13 夢の中で
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夢を見ていた。
どこなのかもよく分からない真っ白な場所で、見たこともない女の子と“再会”する夢を。
僕は何故か、部屋同様の真っ白なベッドに横になっていて、起き上がることはできなかった。
ベッドのすぐ側に立つ女の子が声をかけてくる。
「お体の調子は如何ですか?」
僕にはその声がひどく懐かしいもののように思えた。
知らない子のはずなのに、夢の中だからだろう、自然と接することができた。
「うん。すこぶるいいよ。でもなんだろう…視界が狭いような気がする」
「それは顔の左半分に巻かれている包帯のせいではありませんか?」
「あ、本当だ」
手を添えてみると、確かにぐるぐる巻きにされていた。
見れば、添えた手の方にも巻かれている。
それどころか、体中が包帯とギプスで雁字搦めにされていた。
その状態を不思議に思っていると、女の子が教えてくれた。
「あなたは暴漢に襲われ、怪我をしたのです。命に関わるほどの大きな怪我ではありますが、警邏中の警察官に助けられたことで一命を取り留めたのです。」
言われてみればそんなことがあった気がしないでもない…。
でもはっきりとは思い出せなかった。
「今は夢の中なので、特に痛みもないと思いますし、こうして普通に会話をすることもできています。…ですが―――」
一瞬暗い顔を浮かべた女の子は、まるで自分のせいだとでも言うように教えてくれた。
「現実のあなたは、今、病院の一室で生死の境を彷徨っています。」
「えっ…僕、死んじゃうの?」
「いいえ。あくまで彷徨っているだけですから大丈夫です。この夢から覚めれば現実でも目を覚ましますのでご安心を。この死神が保証しますよ。」
とか言われても…初対面の、しかも夢の中の人の言うことだもんなぁ…。
いや、あれ?
すももちゃんとはこれが初対面なんだっけ…?
「私が今日、夢にお邪魔したのは他でもありません。あなたにたくさんの感謝と、それと同じだけの謝罪をしたかったからです。」
「僕に感謝? …と謝罪? 僕、君に何かしたっけ?」
「すみません。それを話している時間はないのです。」
「それじゃあ、何がなんだか分からないよ」
「それでいいのです。目が覚めれば、あなたはこの夢のことなど忘れてしまうのですから…。わたしの自己満足のために伝えておきたかった…ただそれだけのことなのです。」
「僕は忘れない。この夢のことも。すももちゃんのことも。絶対に忘れないよ…」
「そう言ってもらえるのは嬉しいのですが、おそらく難しいでしょう。」
「そんなことは…」
「ですが。あのとき、もう一度わたしを見つけてくれた颯太ならば、何かきっかけさえあれば思い出すこともあるかもしれませんね。」
「そういうことなら任せておいて。僕たちの絆を舐めたらいけないよ?」
「ふふ。それは“あの子”次第になりそうですが、わたしもあとは成り行きに委ねてみようと思います。」
「何? なんのこと? あの子って、誰?」
「颯太。聞いてください。運命などというものは案外簡単に変わってしまうものです。それこそ、誰もが知らず知らずのうちに、ほんの些細な行動一つで運命を左右しているほどに。」
「僕にはよく分からないけど、フィクションで聞くような、『バタフライ効果』とかの話?」
手っ取り早く言うなら、「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいなものだ。
「そう思ってもらって差し支えありません。」
「もし僕が高野さんを探しに行かなかったらどうなっていたの?」
「それはきっと知らない方がいいでしょう。」
「それでも聞かせてよ。君のお陰で掴めた「今」が、どれほど尊いものなのかを知っておきたいんだ」
少し逡巡したような様子を見せた女の子だったけど、もう一つの「今」の可能性を語ることはなかった。
「やはり止めておきましょう。あなたが知るべきことではないですから。…もっとも、ここで話さなくても、いずれ“現実世界の方で”知られてしまうかもしれませんが…。」
「それって、どういう―――」
質問しようとする僕の言葉が最後まで紡がれることはなかった。
何故か唐突に視界が不明瞭となり、意識が朦朧としてきたのだ。耳鳴りがひどく、他の音がよく聞こえない。
それでも、女の子が「どうやら目覚めるときがきたようですね。」と言ったのは分かった。
「さようなら。颯太。あなたに会えて本当に良かったです。」
そう聞こえたときには既に僕の意識は途切れる寸前で、自分がどこにいるのかさえも分からなくなっていた。
消える。
この世界から。
僕という存在が。
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完全に意識が無くなる直前、僕はもう一度だけ声を聞いた。
それは僕に対して発せられたものではなかったけど、確かに聞こえたんだ。
ありがとう。お兄ちゃん。
わたしはいつまでも
お兄ちゃんのことが大好きだよ―――




