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だから僕は左目なんかいらない。  作者: 日暮 絵留
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14 入院生活と闖入者

         1

 目が覚めてから、早、数週間。

 さすがに病院での生活にも慣れてきた。

 リハビリの甲斐もあって、体を動かすのにはもうほとんど不自由はない。

 ただその副作用(?)として、昼間、リハビリの時間以外が暇過ぎる、というのが目下最大の課題だ。

 学校が終われば友達がプリントなどを届けるついでに見舞ってくれる。

 漫画雑誌やクロスワードパズルを持ってきてくれる気の利いた友達もいるけれど、それらも毎回すぐに読破してしまう。しかも、懸賞の当選者の氏名まで一字一句逃さないレベルで…。

 修二くんたちカップルと芹沢さんが来てくれる頻度がやはり一番高い。

 芹沢さんに至っては、ほぼ毎日顔を出してくれているほどだ。

 土日も長い時間いてくれるので話し相手としては非常に助かっているのだけど、付き合わせてしまって申し訳ないという気持ちもあった。

 どうやら彼女は「自分を送ってくれたせいだ」と責任を感じているようだった。

 そんなことはまったくないのだけど、僕がいくら言ってもなかなか引き下がってくれず、目が覚めてすぐの頃は少し気まずかったくらいだ。

 今は彼女なりに納得してくれたのか、少なくとも、あからさまな気の遣われ方はしていない。…と思う。

 それでもまだ、僕の顔―――特に左側を直視することははばかれるようだった。

 あの事件(と言っても、僕自身はほとんど覚えていないのだけど)で負った怪我のうち、左目だけは一生治らないものとなってしまった。

 眼球を失ったのだ。

 その事実を医師に告げられたとき、僕は自分でも驚くほど冷静だった。

 そりゃあ、片方だけとはいえ、失明したのだからショックはあった。

 でも何故か僕は“事前に覚悟ができていた”ような気がするのだ。

 その覚悟のお陰で精神的なダメージが最小限に済んだと言っていい。


         2

「じゃあね、颯太。また明日くるよ」

「うん。待ってる。今日もありがとう、芹沢さん」

 病室から出て行く芹沢さんと入れ違うようにして一人の女の子が入ってきた。

 病院にはあまり似つかわしくないパンキッシュな格好をした小柄な女の子だ。

 入院生活もそれなりに長いけど、たぶん、初めて見る子だと思う。

 ギターか何かのケースを担いでいるというのもあるけど、それがなくても、ショートウルフの黒髪と耳に並んだピアスがいかにもバンドガールといった印象だ。

 僕の関係者ではないけど、つい、目を向けてしまう。―――と、目が合ってしまった。

「あん?」

 柄悪い…。

 と言うか、めちゃくちゃ睨まれてるし…。

 どう考えても「今から貴方に難癖をつけますよ」という雰囲気でこちらにやってきた女の子は、僕の許可もなく、ベッドを仕切るカーテンを全閉ぜんへいした。

 そしてドスの利いた声(ではまったくないけど、おそらく本人はそのつもりなのだと思う)で、こんなことを言ってきた。

「おいっ。アンタが「颯太さん」か!?」

 ちなみに結構可愛らしい声だ。

 いきなり下の名前で呼ばれたことには多少驚いたけど、この子、近くで見ると全然迫力がない。…良い意味で。

 普通に可愛い顔をしているし、とても小柄なのだ。

 背伸びしたくて悪ぶっているのに、いまいちなり切れていないのが微笑ましい。

「さん付け」してる辺りとか微笑まし過ぎるだろう…。

 なんだか反抗期の妹みたいだ。

 いや、僕に妹なんていないけど。

 口ぶりからして初対面なのは間違いないけど、彼女は僕に用事がありそうだ。

「確かに僕は橘颯太だけど……君は?」

「んなこと、今はかんけーねぇだろうがっ」

 関係ないことはないんじゃないかなぁ…

 そう思ったけど、とりあえず変な口出しはしないでおいた。

「アタシの名前は『野崎木苺のさききいちご』。死神だ」

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