03 ノートの持ち主
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翌日の放課後。
芹沢さんは友達と買い物に行くというので、僕は今日も一人で下校することになった。
そうでなくても「用事がある」と言って、一人で帰るつもりだったのだけど。
ノートの持ち主を探そうと思っていた。
あの後、散々迷った挙げ句にノートを返すことに決めたのだ。
持ち主がこのノートを取り戻したいと願っているかは分からないし、既に新しいノートでも買って『死神のノート②』にしている可能性だってある。
それでも、とにかく返そうと思ったのだ。
ただ、一口に「持ち主を探す」と言っても、そう簡単に見つかるとは思えなかった。
僕は駄目元でノートを拾った場所を中心に付近を歩き回ってみることにした。
―――数分後。
…見つけた。
「絶対、あの子だ」
ノートを拾った場所から目と鼻の先にある『天使の広場』という名前の公園に彼女はいた。
遠目でも分かるほど整った顔立ちにロングストレートの黒髪がよく似合っている。
目つきは少しキツい印象を受けるけど、間違いなく「美人」に属する女の子だ。
まあ、それ以上に、何故か思いっ切り不機嫌そうな仏頂面なので、折角の「美人」が台無しになっているけど…。
年は間違いなく僕より下だろう。
中学生か、下手をすれば小学校の高学年くらいでもおかしくないと思う。
黒いTシャツにジーパンという一見ラフな恰好だけど、Tシャツにでかでかとプリントされた「死神」という真っ赤な文字のお陰で残念な子にしか見えない…。
「大事なノートを探しています」と書かれたスケッチブックを両手で高々と掲げていることが、僕の探している人物であるということの決め手だった。
『天使の広場』に「死神」とプリントされたTシャツを着た仏頂面な女の子―――というのは、なかなかシュールな光景だった。
公園内を見回してみると、砂場やブランコで遊ぶ子供たちも、その親御さんと思しき大人たちも、犬の散歩をしているおじいさんも、散歩されている犬でさえ、少女のことはガン無視を貫いている。
僕は少女のことが少し不憫に思えてきた。
ただ、それでも、この空気の中で“あれ”に声をかけるような勇気も度胸も僕は持ち合わせていなかった。
このまま踵を返して立ち去ろうと思ったそのとき、
「うっ…」
彼女と目が合ってしまったことに、僕は思わずうめき声を漏らしていた。