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だから僕は左目なんかいらない。  作者: 日暮 絵留
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20 残る違和感

         1

「アンタが先輩のことを思い出してくれてよかったぜ…。先輩のこと、ずっと忘れねーでやってくれよな」

「うん。もちろんだよ。今度こそ忘れたりするもんか。絶対に」

「もう二度と会うこともねぇ―――とも言い切れねぇか…。アンタが死ぬときにアタシがまだ死神をやってたら、魂を回収しに来てやるよ」

「はは。僕はすももちゃんの分まで長生きするつもりだから、その頃にはきっと、君は生き返っているはずだよ」

「ああ。そうだな」

 野崎さんは「じゃあな」と淡泊な挨拶を残してカーテンの向こう側へと消えて行った。

 外からは相変わらず物音一つしない。

 彼女が張った結界みたいなものがまだ有効なのか。

 それとも単に就寝時間を過ぎているだけなのか。

 どちらにせよ、寝る前に少し考え事をしたいと思っていた僕にとっては好都合だった。


         2

 すももちゃんのことをすべて思い出した今、日記に記されていたことや、野崎さんが教えてくれたことを疑う余地はない。

 ただ、一つだけ、僕にはどうしても腑に落ちないことがあった。

 それは僕が日記を読み終えた後に抱いた“ある疑問”に対して、野崎さんが語った内容についてだ。


『結局、すももちゃんが生き返るチャンスを手放した理由っていうのが僕にはいまいち分からないんだけど…』

『マジかよ…』

『野崎さんは、すももちゃんから、なんて聞いてるの?』

『先輩は、アンタたち二人を犠牲にしてまで自分が生き返ることを良しとしなかったんだ。どっちも、その…悲惨な死に方だしな…。アタシに事情を話してくれたときの、先輩の苦しそうな表情は、忘れたくても忘れられねぇ…』


 僕は、このときは口を挟んだりはしなかったけど、内心では、こう思っていた。


『すももちゃんが“そのくらいのこと”で、生き返りの権利を自ら放棄するだろうか…』


 僕には彼女がそんなことで立ち止まるような死神ではないと思えてならないのだ。

 日記には悲惨な死の場面に慣れていってしまう自分の心に悩みつつも、目標に向かって突き進むという覚悟が綴られていた。

 そんな強い意志のもと、数年間に渡って死神としての責務を果たしてきた彼女が―――?

 今、正に、努力が実を結ぼうというときになって―――?

 たかだか二人の人間の悲惨な死を回避するために―――?

 …どうしてもしっくりこない。

 いくら考えてみても、すももちゃん本人が既に存在していない以上、答えが出るわけもない。

 それでも僕は往生際悪く考えることを止めなかった。

 考えて。考えて。

 考えた。

 やはり答えは分からない。

 そうしているうちに、だんだん、思考がまとまらなくなっていき―――

 僕は、いつの間にか、眠りについていた―――

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