感じたりする光景かもしれないけど、僕は子供たちのそういう姿を見るのは嫌いではなかった。
未来の猫型ロボットをイメージキャラクターに起用しているこのファミレスは、子供の頃の僕にとって、この世で一番美味しいハンバーグが食べられる場所だった。
僕には子供たちがはしゃぎたくなる気持ちが分かるのだ。
せっかく来たのだから、今日は久しぶりにあのハンバーグの味に舌鼓を打つことにしよう。
「僕は注文決まってるけど、君は?」
「はい。わたしも決まっています。」
店員さんを呼ぶためのスイッチを押すと、ポンポーンという小気味の良い音が響いた。
「ちなみにわたし、今、お金を持っていませんので。」
「…へ?」
「必然的にあなたのおごりということになります。悪しからず。」
悪しからず。じゃないよ。
…そう思ったところで後の祭りだった。
光の速さでやってきた店員さんは手際よくオーダーを取り、風のように去っていった。
「君、本当に詐欺師とかじゃないんだろうね…」
「詐欺でも逆ナンでもないと言いました。」
いや、逆ナンは関係ないってば…。
僕の内心でのツッコミなど知る由もない少女が、早速、口火を切った。
「ノートを見たのであれば大体お分かりかと思いますが―――」
わたしは死神です。
3
―――って。
確かにノート見れば彼女が“自称”死神であることは察しがつくけど。
まさかこんなに大まじめに(不機嫌そうな顔は相変わらずだけど)それを主張してくるとは思わなかった。
「なるほど…」
―――としか言えなかった。
「………」
「………」
そのまましばらく沈黙していると、その間に料理が運ばれてきた。
無言で向かい合う男女―――しかも女の子の方は不機嫌そうな顔―――を見て、店員さんは陰で「別れ話をしている」なんて噂話をするのかもしれないな…。
僕は予定通り和風ハンバーグ。それとデザートにガトーショコラを頼んだ。
普段ならデザートは食後に持ってきてもらうのだけど、今回は『自称・死神少女』に合わせて、料理と一緒に持ってきてもらった。
ちなみに少女のオーダーは、キノコたっぷりオムライスとオニオングラタンスープ。デザートはイチゴパフェ。
うぃ、むっしゅ。
思わぬ散財だった…。