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だから僕は左目なんかいらない。  作者: 日暮 絵留
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19 もう一つの未来

         ※

『颯太からの協力も得られることになったので、ここで一度、私の立てた計画についておさらいしておこう。』


『まず、私が生き返るために必要なことは二つ。

 一つ。

 近日中に命を落とすことになっている『橘颯太』の魂を回収すること。

 一つ。

 彼の死から数ヶ月後、友人であった『芹沢結衣』が自ら首を吊ること。

 自死という最期を迎えた魂はすぐに消滅してしまう。

 そしてその消滅した魂と引き替えに私の蘇りが果たされるのだ。』


 僕は衝撃を受けた。

 僕が見たノートの最後のページには確かに『芹沢結衣(16)』と書かれていたけど、一つ前のページの最後の行には『橘颯太(17)』と書かれていたというのだ。

 野崎さんの話では、あのノートは死に至る順番に名前が記されているわけではないらしい。

 偶然にも、芹沢さんの名前だけを見せられる状況だったため、すももちゃんはそれを利用して彼女の死期が迫っていることを僕に伝えたようだ。


『死神は、死期が近付いている生物の未来をある程度予知できる。

 颯太の死を回避できれば、芹沢さんの「死」も訪れない。

 颯太を救うこと自体はそこまで難しくはないとわたしは考えている。

 ただし「無傷で」というのは、ほぼ不可能に近い。

 かなり高い確率で大けがを負わせてしまうどころか、最初の一撃で左目を失明する未来を避ける方法が分からないのだ。

 命は助かっても、襲われたことに対する恐怖と、片目を失ったショックは、おそらく完全に消えることはないだろう。

 もしかしたら、私には想像もつかないような後遺症で、もっと辛い思いをさせてしまうかもしれない。

 それでも颯太には生きていてほしい。

 芹沢さんと共に。

 これは私のわがままだ。

 私は、そのわがままを、彼らに押しつける。』


 わがままなんかじゃないよ。

 すももちゃん。

 君のお陰で、僕も芹沢さんも、救われた。

 ありがとう。感謝してる。

 本当に。

 本当に。

 片目なんか失ったって、どうでもいい。

 心の底から感謝しているよ。

「もしアンタが先輩と出会ってなかったとしたら、あの花火大会の日、アンタはどうしてたと思う?」

「高野さんを探しに行ったりはしなかった」

 それは、すももちゃんにも言ったけど、まず間違いないと思う。

「アンタが捜索に加わらないことで、タカノって奴を見つけるのに時間がかかる。結果、アンタらは本来、もう少し帰る時間が遅くなるはずだったんだ」

 確かにあのとき、修二くんは言っていた。

「丸っきり逆を探すつもりだったから、相当時間がかかったかもしれない」と。

「当然、アンタが襲われる時間にもズレが生じるんだが…それは芹沢って奴を家に送り届けている途中なんだ。…つまり、二人揃って襲われる…」

 警邏けいら中の警察官に発見されることもなく、僕はそのまま命を落とす。

 芹沢さんはこの時点では身体的な外傷はほとんどなく、命に別状はない。

 ―――のだが、彼女は心の方に深刻な傷を負わされてしまう。数ヶ月後には精神に異常をきたし、自ら命を絶ってしまうほどの深刻な傷を。

 まず目の前で友人である僕が殺されるのだから、それだけでも十分なショックを受けるだろう。

 そして、彼女は、それ以上の苦痛を味わわされることになる。

 手帳にも詳細は書かれていないし、野崎さんもさすがにはっきりとは言わなかった。

 ただ、“被害者は主に女性”で“世間が思っている以上に身近”な“最も卑劣ひれつ醜悪しゅうあく”な「犯罪」だという手帳の表現や、野崎さんの口ぶり、そして芹沢さんが置かれた状況から考えても、彼女が性犯罪の被害に遭うのだということは間違いなかった。

“そっちの未来”のことは考えたくもないことだけど、一つ、引っかかったことがある。

「芹沢さんが亡くなるのは十六歳のうちだったんじゃ…」

「ノートに書かれている「死」は必ずしも「肉体の死」を意味しているとは限らねぇのさ…」

「…どういうこと?」

「「魂の死」ってのもあるんだよ。自死を選ぶほどに追い詰められているとき、大抵の場合は“魂は既に死んでる”のさ。…だから、自殺した奴の魂はその瞬間に消滅する」

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