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だから僕は左目なんかいらない。  作者: 日暮 絵留
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23 メッセージ

         ※

『私の予想。

 きぃちゃんは、この手帳を颯太に読ませようとすると思う。

 そして、たぶん、颯太に託すんじゃないかな。

 そのときのために。

 颯太。

 あなたへのメッセージを残します。』


『このメッセージをすぐに見つからないようにしたのは、メッセージが発見されても、されなくてもいいように。

 もし仮に、先にきぃちゃんが発見していたとしたら凄い。

 そしたら、もちろん、きぃちゃんも読んでいいからね。

 でも、たぶん、それはないと思っています(ちょっと失礼?)

 予想が外れていたらごめんね(笑)』


 すももちゃんの予想はすべて完璧に的中している。

「発見されなくても」とは書いてあるけど、きっと、いずれ僕が発見することを信じていてくれたに違いない。

 発見までに十二年を要し、しかも偶然によるものだったなんて、我ながらちょっと情けないけど…。


         ※

『颯太。

 まずは「ごめんなさい」を言わせてください。

 そういうのは先に済ませてしまった方が後が楽ですからね…(笑)

 日記を読んだのなら分かると思いますが、私は颯太にいくつか嘘をついていました。

 私なりに精一杯のことをやったつもりですが、結果的に颯太を騙していたことは間違いありません。

 あなたの善意を利用してしまったこと、申し訳なく思っています。

 本当にごめんなさい。』


『これを読んでいるあなたは、おそらく、片方の視力を失っているでしょう…。

 他にも、心身ともに大きな傷を負ってしまったかもしれませんね…。

 私のやり方ではあなたを無傷で救うことができないのは分かっていました。

 しかし、私の知恵と、死神としての能力の低さから、他に妙案が思い浮かばなかったのです。

「許して下さい」とは言いません。

 でも謝らせて下さい。

 本当に、本当に、ごめんなさい。』


 すももちゃん。

 君が謝ることなんて、何一つないよ。

 だって、君がついた嘘は、すべて、僕を思ってくれてのことじゃないか。

 暴漢に襲われた記憶が消えなくたって。

 左目を失ったって。

 僕はこうして生きている。

 愛する人と一緒になって。

 充実した毎日を過ごしている。

 こんな幸せなことってないよ。

 そりゃあ、生きていれば嫌なことだって山ほどあるけどさ。

 そういうことも全部ひっくるめて「生きてる」ってことなんだ。

 僕は君に感謝しているんだ。

 あの夏祭りの日以降に僕がしてきたことの全部が、君のお陰で成り立っているものなんだよ。

 生きるために何かを失うのは仕方のないことで。

 それが僕の場合、左目だったってだけだから。

 だから。

 君が謝ることなんて、何一つない。


         ※

『颯太。

 私はあなたに感謝しています。

 だから、今度は「ありがとう」を言わせて下さい。

 私はあなたのお陰で死神として存在した最後の数ヶ月を、かけがえのない思い出で満たすことができました。

 幼い頃に人としての生を終えた私にとって、颯太たちと過ごした日々は喜びと驚きに満ち溢れ、「嬉しい気持ち」と「楽しい気持ち」がいっぱいでした。

「寂しい気持ち」や「辛い気持ち」「恥ずかしい気持ち」も、ちょっぴりあったけど、そういう気持ちだって、生きていれば必ず味わうものだし、必要なものだと私は思います。

 死神は生と死の狭間に存在する者ですが、あなたたちと過ごした時間だけは、私は間違いなく“こちら側の存在”として“生きて”いました。

 一緒に過ごせたのはとても短い期間でしたが、たくさん話をして、たくさん遊びましたね。

 そのすべてが、私の、最高の思い出です。』


 僕の方こそ。

 長谷川すももという「従兄妹」がいた夏は最高の思い出だよ。

 これから先、どんな素晴らしい夏が訪れたって、絶対に上回ることなんかできない。

 結衣や、いずれ授かるであろう子供と一緒に過ごす夏にだって負けやしないさ。

 まあ、それはそれで結衣たちに少し申し訳ない気もするけど…。

 でも、誰がなんと言ったって、君と過ごした時間は僕の一生の宝物だ。


         ※

『颯太にだけは正直に言います。


 私、本当は消えたくなんかない。


 生き返って、颯太や他のみんなとまた友達になって、一緒の時間を共有したいと思う。

 それができたら、どんなに素敵だろうって思う。


 迷惑かもしれないけど、また颯太の家にお泊まりしたいです。


 いつかみんなでボウリング対決をしましょう。

 颯太の足を引っ張らないように練習しておきますね。


 タカノさんが作ってくれた衣装を着るのが楽しみです。

 そのときは颯太も一緒に「こすぺれ」をするんですよ?

 そしてたくさん写真を撮りましょう。

 みんなの、特に、タカノさんの笑顔が目に浮かびます(笑)


 今度はちゃんとお祭りを楽しみたいな。

 ゆっくり花火を見たいな。


 他にもやりたいことなんて、言い出したらきりがありません。

 …だから、もっと生きていたかった。


 こんなことを言うと、颯太は自分に引け目を感じてしまうかもしれませんね。

 でも忘れないで下さい。

 私が望んだあなたの「生」はそのような後ろ向きなものなんかじゃないということを。

 死をいたんで一頻ひとしきり泣いてくれたのであれば、その後は、もう、涙はいらないです。

 いつまでも私のために泣いたりしないで下さい。

「私の代わりに」とまでは言いませんが、せめて、「私の分まで」笑顔で生きていって下さい。

 そしたら私は安心して消滅―――ではなく、きっと、天国に行けますから。』


 うん。約束する。

 僕は、もう、君のために泣いたりしない。

 いつだって笑顔でいるよ。

 君の分まで。笑顔でいるよ。

 でも、ふとしたときに君を想って泣いてしまうことはあるかもしれない。

 そのときだけは、どうか、大目に見てほしい…。


         ※

『実は一つだけ気がかりなことがあります。

 それは、私がいなくなった後、芹沢さんに頂いたストラップがどうなってしまうのかということです。

 その場に残るのかもしれませんし、蒸発してしまうのかもしれません。芹沢さんの手に戻る可能性もありますね。

 芹沢さんには申し訳ないですけど、私としては、蒸発してしまうのが一番いいと思っています。

 世界でたった一つの宝物を“向こう”に持って行けたってことのような気がしますから。』


 ストラップは見つかっていないから、きっと、彼女が持って行ったのだろう。

 僕はそう信じる。


         ※

『最後に一つ。

 颯太は不思議に感じているのではないですか?

 私が何故、見ず知らずのあなたたち二人のために生き返る権利を放棄したのか。


 それはね、


 私も初めてだったのです。

 あのときの人工呼吸が「ファーストキス」でした。


 そして、

 たったそれだけのことで、私は、颯太あなたに恋をしていたのです。』

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