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だから僕は左目なんかいらない。  作者: 日暮 絵留
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18 よみがえる記憶

         ※

 泣かせた?

 僕が、すももちゃんを…?

 そんな…

 女の子を泣かせるなんて、男として一番やってはいけないことだ…。

 しかも彼女は僕にとって、

 大切な。

 とても大切な。


 “従兄妹”だったじゃないか!


そう思った瞬間、僕の脳裏に様々な情景が浮かんできた。


『目が合ったのはやっぱり気のせいじゃなかったんですね。』


『わたしは死神です。』


『すももと呼んでください。』


『お二人はとても立派です。十分、ヒーローですよ。』


『棒リング、楽しいですね!』


『手作りの、李の実…。わたしのために…。』


『死神の多くは“元は普通の人間です”』


『芹沢結衣さんの死の運命を覆すこと―――。それがわたしに課せられた最終試験です。』


『颯太にたくさんの感謝と、それと同じだけの謝罪をしたかったからです。』


『何かきっかけさえあれば思い出すこともあるかもしれませんね。』


 日記に書かれていること、

 夢の中で出会ったこと、

 それらの光景が―――脳内に甦った。

「全部…思い出した……」

 僕の言葉を受けて、野崎さんが一瞬表情を和らげた。

 ―――が、すぐに暗い顔になる。

「悪かったな…。辛い気持ちにさせちまってよ…」

「………」

 僕は涙を流していた。

「でも、アタシはどうしても嫌だったんだよ。アンタが先輩のことを忘れたままだなんて…。日記に書かれていること自体が無かったことにされちまうような気がしてさ…」

「うん。分かるよ…。僕も同じ気持ちだから。だから、ありがとう。野崎さん。彼女のことを思い出させてくれて」

「アタシはきっかけを与えただけだよ…。思い出すことができたのは、アンタが先輩のことを本当に大切に思っててくれたからだ」

「むしろ思い出せたことを誇りに思うべきだぜ?」と笑う野崎さんは(ちょっぴり言葉遣いが悪い)ごく普通の、女の子だった。

「日記の続きを読んでも…?」

「いいに決まってんだろ」

 そこで笑顔を止めた野崎さんが、「ただ、」と付け加えた。

「覚悟して読みな。その先に書かれていることは、アンタにとって、今まで以上に辛い内容かもしれないからな…」


         ※

 その後のページに綴られていたのは「きぃちゃん」という後輩(野崎さんのことだろう)と連携して、芹沢さんを見張る日々だった。

 そしてある日、僕が再び彼女を発見する。


『またこうして颯太と接することができるなんて夢にも思わなかった。

 本当に奇跡としか思えない。

 それだけで私の死神としての人生(?)は報われた。

 颯太に嫌われてしまったあの日から「仲違いしたお陰で最期の別れが楽になる」なんて自分を言い聞かせてきたけど、そんなのはやっぱり嘘だった。

 死神の姿を見られてしまったのは恥ずかしい(ある意味、裸以上のものを見られてしまった)けど、あの時もし、人間の姿をしていたら、どれだけ泣いていたか分からない。だから結果オーライ。』


『この手帳はきぃちゃんに託そうと思う。

 私が消えてしまった後の手帳の扱いについても彼女に一任します。

 最期まで色々振り回しちゃって申し訳ないけど、よろしくね。きぃちゃん。

 ここに書かれていることは、あなたの胸の中だけにしまい込んでおいてもいいと思うし、他の死神たちと共有するのもいいと思う。上級の死神に報告するのだって、あなたの自由です。

 どうか、好きに使ってください。』


「先輩。言われた通り、手帳はアタシの好きに使わせてもらいました。…つっても、アタシがこうすることは想定してたんじゃねーっすか…?」

 野崎さんの呟いたことはきっと当たっているだろう。

 なんとなくだけど、そう思った。

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