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だから僕は左目なんかいらない。  作者: 日暮 絵留
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04 仏頂面の少女

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 僕と目が合った瞬間、仏頂面の少女がつかつかと歩み寄ってきた。

 明らかに年下の女の子を相手に僕は何故か「蛇に睨まれた蛙状態」だった。

 目の前までやってきた少女は不機嫌そうな表情を崩さないまま声をかけてきた。

「こんにちは。」

 真っ直ぐに僕をとらえたその瞳には、おそらく、少し怯えたような顔の僕が映っていることだろう…。

「こんにちは。」

 何も言わない(言えない)僕に、少女は同じ言葉を繰り返す。

「こ、こんにちは…」

 なんとか挨拶を返すも、依然、彼女の表情は変わらない。

「目が合ったのはやっぱり気のせいじゃなかったんですね。」

 少女に促され、公園の端っこの人目に付きにくい物陰へと移動する。

「持ってますよね。」

「えっ?」

 なんの前置きもなく言われて、一瞬なんのことだか本気で分からなかった。

「わたしのノート。」

「ノート? ノートって何?」

「ノートを知らないんですか。「ノート」というのは英語で「メモ書き」という意味ですが、わたしが言っているのは「ノートブック」、つまり「帳面」のことです。」

 いや、そういうことを聞きたかったわけじゃないんだけど…。

「持ってますよね。わたしのノート。」

 と言うか、そもそもノートを返すつもりで持ち主を探していたんだった…。

 だから、当然、持っている。

 でも、何故そこまで言い切れるのだろう?

 ノートは今バッグの中にあって、バッグのチャックはきちんと閉じてある。

 彼女には絶対に見えないはずだ。

 気になって、僕は聞いてみた。

「なんで僕が君のノートを持ってると思うの?」

「なんでって。…だって、さっきわたしと目が合ったじゃないですか。」

「確かに合ったけど」

「だから持っているに違いないんです。」

「それ、どういう理屈かな」

「中を見ましたよね。」

 会話の流れも何もあったものじゃないけど、少女はまたしても確信を持っているような言い方をする。

 僕は正直に答えた。

「うん。見た」

おに…」

“痛いノート”の中を見たくらいで鬼呼ばわりとは、なかなかにひどい。

「あなたに大事な話があります。」

「大事な話?」

「まずはゆっくりと話のできる場所に移動しましょう。…そうですね。ファミレスとかでいいですよ。」

「え、もしかして新手の詐欺か何かかな?」

「失礼なことを言わないでください。詐欺でも逆ナンでもありません。とても重要な話です。…とても。」

 逆ナンなんて一言も言ってないのに…。

 僕が内心で指摘している間に少女はさっさと歩き出してしまう。

「き、君、ちょっと待って」

「はい?」

「ここから一番近いファミレスは、あっち…」

 少女の進行方向とは正反対を指さしながら言った。

「そうですか。では参りましょう。」

 表情は相変わらず不機嫌なままだけど、心なしか頬が赤くなっている…ように見えなくもない。少し面白くて、つい、ジロジロと見てしまった。

「なんですか。」

「いや、別に…」

 少女はぷいとそっぽを向いて僕が示した方へと歩き出した。

 仕方ない。

 とりあえず行ってみることにしよう。

 少女の後を歩きながら、僕は、詐欺にだけは引っかからないようにしようと思った。

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